相続問題事例

04

相続放棄 ②

4年前に亡くなった父に届いたのは、20年以上昔の保証債務の督促状。
こんな昔の借金は時効にならないの?
担保提供していた自宅は今も母が住んでいるので手放すことにならないか、それも心配です。

相談者
年代:60歳代
属性:相続人(配偶者、子)

ご相談の経緯

Aさんの亡くなった父に、保証協会から督促状が届きました。
Aさんは、父がかなり昔、親戚の事業借入について保証し、自宅も、抵当権を設定して担保提供をしていたことを聞いた覚えがあります。しかし、借入した親戚は20年以上も前に破産しており、父も返済していたようには思えません。担保提供した自宅には、今もAさんの母が住んでいるので、自宅は手放さずに、この債務を逃れたいのだが、可能かどうか、可能ならどうすればいいか、というご相談で、当事務所にいらっしゃいました。

ご相談のポイント

1. 消滅時効の主張か相続放棄か?

借入契約の古さなどから、被相続人が負担する保証債務は時効になっている可能性が高かったのですが、確認せずにいきなり消滅時効を主張すると、次の様な問題が生じる危険性があります。
①消滅時効の主張は、自分が債務を相続しているという前提で行うものであるため、相続放棄と矛盾することになり、結果、「法定単純承認事由」に当たることになる可能性がある。
②10年以内に1円でも支払っていると、「債務承認(弁済)」となって、消滅時効の主張ができず、保証債務を負わなければならなくなる。
③時効が消滅していないと、保証債務が残ってしまう。
つまり、順番として、消滅時効の主張→相続放棄、はできないということになります。
かといって、相続放棄をすると、次の様な問題が生じる危険性があります。
④自宅を手に入れることができなくなる。
⑤保証債務が時効消滅していなかった場合には、被相続人であるお父様の兄弟姉妹が、保証債務を相続しなければならなくなる。

2. 消滅時効が成立しているかどうか

消滅時効期間を経過しているか、債務承認(弁済)がないか、を確認するために、すぐに保証協会に取引履歴の開示を求めましたが、開示には時間がかかるとのことで、督促状を受け取ってから3か月以内に、消滅時効を主張するか相続放棄するかを決めることが難しい状況でした。

◎消滅時効の援用と相続放棄は両立しない。
◎法定単純承認とは

ある一定の場合、意思表示をしなくても、当然、単純承認したものとして扱う法的制度です。ある一定の場合とは:相続人が、*相続財産の全部または一部を処分した場合。*相続開始を知った時から3か月以内に相続放棄又は限定承認の手続をしなかった場合。*相続財産の全部又は一部を隠匿、自分のために消費、悪意で相続財産目録に記載しなかった場合。

たちばな総合法律事務所に依頼された結果

1. 家庭裁判所に相続放棄の熟慮期間伸長を申立てました。

取引履歴の開示があるまで、まずは相続放棄の3か月(熟慮期間)の伸長をすることにして、家庭裁判所に「熟慮期間伸長の申立て」をしました(配偶者は自宅に居住していたこともあり、子のみについて申立てをしました)。
家庭裁判所からは、「自宅という財産の存在を認識していたので、熟慮期間の起算点は死亡時ではないか?」との釈明を求められましたが、相続登記が終わっていないことや、放棄する者は居住していないことを主張したところ、かなりのやり取りがあったものの、結果としてこちらの言い分が通り、熟慮期間の3か月の伸長が認められました。

2.保証協会へ消滅時効援用の意思表示をしました。

その後、取引履歴の開示を依頼していた保証協会から、過去10年以内の返済履歴はなかったという連絡が来たことから、消滅時効の主張ができることになり、保証協会に消滅時効援用の意思表示を行いました。

3. 遺産分割協議書作成、相続登記などを行い、解決しました。

配偶者の自宅が被相続人名義でしたので、配偶者が自宅を取得する内容の遺産分割協議書を作成しました。消滅時効援用の意思表示を受けた保証協会から、自宅の抵当権の抹消書類が来たので、弁護士が遺産分割協議による相続登記と抵当権の抹消登記申請をして、問題は解決しました。

解決までの流れ

平成10年
被相続人が保証かつ自宅を担保提供(抵当権設定)
平成12年
主債務者破産
平成15年
被相続人ご逝去
平成28年8月
保証協会から請求。すぐにご相談・ご依頼
平成28年8月
熟慮期間伸長申立
    
平成28年9月
3か月伸長決定
(家庭裁判所と何回かやり取りがありました)
平成28年11月
保証協会より10年以内の弁済履歴無しとの回答
平成28年11月
消滅時効援用の通知
平成28年12月
抵当権登記抹消書類受領
平成29年1月
遺産分割協議書作成・調印
平成29年4月
抵当権登記抹消登記、相続登記により所有権移転登記完了
    

弁護士からのコメント

1.相続放棄と消滅時効の援用は矛盾するので要注意です。

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も相続しないことを意味し、相続放棄した方は、被相続人の財産に関する行為(売却、預貯金の解約等)ができないことになります(財産価値を維持するための保存行為のみ許されます)。
一方で、消滅時効の援用は、被相続人本人にしかできない財産に関する行為と言えるので、相続放棄をする人が、同時に消滅時効の援用はできない可能性が高いのです。
そのため、消滅時効の援用と相続放棄の両方が考えられる場合には、どちらをとるか、慎重に判断する必要があり、場合によっては相続放棄のための熟慮期間伸長の申立も検討する必要があります。

2. 死亡から時間が経過していても、熟慮期間伸長や相続放棄が認められることがあります。

例えば、プラスの財産がほとんどなかったため相続手続(預金や不動産の名義変更手続)をしていない、生前に借金していた形跡が無いのに突然督促状が送られてきた、などの場合には、督促状を受け取ってから3か月以内に、相続放棄するか否か、熟慮期間伸長を申立てても、認められる場合があります。
もっとも、戸籍謄本や住民票除票の収集などで時間を要する場合があり、また、申立から受理まで2~3週間かかる場合もありますので、早めにご相談いただく必要があります。
被相続人の借金や保証に関する督促状が来た場合は、すぐに弁護士に相談されることをお勧めします。

3. 将来の相続のコストカットに配慮して相続登記も行いました。

この事例では、遺産分割協議や相続登記が未了でしたので、抵当権登記抹消と合わせて登記手続きも弁護士が代行しました。現在の権利関係と登記を一致させることで、将来の余計なコスト(相続人が死亡して相続人がどんどん増えていく場合、相続人の確定のための戸籍謄本収集のコストや交渉コストがかかります)を省略できますので、登記手続きまでして、一件落着となりました。

まとめ

時効消滅援用と相続放棄(熟慮期間伸長)とが絡むケースでしたが、順序だてて手続をクリアしていくことで、問題を解決することができました。
【手続の順序】
①熟慮期間の伸長申立て→②債権者への取引履歴開示依頼→③内容確認→④時効になっていれば、消滅時効援用の意思表示→⑤債務が残っていれば、相続放棄手続

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