逝去から3年経過後の相続放棄が認められた事例

2017.6.19

1 ご依頼の経緯など

 被相続人のお父様が亡くなられてから3年が経過していましたが、突然、ローン会社から督促状が届いたとのことでした(依頼者は30歳代、被相続人は70歳代でした)。
依頼者は、上記の督促状のとおり支払わないといけないのか、逝去してから3か月経過してしまっており相続放棄できるかということで相談にお見えになりました。

2 3か月経過後の相続放棄の問題点

 相続放棄ができる期間「3か月」の起算点は、原則として相続開始を知ってから(つまり、逝去を知ってから)ですが、死後しばらくして、借金の返済請求を受けた場合には、返済請求を受けてから3か月以内に相続放棄すればよいという裁判例があります(救済裁判例と言われています。なお、韓国民法では、上記のような事例では限定承認ができると規定されているようです)。
もっとも、家庭裁判所の実務として、3か月の起算点関する認定について慎重な態度で臨まれているようであり、①知った時期が逝去時ではなく、請求を受けた時点に関する証拠、②死亡した後にプラスの財産を相続していないこと(法定単純承認事由がないこと)に関する証拠について、提出を求められることがあります(審理に当たられる裁判官によって証拠の提出を求めるか否か、求めるとしてどこまでの証拠を提出しなければならないかについて濃淡があるように思われます)。
そのため、依頼時にも、裁判所から上記①と②の立証が求められることが予想されました。

3 弁護士に依頼することによる解決

 ①については、督促状の封筒にスタンプされた配送日に係る日付けで立証することができました。
問題は、②ですが、被相続人の預貯金通帳の取り寄せなどをして死亡後に出金がないか、あったとしても過去の裁判例から救済され得る程度の出金かを確認し、また、賃貸借契約書から敷金の相続が無いかを確認して、それらを証拠提出しました。
以上の証拠の提出のほかに、主張書面(提出証拠から法廷単純承認となる財産相続はなく、請求を受けて始めて債務を知ったと認定できる旨の意見書)を提出するなどした結果、相続放棄が認められました。
また、債権者に相続放棄の受理証明書のコピーを送り、請求(裁判)をしないということを確認しました。

4 時系列の流れ

平成25年    被相続人逝去
平成28年6月  ローン会社より請求、すぐにご相談・ご依頼
平成28年7月  相続放棄申述申立
平成28年8月  上記①と②に関する証拠の提出と主張書面を提出。
平成28年8月  相手方に受理証明のコピーを送付して事件終了。

5 コメント① 督促状が来たらすぐ相談を

 相続放棄をするには、戸籍謄本、除籍謄本、住民票除票などを収集する必要があり、時間はあっという間に経過してしまいます。
そのため、被相続人の借金や保証債務に関する督促状が届いたら、すぐに弁護士に相談して、相続放棄をするのか相談する必要があります。

6 コメント② 相続放棄が受理されても提訴されることも(まれに)あります

 逝去後3か月以内の相続放棄受理の場合には、提訴されても受理通知書を提出すればこと足ります。
しかし、逝去後3か月をかなり経過してから相続放棄の申述が受理された場合、借金の返還請求をする者は、「知った日」が督促状を受け取った日ではなく逝去時であるなどとして裁判を提起してくることがあります。
そのため、相続放棄をして相続放棄受理証明書を相手方に送っても、相手方が納得せずに提訴してくることもありますので、要注意です。相手方の属性、請求金額、督促状を出すまで期間が空いた理由、被相続人と相手方との関係性などを加味しながら、提訴される可能性も視野に入れつつ、上記の①と②に関する証拠を収集していく必要があります。
その上で、相手方に対し、相続放棄受理証明書を提示するのみならず、提訴しても相続放棄の抗弁が認められること、起算点について逝去したのを知った日ではなく督促状を受け取った日である旨の再抗弁が成り立たないことを、証拠を交えながら説明を要する事案もあります。

7 結論

 このように、逝去後3か月以内の相続放棄であれば起きなかった問題点が、逝去して3か月経過後に申し立てる相続放棄では色々な問題点が発生します。そのため、相続放棄をする場合には、可能であれば早目に判断する必要があります。

8 調査に時間がかかる場合は伸長申立を

 なお、もし調査に時間がかかりそうだという場合には、3か月の期間伸長の申立て(熟慮期間伸長申立)を行って、財産関係の他に借金関係についても調査をし、延長された期間にも調査が終わりそうになければ、さらに期間の伸長申立てをする必要があります。ただし。再延長、再々延長の申立ての場合には、どこまで調査をして、どこまでが調査未了かを具体的に申立書に記載して、審判官(裁判官)に納得してもらう必要があります。

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