相続放棄
兄弟で相続放棄することにしましたが実は、私だけ生前贈与を受けていました。
- 相談者
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年代:50歳代
Tさんの父親は生前、知人の保証人になっており多額の負債を作っていました。亡くなった後、子供たちが財産調査をしてみると、プラスの財産はなく、残ったのは保証債務だけでした。マイナス遺産を相続させられてはかなわないと、子供たちは相続放棄することにし、その内の1人であるTさんは、手続きのために当事務所へ来られました。
生前贈与を知られずに相続放棄したい、相続放棄しても相続税の申告は必要なのか 話を聞いてみると、Tさんは父の生存中に相続時精算課税制度を使って、まとまった額の生前贈与を受けていたことがわかりました。しかも、兄弟の中で生前贈与を受けていたのはTさんだけでした。生前贈与を受けていても相続放棄はできるのか、贈与された遺産についての「相続税時精算」の名前のとおり申告や納税が必要なのかについてのご相談でした。さらに、申告が必要な場合には他の兄弟に知られないように進めてほしいという条件もつけられました。
生前贈与を受けていても相続放棄はできます。Tさんは、父に借金があることを知らずに贈与を受けているので、違法性はなく、債権者に問題視される詐害行為には当たりません(2年以上前の贈与でしたので詐害行為取消権は時効消滅していました)。 相続放棄の手続きは滞りなく完了し、あとは相続税の申告を残すだけとなりました。
Tさんが相続時精算課税制度を使って受取った贈与金額は1,000万円ありましたが、税金に関しては、相続税の基礎控除額の範囲内だったので、1円も払う必要はありませんでしたが、相続税の申告は必要でした。というのも、相続税時精算課税に基づく贈与を受けた場合、相続放棄するなど相続財産を引き継がない場合も、贈与財産を相続時にもらったと仮定して相続税申告書を作成し、相続税を計算する必要があります(相続税時精算課税に基づく贈与に伴い贈与税を納付している場合には、相続税額から贈与税額を減算することになります)。
当事務所の弁護士が、申告書を作成し申告して手続は終了となりました。相続税申告は、それぞれの相続人が個々に申告するのが建前になっているため、Tさんが生前贈与のことを他の兄弟に伏せたままでいても、法律上では何の問題もありません。
弁護士が、税理士の資格も持ち合わせている当事務所の強みが生かして、相続放棄と相続税申告を行った案件でした。法務と税務の両面にわたる相続問題も私たちの得意とするところです。お気軽にご相談ください。
相続時精算課税制度は損にも、得にも
Tさんが利用した相続時精算課税制度とは、生前に2,500万円までの財産を一括して無税で贈与できる制度です(2,500万円を超える部分は20%の税率)。年間控除額が110万円の一般控除(暦年贈与)と比べると、その差は歴然。
相続財産があまり多くない人や、余命宣告を受けた後に相続させたい人は、この制度が有効活用できます。例えば、収益の得られる賃貸住宅をこの方法で子に贈与すると、家賃分が親に蓄積されず、子が取得するので、相続財産の増加を抑えることができ、相続税を抑えることが可能になります。
ただし、相続時精算課税制度を利用すると、一般控除(暦年贈与)は利用できなくなります。また、相続時精算課税による贈与時は無税であっても、相続時の税金申告では、生前贈与された財産が上乗せされて課税されるので、場合によっては相続税が高額になってしまうこともあります。
また、相続時精算課税による贈与は、財産の価額を贈与時点の価額に固定して相続税を計算することになるので、贈与した財産が後で値上がりしても、値上がり分について相続税が課税されることはありません。反対に、贈与後に不動産価値が下がると、相続時に値打ちのないものに高い相続税を払うことになってしまいます。そのため、値上がりが見込まれる不動産や株式などを贈与する場合には適した制度と言われています(実際のところ、将来の予想は難しいですが)。
相続放棄をしても、相続税申告が必要なケースも
基本的には、相続放棄すると相続税を申告する必要はありません。ただし、いくつかの例外があり、そのひとつが相続時精算課税制度を利用していた場合です。贈与された時点では非課税でも、相続時には贈与された財産を相続財産に加算して精算しなければなりません。相続放棄していても、このことに変わりはありませんし、相続放棄すると、通常より20%増しの税金を支払なければなりません。
Tさんのケースでは、贈与時も、相続時も金額が控除の枠内だったので納める税金はありませんでしたが、金額次第では納税の必要が生じます。手続きの際には、相続税申告の必要性の有無についても確認しておきましょう。