遺産相続期限についての総合ガイド(永久保存版)

2024.12.10

ある日突然やってくる遺産相続は、相続人の範囲の確定や相続財産の把握など、一般の方にとって複雑で面倒な手続きです。
しかし、適切に期限までに手続きを行わないと権利を失ったり、ペナルティを受けることもあるため、相続手続きとその期限を知って理解することは非常に重要です。

遺産相続は、親族の方の死亡により発生します。
その際、まず遺言書の有無、負債を含めた相続財産の調査、相続人調査から始めます。

遺言書がない場合は遺産分割協議、資産よりも負債が多い場合には相続放棄、自営業者などで在った場合には準確定申告、相続税納付の対象となる場合には申告と納税、そして不動産の名義変更に至るまで、一連の手続きを適切な期限内に行う必要があります。

期限を逸脱すると様々な不利益やトラブルが生じる可能性があるため、事前の準備と計画的な進行が重要です。

本ガイドでは、遺産相続における重要な期限とそれぞれの手続きのポイントについて、詳しく解説します。
これにより、相続に関わる方々は必要な手続きを適切な時期に進めることができるようになります。

遺産相続における基礎知識

遺産相続は、多くの方は避けては通れない出来事です。
まずは、相続が発生するタイミング、相続人の特定や遺産の種類、法的な枠組みの知識、期限や手続き、税金問題などの基礎知識について詳しく解説します。

遺産相続が発生するタイミング

遺産相続が発生するタイミングは、一般的には被相続人の死亡時です。

相続により、被相続人が生前に保有していた財産や負債や地位が相続人に移ります。
たとえば、ある人が不動産や銀行預金を所有していた場合、その人が亡くなった時点で、それらの財産は法的に相続人へと移転します。

そして、被相続人の死亡日、死亡を知った時点が各種相続手続の期限をカウントするにあたっての起算点(スタート時点)となります。

参照ページ
『相続の開始』と『死亡届』
相続の開始と死亡届出、その後の手続きにかかるタイムスケジュールについて解説しています。

 

遺産相続の重要な期限(ダウンロードできる相続手続一覧表)
遺産相続は、予期せぬトラブルを避けるためにも、重要な期限を把握しておく必要があります。

遺産分割協議の期限、相続放棄の期限、所得税の準確定申告の期限、相続税の申告期限、事業を引き継ぐ場合の青色申告承認申請の期限など、さまざまな期限が存在し、これらを逃してしまうと、相続税の延滞税が課せられたり、相続放棄ができなくなったりする可能性があります。

計画的に進めることで、相続手続をスムーズに行うことが可能となります。

相続手続きの一覧

【7日以内】
 死亡届の提出と埋火葬許可証の取付け

通常は、葬儀会社が提出を代行し、骨壺とともに埋火葬許可証を受け取ります。
仏式の場合は、初七日をする場合もあります。
 
【10日以内】
 年金受給停止手続(国民年金は14日以内)と未支給年金申請

年金事務所で金の支給停止手続きを取ると同時に、未支給年金の申請をします。
 
【14日以内】
世帯主変更手続
 
【速やかに】
 ・介護保険被保険者証の返却、高額介護サービス費申請、
 ・後期高齢者医療被保険者証の返却
 ・葬祭費・高額療養費申請
 ・運転免許証の返納
 ・電気、ガス、水道、固定電話、NHKの解約・名義変更
 ・携帯電話の解約
 ・クレジットカードの利用停止手続
 ▼
【49日前後】
 仏式の場合は四十九日法要をする場合があります。

 

遺産分割協議の期限とその進め方

親族が亡くなられて、最初に到来する期限は「相続放棄の期限」です。

被相続人の死亡を知り、自身に相続が発生したことを知ってから3か月以内に相続するか、相続をしない(相続権を放棄する)かの判断をする必要があります。
そのため、被相続人の死亡を知った際には、次の3つの行動をとるようにします。

① 相続人調査

参照ページ┃「法定相続人の確認」

② 相続財産調査
参照ページ┃「相続財産の調査」
③ 遺言書の調査捜索

 

