英文契約書(多国籍企業とのコンサルティング契約)
多国籍企業と技術コンサルティングの契約を結ぶことになりました。「とりあえずサインして」と言われましたが…

- 相談者
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年代:30代
多国籍企業と技術コンサルティングの役務提供について契約を結ぶことになったA社。契約の際に「必要なので契約書を作成したが、形式だけのことなので、心配せずにとりあえずサインをしてください」と英文契約書を提示されました。英会話は得意な担当のMさんですが、英文、しかも契約書となると不安があります。念のために翻訳ソフトで確認すると、契約を結ぶにあたって協議してきた内容がまったく反映されていないようです。しかし、Mさんは具体的にどうやって詰めていけばいいのかわからない状況でした。そこで、英文契約書に詳しい弁護士に相談し、提示された契約書に対する内容変更の依頼や交渉について依頼することにしました。
海外企業が「形式だけのことなので、とりあえずサインをしてくれ」というのは、日本企業相手に使う常套文句です。日本の商慣習は信頼の文化であり、今も「相手のことを信頼していないみたいだから」と契約書を交わさないことも少なくありません。
しかし、海外にとっては、いざ不利益が生じたときに誰が損害を被るのかは、確かな言質を取っている契約書に頼ることになるため、契約書は非常に大きな意味を持ちます。日本人同士だから大丈夫だろうと思っていても、日本の外国法人も同様ですので油断はできません。英文であれ、日本語であれ、日本国内でも契約書重視の志向は高まっています。だからこそ、相手の言葉に惑わされず、契約書は契約書として、しっかりと読み込み、同意できるかどうか内容を判断する必要があります。
弁護士が契約書を確認したところ、契約上の大きな問題点は3つ見つかりました。
1点目は、これまで協議していた業務内容と対価の関係性がまったく反映されていなかったこと。A社と海外企業はこれまで何度も協議を繰り返し、「この業務に対していくらの金銭が発生する」という具体的な話もしていましたが、契約書には書かれておらず、それを反映させる内容を盛り込みました。
2点目は知的財産について。契約書では「技術提供を受けたものについて、A社が移転に同意したものとし、その技術を使った知的財産権は海外企業に帰属する」というものになっていました。それを承諾すると、A社はその国では当該企業の承認がなければ技術提供の権利が行使できなくなってしまいます。ですので「知的財産の帰属はA社のものであり、技術提供後も一切移転しない。その代わり、契約の範囲において当該企業の使用は認める」という内容に変更しました。
3点目は秘密情報の取り扱いについて。当該企業は多国籍企業なので、他の国にも会社があるため、契約書では他国でも情報をA社に無許可で頒布できるという内容になっていましたが、情報を頒布する際には毎回A社の承諾の許可を得るという内容にしました。
契約交渉のため、すべての条項に、A社が有利なように意見を入れますが、技術コンサルティング契約においては、この3つが核心的利益となるため、特に重視して意見を盛り込みました。最終的に、この3つの部分に関しては申し入れた内容が反映され、契約締結となりました。
海外の商慣習に合わせて、こちらも強気で交渉する
契約書重視の海外企業では自身の利益を最優先した契約書を提示してきます。そのため、こちらも日本企業同士では言いにくいようなことでも、契約交渉では最初はこちらも200%くらいでぶつけて、最終的には150%くらいで契約が締結できれば良いという気持ちで交渉を進めていくことが大事です。今回のケースに関しては技術コンサルティング契約ですので、知的財産権がもっとも重要な部分です。知的財産権は絶対に譲らない、使うのは許可します、という契約にすることが大切です。日本企業が強気に出ると、相手の海外企業は特に企業が大きくなればなるほど、抵抗されるし、妥協は一切認めないとする企業もあります。そのときのカウンターオファーも考えながら、契約書業務を行っています。日本の商慣習とはずいぶん違うので戸惑われることも多いと思いますが、不安な場合は海外の商慣習事情に明るい専門家に相談されることをおすすめします。