生前贈与・遺言作成
父(代表権のある会長)、娘(社長)で事業をしています。父には婚外子がいるのですが、会社の財産を渡したくないと考えています。なんとか婚外子に知られずに財産を移す方法はありませんか?
- 相談者
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年代:60代性別:男性
娘のTさんは、父が創業した社長として会社を切り盛りしています。Tさんは以前から父に婚外子がいることは知っていましたが、高齢になってきたこともあり、父の財産、特に会社の株式や会社建物の敷地が婚外子に渡ることに不安を感じ始めました。財産を最大限に守るためにはどうすればいいのか、お母様と一緒に当事務所に相談に来られました。
結論からいくと「絶対にバレない方法」はありませんが、「知られにくくする方法」はあります。
婚外子は法定相続人です。そのため、法律で定められた一定割合の遺産を請求する権利があります。お父様が亡くなられた場合に、婚外子の方に黙って財産を分割することは、その方の遺留分を侵害することになります。そのため、婚外子の方が「お父様が亡くなって10年以内」にその事実を知り、遺留分侵害額請求を行えば、Tさんたちは婚外子の方に遺留分に相当する金銭を支払わなければなりません。
遺言が自筆証書遺言だった場合、被相続人が死亡すると家庭裁判所で遺言書の検認手続を行う必要があり、その際には相続人全員に通知しなければなりませんので、当然相続人のひとりである婚外子の方にもお父様が亡くなったことは知られることになります。
では、どうすれば婚外子の方に「できるだけ知られずに」財産を分割できるのでしょうか。
まず、相談役であるお父様がお元気でいるうちに、名義を移し、株式の移転贈与を行いました(会社の支配権維持の関係から、株式は後継者のTさんのみが受贈しました。なお、税務上の問題については株価対策をしたうえで贈与することになりました。)。そして、それ以外の財産はできるだけ教育資金贈与などを活用して孫に分散させて贈与しておきます(孫との養子縁組も考えられましたが、孫の人数が多く、孫同士の平等性などを考慮して見送りました)。
生前贈与には、一般贈与と相続時精算課税贈与の2通りの方法がありますが、相続時精算課税贈与は婚外子の方に気づかれた場合、税務署に対して贈与税の申告内容の開示請求(相続税法第49条第1項の規定に基づく開示請求)を行うことで、贈与金額を照会することができてしまうので避けたほうがベターです。また、特別受益といって遺留分の対象となる多額の生前贈与は、あくまで推定相続人に対する贈与が対象であり、推定相続人ではない孫への贈与は特別受益になりません(なお、例外的な裁判例はあります)。
遺言については、検認手続きが必要な自筆証書遺言ではなく公正証書遺言をお勧めしました。公正証書遺言なら検認手続きは不要ですので、婚外子の方に知らせることなく、最短で亡くなって約2週間後以降から名義変更を行うことができます。そのまま10年間、婚外子の方がお父様の死に気づくことがなければ遺留分の請求権は消え、Tさんの希望が叶うことになります。
民法改正後の特別受益について
生前贈与に関しては2018年の民法改正により、2019年7月1日以降に死亡された被相続人の相続については、特別受益は被相続人が亡くなる前の10年間に限定されることとなりました。そのため、贈与してから10年後以降もお父様がご健在であるならば、相続時精算課税贈与でも一般贈与でも特別受益には当たりません。しかし、いつ亡くなるかはわかりませんので、今回は調査のしやすい相続時精算課税贈与ではなく、一般贈与で会社の権益を守ることになりました。
遺言の内容はこと細かに書かない
公正証書遺言の内容をこと細かに記載すると、その事実があったという証拠にもつながり、後々相続人同士の揉めごとに発展しがちです。今回のケースはあくまでも「できるだけ知られないように」財産分割を行う方法であって、「絶対に知られない」わけではありませんので、もし知られた場合に最小限の遺産分割で済むように遺言書には、財産内容を詳細に記載せずに、一切の財産を相続させるといった内容にまとめることをお勧めしました。