遺言書を残している場合、その遺言内容が優先されます。
そのため、被相続人死亡後に遺言書が残されていないかを確認します。

遺言書は、法務局や公証役場で保管されている場合があります。また、自宅に保管されている場合もありますので、被相続人の使用していた部屋の中は勿論、ベッド、枕など被相続人が起居していたところを重点的に確認する必要があります。

遺言書が本に挟まれていることはよくありますが、さらに枕と枕カバーの間に遺言書があった例、ベッドのマットレスの下から出てきた例もありますので、家の中をすべて探す必要があります。

なお、話し合いがある程度進んでから見つかる例もありますが、その場合には遺言書の隠匿とか、遺言書の偽造とかといった疑いをかけられることがありますので、四十九日が終わってからすぐにでも遺言書が無いか家の中を探したほうが良いでしょう。

相続後に照会を行うことができるため確認しておくようにしましょう。

 

 

参照ページ
『遺言書の確認』
遺言書の有無について調査する方法や家庭裁判所における自筆証書遺言の検認手続きについて解説しています。

 

遺言書や相続財産を調査する過程で、被相続人においてプラス財産よりもマイナス財産(負債;借金など)が多いことが判明する場合があります。
相続することで負債を負うことになりますので、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立を取ることになります。

3カ月以内では相続財産の調査の目途が立たない場合もよくありますが、その場合には、3カ月の熟慮期間の伸長申立てを行う必要がありますので、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合や財産調査に時間がかかる場合には、弁護士などの専門家に熟慮期間の伸長申立ての依頼をする方が良いでしょう。

参照ページ
『遺産分割協議』
遺産分割協議の進め方について解説しています。

 

 

【3か月】相続放棄の期限と手続き

 

相続が発生すると、基本的に被相続人の地位、権利などをそのまま承継します。
承継する内容には、借金といったマイナスの財産も含まれています。

面倒な相続関係から離脱したいケースや、資産を超える負債がある(債務超過)などのケースにおいて、相続人が相続放棄を選択する場合には期限内に家庭裁判所の相続放棄手続きが必要です。

相続放棄をするには、被相続人が亡くなり、相続開始を知った日(且つプラス・マイナスの相続財産があることを知った日)から計算して3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行わなければなりません。

期限を過ぎてしまうと、原則として放棄することができなくなるため注意が必要です。

手続きは、相続人が直接裁判所の窓口に申立書に必要書類を添えて提出するか郵送でおこないます。
相続放棄の申述が家庭裁判所に受理された時には、撤回することができません。
また、一部を相続、一部を放棄するといったことはできず、すべて相続権を放棄することになりますので注意が必要です。

そのため、相続放棄するかの判断のために、被相続人の相続財産調査を速やかに進めていく必要があります。

被相続人が亡くなり、ご自身に相続が発生したことを知ってから相続放棄の期限3か月までの期間を「熟慮期間」と言います。

この熟慮期間は家庭裁判所に「熟慮期間伸長」の手続きをとることで期限を延ばすことができます。
ただ、いつまで期限が伸びるかは裁判官の判断となりますので、完了した財産調査、今後どのような財産調査を予定しているか、見込まれる調査月数などある程度記載する必要があります。
また、伸長が認められた後でも、調査に時間がかかる場合には、さらに熟慮期間伸長申立てを検討することになります(ただし、調査に時間がかかっている点について合理的な理由が必要です。)。

参照ページ
『相続放棄』
相続放棄手続きについてくわしく解説しています。

 

なお、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ「限定承認」という手続きもあります。

ただ、相続人のひとりが単独でできる相続放棄と異なり、相続人全員で申立てする必要があり、手続きも煩雑であるためほぼ利用されていません(煩雑である点としては、①相続人全員で財産目録作成の上で申し立てをする点、②相続債権者等への催告、③不動産については限定承認の時点で売却したものとみなされて譲渡所得税が発生、④不動産は、原則競売で換価、不動産の取得を希望する場合には家裁が選任する不動産鑑定士の鑑定費用を負担したうえで、鑑定価額で一時に支払わなければならないなどです。限定承認制度は、相続人にとっては、費用の負担が重い割には、あまりメリットがない制度となっています。)。

