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LGBTの遺産相続問題

私には、現在交際中の同性のパートナーがいます。自分が亡くなった場合、パートナーが法律上の制約で不利な扱いを受けることなく遺産相続できるようにしてあげたい。どうしたらよいでしょうか?

相談者
年代:50代

ご相談の経緯

同性のパートナーに相続させたい

ご相談者の男性はいわゆるLGBT(性的少数者)で、現在交際中の同性のパートナーがおられました。同性婚が認められていない日本の法律の現状を踏まえた上で、自分が亡くなった場合、パートナーが法律上の制約で不利な扱いを受けることなく遺産相続できるようにしてあげたい。そのためにも若くて元気な今の内に、自分の意志を示しておきたいというご相談でした。
当事務所におけるLGBTの方からの相続相談は初めての経験でしたが、お話を伺った結果、法律の力でお二人を応援したいと思い、手続きを進めました。

ご相談のポイント

同性婚の相手には相続権がない

現行の民法は同性のカップルを正式な夫婦として認めていません。LGBTだけではなく、実生活では夫婦であっても、内縁関係等にある事実婚も含め、法律上の婚姻届けを出していないカップルはすべて同じです。法的に認められていないということは、配偶者としての相続権もないということになります。被相続人(遺産を残す側。ご相談者)にどんな思いがあったとしても、生前に何も手続きをしないままでいると、遺産はパートナーではなく、法定相続人(このケースの場合は親)の手に渡ってしまいます。

法定相続人であっても、親には残したくない

ご相談の背景には家庭の事情もありました。ご本人には存命中の両親がおられましたが、かねてから両親とは折り合いが悪く、親の側が子供に対して依存心が強かったこともあって、自分の財産は親ではなく、パートナーに残したいとお考えでした。

たちばな総合法律事務所に依頼された結果

法定相続人以外でも相続は可能

配偶者に相続権がない場合でも、被相続人が生前に対策を講じておけば、残したいと思う相手に財産を相続させることができます。法定相続人でない相手のための手続きには、二つの方法があります。一つは遺言書作成、もう一つは養子縁組です。
それぞれにメリットとデメリットがありますが、ご相談者は先々のことまでを考えて、遺言書を作るほうを選ばれました。そこで、私たちはご本人の意志を尊重し、有効な遺言書の作成に取りかかりました。

法的効力の高い公正証書遺言を作成

遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、ご相談者は、手続きには費用やテマがかかるものの、最も確実で、法的にも有効性の高い公正証書遺言を選ばれました。また、自筆証書遺言の場合には、検認手続が必要で両親にパートナーの存在や遺言の内容が知られるほか、両親からの遺留分侵害額請求のきっかけになる恐れがあります。しかし、公正証書遺言の場合には検認手続をスキップすることができますので両親に知られることなく財産を相続させることができることから、居住不動産についてパートナーが相続した後にすぐに売却するなどして生活の糧にしやすいということを重視されました。
相続の対象となる財産は居住不動産(居住中のマンション)であり、複雑な利権がからむような家族関係もなかったので、手続きはスムーズに進行しました。
ご本人の協力を得て必要書類を取り寄せ、登記簿謄本や固定資産評価証明書を添えると、準備は完了。あとはご相談者とともに、証人2人として弁護士と弁護士事務所の職員が公証人役場に出向いて手続きをして、公正証書遺言が完成。
ご相談から遺言書を手にするまでにかかった日数は、わずか1ヵ月未満。スピード解決が得られたことでご相談者は満足され、私たちもお二人の将来にエールを送りました。

弁護士からのコメント

相続権のない遺族に残したいなら、遺言書作成か、養子縁組を

相続においては、法定相続人の権利が最優先されることが民法で決められています。けれども、現実にはこのケースのように、被相続人が法定相続人以外の人に財産を残したいと望むケースも少なくありません。そのための生前対策が遺言書作成と養子縁組です。

遺言書があれば故人の遺志は尊重される。ただし、トラブルも…

遺言書は被相続人の意思表示であり、公正証書遺言のように正式に作られた遺言書には法的な効力もあります。しかし、その一方で、遺言書は作成した後で変更することができます。後になって気が変わったから…と撤回し、なかったことにもできるのです。
法的に有効とされた遺言書に示された故人の遺志は尊重されますが、法定相続人である他の遺族の遺留分を侵害するような内容だと訴訟を起こされる可能性があり、場合によっては遺言書通りの遺産を受け取れないこともあります。

養子縁組なら確実。ただし、関係がこじれると解消は困難

養子縁組のほうは、被相続人が相続人より年上であることが大前提ですが、この条件に合っていれば、手続きをすることによって、血縁関係のない者同士が親子になることができます。当然、相続権も認められるので、いわゆる普通の親子と同様、養親は養子に相続させることができます。
その反面、もしも将来、関係に不和が生じるようなことが起きると、いったん結んだ養子縁組は簡単には解消できません。結婚と同じで、家庭裁判所を通して離縁調停に持ち込むことになり、相手側が応じないと財産分与をめぐって争う可能性も生じます。

このケースのご相談者は、パートナーとの関係が将来こじれた場合のことも考えて、養子縁組ではなく、遺言書作成を選ばれました。不安材料として残る遺留分相殺についても、私たちは、法定相続人が親であったことから、子供の死後に高齢の親が遺留分を求める訴訟を起こすことは可能性が低い、また、公正証書遺言にすると親が亡くなったことにも気づかない可能性が高いと判断。法的効力のある遺言書が作成できたことで、お二人の信頼関係はより強固なものになりました。

まとめ

最近は、LGBTの方や外国人養子への相続など、現行の民法では対応しきれない事案が増えています。ご相談者は50歳代でしたが、先々のことを考えて、若い今のうちにはっきりとした意思を残しておこうと考えて相談に来られました。 

相続のことを考えるのに、年齢が若過ぎるということはありません。相続には法律がからみます。もしも、相続について気になることがおありなら、私たち、たちばな綜合法律事務所にお気軽にご相談ください。相続に関わる法務・税務全般に関わってきた豊富な経験を生かし、問題を解決へと導くお手伝いをさせていただきます。

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