遺留分侵害額請求
父が亡くなり、同居していた姉が、何の連絡も無しに全財産を相続。 公正証書遺言に書いてあったと言われれば、異議申立てはできないのでしょうか? そもそも、遺言書の内容は父の真意なのかどうなのか・・・ 姉への不信感が募ります。

- 相談者
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年代:40歳代(被相続人80歳代)性別:女性
A子さんの父は、A子さんの姉と同居していました。高齢でもあり、財産管理は姉に任されていたようです。その父が亡くなり、1年経っても姉から相続の連絡が無いので、不審に思ったA子さんが聞いてみると、父の公正証書遺言に従って、全部自分が相続したとのこと。 いくら、面倒をみていなかったとは言え、何ももらえないというのは腑に落ちない。それに父がそんな不公平なことをするとは信じられない、どうにかできないものか、と当事務所に相談にいらっしゃいました。
ご依頼者は、遺言の存在を知ってからすぐに弁護士に依頼されました。そこでまず、姉妹以外に相続人がいらっしゃらないか、相続関係を確定するため、お父様の戸籍謄本を誕生までさかのぼって収集することにしました。戸籍謄本は、2~3週間ほどで収集することができました。
相続関係を確定し、遺留分の割合を確定できたので、お姉様に遺留分侵害額請求を通知しました。時効期限内に意志表示をした証拠を残すために、内容証明郵便を、電子内容証明郵便で発送しました。併せて遺言書や財産関係の資料のコピーの送付も依頼しました。
公正証書遺言があるということなので、弁護士事務所の最寄りの公証人役場に行き、公正証書遺言の作成の有無と作成場所を特定しました。そこで、遺言が作成された公証人役場にコピーを依頼し、内容と作成日付を確認しました。
お姉様に財産関係の資料の送付を依頼し、同時に当方でも、財産関係調査に着手しました。
相手方相続人(この場合お姉様)が相続財産を明らかにする可能性もゼロではないのですが、経験から言えば、全てを開示されるケースは10%もありません。また、もし相手方から開示があっても、当方も財産関係を調査しておかないと、開示内容に誤りや漏れが無いかを確認することができません。特に預金口座の入出金履歴を開示してくるケースは非常に少なく(多くの場合、残高証明書の提示に止まります)、生前又は死後の不明朗な出金についても調査が必要です。
とりあえず、被相続人の住所地や勤務地近くの金融機関に照会をかけていき、預金口座の解明を進めました。
また、株式取引をしている可能性はないとのことでしたが、上場株式の調査と、生前に相続時精算課税制度による贈与をしていないかの調査もしていきました。
3か月ほど調査に時間をかけた結果、預金口座が複数存在することがわかり、また、逝去される直前に多額の出金があることも判明しました。
お父様が遺言を書くことができるだけの認知レベルがあったかを確認するため、主治医に面談し、カルテのコピーも依頼しました。 結局、認知症ではあるものの、認知レベルの低下がひどいものではないため、また、公正証書遺言ということもあって、遺言無効確認訴訟は提起しないということで、依頼者も納得されました。
調査の結果、相続財産は約2,000万円で、相続税は発生しないということがわかりました。
そこで、お姉様に対して、具体的な請求金額を記載した書面で請求したところ、すぐに弁護士を選任されたようで、弁護士から連絡がありました。その後は、弁護士同士で何回も交渉した結果、和解となりました。
もし相続税の発生が予想される場合には、相手方への請求と並行して、相続税申告書の作成も進める必要があります。申告期限は10か月です。
1. 遺留分減殺の期限1年にご注意。
遺留分侵害額請求は、相続開始や遺留分を侵害する遺言を知ってから1年以内に意思表示をする必要があります。
1年は、あっという間に経過してしまいますので、早めに遺留分侵害額請求の意思表示を書面で行う必要があります。なお、最初の意思表示は、具体的な請求金額まで記載する必要はなく、「遺言等により遺留分を侵害されているので減殺の意思表示をする」という簡単なもので問題ありません。
2. 意思表示は内容証明郵便で行います。
遺留分減殺の最初の意思表示は、民法上は、口頭でも可能ですが、後で争われないためにも、内容証明郵便で行うことをお勧めします。
なお、文案については、下記URLのページもご参照ください。
https://www.law-tachibana.jp/format/gensai.php
3. 財産調査・カルテ収集の必要性について。
遺留分侵害額請求の意思表示をすれば、相手方が勝手に財産を開示してくれる、開示するべきだ、と思われている方が意外に多い印象があります。勿論、親族同士ですので、相手方を信用するが故の思い・考えと推測されます。しかし、「4」弁護士に依頼して解決」の項でも述べましたが、経験的には、全てを開示されるケースは10%もなく、そもそも開示しないケースが60%、開示しても不十分(残高証明書のみ開示、複数の預金口座や証券口座の一部のみ開示など)というケースが30%強と思われます。
そのため、遺留分侵害額請求の意思表示をすれば、相手が進んで財産目録を開示してくると安心するのではなく、生前に被相続人から聞いていた取引内容などから、調査をしていく必要があります。
もっとも、一般の方がこの財産調査をするのは、かなり大変です。照会する相手方に対して、法務省発行の相続人の一覧図を提示しても、金融機関ごとに請求書の書式や要求される書類が微妙に異なるなどしているため、経験が無いと実際にはなかなか難しいと思われます。