この限定承認の期限も相続放棄と同じく、原則3か月以内です。

相続放棄の期限後の対策

相続放棄の期限を過ぎてしまった場合、原則として相続放棄することはできません。

相続放棄の期限経過後は、単純承認(相続するとの意思表示)をしたものとみなされます。

そのため、被相続人の債権者から返済等を求められた際には、それに応じる必要があります。ただし、3カ月の起算点は、①被相続人の死亡を知った日、②プラス・マイナスの相続財産があることを知った日のいずれか遅い日となります。そのため、死亡した親には財産がないと思って何も手続きをしてなかったら、祖父母が田舎に所有していた固定資産税や死亡した親の借金の督促が来たという場合には、督促を受けてから3カ月以内に相続放棄をする必要があります。

【4か月】準確定申告

被相続人が亡くなった年の所得税や消費税の確定申告を準確定申告と言います(1月1日から逝去日までに被相続人が稼いだ所得について申告をする必要があります)。

準確定申告をする必要が高い例としては、被相続人が直前までに不動産所得がある場合(賃貸アパート経営、駐車場経営などしていた場合)、事業所得がある場合(個人事業を営んでいた場合)があります。これらの場合には、1月1日から死亡日までの収入の金額と経費の金額を調査・確認して、所得税の準確定申告と納税をする必要があります。

このように、被相続人が自営業者であった場合などには相続人は、相続開始を知った翌日から4か月以内に準確定申告と納税を行う必要があります。

 準確定申告が【不要】なケース

☑ 給与所得者で年末調整しているケース
☑ 公的年金受給等の収入・受給金額400万円未満のケース
☑ 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下のケース

 

なお、上記以外に被相続人が確定申告によって還付金を受け取りができる場合には、準確定申告をおこないましょう(還付の申告は、法律上、死亡してから5年以内にする確定申告・還付を受ける必要があります。)。

翌年3月15日~共有となった収益不動産の確定申告

被相続人が収益不動産を残して死亡したときは、死亡日から12月31日(と遺産分割協議成立までの早い方)については、各相続人が収益と経費・費用を共有により取得したとして、それぞれが所得税の確定申告をする必要があります。翌年以降も分割ができない場合は同様に申告をする必要があります。

収益不動産の賃料収入や経費については、財産を独り占めして開示しない相続人もいます。その場合には、裁判手続きにより解明を目指す必要があるので弁護士に相談したほうが良いでしょう。

【5か月】後継者が代表権を有している(非上場株式の納税猶予の制度の利用する場合)

非上場株式の納税猶予の制度の利用する場合、後継者は、相続開始日の翌日から5過越以内に代表権を有する必要があります。

【8か月】円滑化法の認定申請(非上場株式の納税猶予の制度の利用する場合)

非上場株式の納税猶予の制度の利用する場合、円滑化法の認定申請を提出する必要があります。

参照リンク | 国税庁「確定申告が必要な方」
No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)

 

もし準確定申告を怠った場合、税務署から無申告加算税や延滞税などのペナルティの対象となる可能性があるため、注意が必要です。

もしも準確定申告に自信がない場合、従前顧問税理士に依頼されている場合には同税理士に依頼されると良いでしょう。

なお、相続放棄をしている相続人は、準確定申告をする必要はありません。

参考~税務関係届出、申告一覧

所得税関係

1 故人の廃業届(死後1か月以内)

2 相続人の開業届(死後1か月以内)

3 相続人の青色承認申請書

① 相続人が事業を営み、青色申告事業者である。
新たな青色承認申請書の提出不要。
① 相続人が事業を営んでいた
相続開始日の属する年の翌年3/15まで
② 相続人が事業を営んでいない、且つ被相続人が青色申告していた
相続開始日          青色承認申請の提出期限
1月1日~8月31日     死亡後4か月以内
9月1日~10月31日    12月31日(自動承認日)
11月1日~12月31日   翌年2月15日(自動承認日)
③ 相続人が事業を営んでいない、且つ被相続人が青色申告していない(白色)
事業承継した年の3月15日又は事業開始日から2か月以内

