契約書(企業法務)
印刷業を営んでいます。営業担当が暴力団員と思われるお客さまから印刷物をうっかり受注してしまいました。どうにか納品する前に穏便に契約を破棄できないかと悩んでいます。
- 相談者
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性別:A社/製造業
印刷業を営んでいます。営業担当が暴力団員と思われるお客さまから印刷物をうっかり受注してしまいました。どうにか納品する前に穏便に契約を破棄できないかと悩んでいます。
Kさんは印刷会社の経営者です。ある日、営業担当の者から「暴力団と思われるお客さまから、いわゆる兄弟盃を取り交わす会に使用する印刷物をうっかり受注してしまった」と相談されました。反社会勢力との取引があったとなれば、官公庁や一般企業など他のクライアントからの信用を大きく失いかねません。とはいえ、一度受注したものを断るのも怖く、困ったKさんは弁護士に相談することにしました。
全都道府県で施行されている「暴力団排除条例」により、反社会勢力に対する利益供与は禁止されています。印刷物の納品も条例違反にあたり、罰則として事業者名の公表を招く可能性があります。また、官公庁や多くの企業は反社会勢力と関係する企業とは取引を行わないなどの暴力団排除条項を記載しており、発覚した時点で多くのクライアントを失う恐れがあります。さらに、金融機関にも暴力団排除条項があるため、場合によっては借入金の一括返済を求められたり、新たな借り入れすらも難しくなったりするケースもあります。
そのため、本来ならば契約を交わす前に取引先となる相手の素性を社内で十分に検討する必要があります。今回は、確認を怠った営業担当者が安易に受注してしまったという状況でした。
今回のケースのような業務委託契約は、本来ならば民法656条1項「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」とあるように、合意がなくとも一方的に解除することができます。契約の解除は口頭でも相手に伝われば有効ですので、電話でもかまいません。ただ、相手が反社会勢力である以上、後から難癖をつけられる可能性も考えられます。そうなった際の交渉で優位に立てるよう、お互い納得のうえ契約を解除したという実績をつくることが必要です。
今回は、夕方19時に連絡を受けて、電話での方針の決定(最寄りの警察署への連絡、翌日午前9時に弁護士が会社に行き、弁護士が依頼者に代わって相手方に連絡すること)を決定し、翌朝当事務所の弁護士が、相手方に電話をして交渉することで解約の合意を取り付け、無事解決することができました。従前からの顧問先で、顧問先会社の仕事の流れや代表者のお人柄を知っていたので、迅速に対応することができました。
コンプライアンスを強化し反社対策を
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(いわゆる暴力団対策法)では、指定暴力団員は相手方が受注を拒絶しているのに受注を強要することを禁止しています。そのため、発注を聞いた時点で発注者の所属と身分の提示を求めていたら、受注自体を拒否することができました。また、作業物の業務委託では、発注から受注までの間に作業物のサンプルを求めることも多々あり、サンプル確認時点でも拒絶することもできたでしょう。
加えて、今回のケースでは受発注時に契約書の取り交わしを行っていなかったのも良くありませんでした。通常、契約書には反社会勢力の排除に関する条項が含まれているので、契約書の取り交わしがあれば、仮に誤って受注してしまった後でも条項違反に基づく解約ができます。
反社会勢力との関係を持たないように、名刺交換の段階から反社チェックを行い、暴排条項を含めた契約書をきちんと交わすなどコンプライアンス強化が望まれます。