4 青色事業専従者給与に関する届出書(所得税法57条)

相続人の事業開始日        提出期限
1月1日~1月15日       死亡年の3月15日後4か月以内
1月16日~12月31日     死亡日から2か月以内

5 給与支払事務所等の開設届出書

1か月以内(所得税法230条、所得税法施行規則99条)

6 源泉納期特例承認届出書(給与受領者10人未満かつ源泉税納付半年ごと)

速やかに(所と久世奉216,217条)

7 所得税の減価償却資産の償却方法の届出書

その年分の確定申告期限(所得税法施行令100条、123条)

消費税関係

1 個人事業者の死亡届出書

2 納税義務の判定

相続の有った年
被相続人の基準期間(相続のあった年の前前年)の課税売上1000万円超
相続のあった年の翌年と翌々年
相続人と被相続人の基準期間の課税売上の合計で判定

2-1 消費税課税事業者届出書

速やかに

2-2 相続があったことにより課税事業者となる場合の付表

速やかに
なお、免税事業者である相続人が相続により課税事業者であった被相続人の事業を承継した場合、相続開始日の翌日から12月31日までの納税義務は免除されない。

3 消費税課税事業者選択届出書(相続年の課税事業選択。原則は前年12月31日。)

相続人             被相続人     選択届出書の提出期限
非事業者(相続開始以前)   選択届 有   相続開始日の属する課税期間の末日
無     選択不可
免税事業者(相続開始以前)  選択届 有   相続開始日の属する課税期間の末日
無      選択不可
課税事業者(相続開始以前)  選択届 有   相続開始日の属する課税期間の末日
無      選択不可

4 簡易課税制度選択届出書(相続年の課税事業選択。原則は前年12月31日。)

相続人            被相続人     選択届出書の提出期限
非事業者(相続開始以前)   選択届 有    相続開始日の属する課税期間の末日
無    相続開始日の属する課税期間の末日
免税事業者(相続開始以前)  選択届 有    相続開始日の属する課税期間の末日
無     選択不可
課税事業者(相続開始以前)  選択届 有     選択不可
無     選択不可

5 適格請求書発行事業者登録申請

相続開始日翌日から4カ月以内(消費税法57条の2第2項、消費税法施行令70条の2、消費税法基本通達1-7-4)

 

 

【10か月】相続税の申告期限と納税。申告期限後3年以内の分割見込書

相続人が財産を取得した際、相続税の申告と納税が必要になる場合があります。

相続税申告は、期限内で申告と納付を完了させる必要があります。

仮に、10カ月経過時点で、遺産分割がまとまらない場合には、法定相続分で相続したと仮定した相続税申告書を作成し、同申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付のうえで納税しなければなりません(これを出しておかないと、10カ月警護に遺産分割協議がまとまっても配偶者税額軽減制度や小規模宅地特例等の税額軽減の使用ができなくなります。)。

相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内と定められています。

この期限を超えて申告・納付をする場合、遅延によるペナルティである無申告加算税や延滞税が生じたり、受けられるはずの配偶者税額軽減制度や小規模宅地特例等の税額軽減の優遇税制の利用ができなくなるため、申告と合わせて速やかに最寄りの金融機関また所轄税務署において相続税を納めます。

また相続税は連帯納付義務です。

例えば、相続人である兄弟の相続税額がそれぞれ50万円である場合、弟が相続税の支払いをしないでいると、兄には受け取った相続財産の限度で連帯納付義務があるため、相続等により受けた利益の価格を限度に相続税を納税しなければなりません。

創業約100年の税理士法人を併設する当法律事務所では、法律と税務のトラブルをまとめてご相談、ご依頼いただけることに強みをもっています。

まとまらない遺産分割協議でお悩みの方はお気軽に無料相談をご利用ください。具体的なアドバイスをさせていただきます。

参照ページ
相続の基礎知識『相続税の申告・納付』
相続税申告・納付について、税理士実務をおこなう弁護士がくわしく解説しています。

 

 

申告に必要な書類と計算の基礎

相続税申告には被相続人の財産や債務、相続人の情報等を正確に記載します。そのため、申告書以外にそれらの情報を証明するための書類を添付します。

必要とされる書類には遺産の評価証明書、上場株式や預貯金の相続開始時点の残高証明書、不動産の登記簿謄本などの資産に関する資料や、葬儀代、被相続人が入院・入所していた病院・施設、公共料金の未払い費用の領収書といった負債に関する資料を収集し添付することで相続申告の基礎となる情報が補強されます。

正確な税額の計算には、財産の総額から法定の控除額を差し引いた上で、正確な税率を適用することがまず重要です。

基礎控除の額、つまり3000万円+(相続人の数×600万円)を遺産額から差し引きして計算する以外にも、ご状況に応じて受けられる税制上の優遇措置を検討し、適切に処理することで適正な相続税額が算出されます。

税金の軽減制度などが利用できなくなる

相続税の申告期限を過ぎてしまうと、税金の軽減制度が利用できなくなり、大きな負担を背負うことになるかもしれません。

国によって設定されている相続税の税額軽減策や控除の適用を受けるには、期限内に適切な手続きを完了させる必要があります。

例えば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例をはじめとする、相続税計算において利用可能な税額軽減措置がありますが、これらは期限内に申告することで初めて適用されます。

申告期限が過ぎてしまうと、これらの税額軽減措置を利用して税負担を軽減するチャンスを逃してしまうのです。

ただ、遺産分割協議がまとまらず期限内の相続税申告が難しい場合でも、一旦、民法で定められた法定相続分に従って相続財産を取得したものとして申告書を作成して納税します。

この際に「申告期限3年以内の分割見込書」と呼ばれる書類を併せて提出しておくことで、申告期限後に遺産分割協議ができた場合に配偶者の税額軽減制度や小規模宅地等の特例などの特定の適用を受けることができます。

このように、一般の方において対応が難しい相続税申告も当事務所では多数申告の実績がありますのでお気軽にお問い合わせください。

参照ページ
相続の基礎知識『相続税の申告・納付』
相続税申告の対象となるケース、期限、期限内申告が間に合いそうにない場合の対応方法、無申告の場合のペナルティなどについて弁護士・税理士が解説しています。

 

 

相続税の延滞税がかかる

相続税の申告期限を逃すと、延滞税だけでなく加算税がかかります。
また、相続税申告を放置するなど適切に処理していなかった場合、税務署による税務調査がおこなわれる可能性もあります。

相続税の分納や物納

相続税は、金銭で一括納付が原則です。

ただ、相続税額10万円以上で、金銭納付が困難な事情があれば、申請することで年払い(延納、分割払い)で納付することが認められる場合があります。

ただ、年払いによる延納は「納付を困難とする限度」で認められるもので、延納の申請には国債や土地などの担保を提供する必要があります。

また、この延納によっても相続税を納付することが困難な場合、納付困難な金額を限度として相続財産そのものによる物納ができます。

【1年】遺留分侵害額請求

遺留分(いりゅうぶん)は、被相続人の兄弟姉妹を除く相続人に法律上保障された権利で、遺言をもってしても奪うことができない一定割合の最低限の相続分です。

遺言書において法定相続分よりも少ない、相続分が全くなかった場合に遺留分侵害額請求をおこないます。

遺留分権利者は具体的に、①配偶者、②子ども(直系卑属)、③父母や祖父母など(直系尊属)になります。

この請求権を行使できる期間は、遺留分権利者が、相続の開始(被相続人の死亡)および遺留分を侵害する贈与または遺贈(遺言による贈与)があったことを知った時から一年間です。
また、被相続人が死亡してから10年経過すると遺留分侵害額請求権は消滅します。

なお、遺留分侵害額請求をおこなうためには、相続人調査により相続人の範囲を確定させて法定相続分を確認することや、侵害された相続の内容を把握するために相続財産調査をおこなう必要があり、専門家のアドバイスや協力を得てスムーズに段取りを進めていくことが必要になります。

請求期限があることから、まずは記録に残る内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をおこなっておき、それと同時進行で各種調査や裁判所に対する遺留分侵害額請求の申立準備を進めると良いでしょう。

遺留分のトラブルと合わせて問題となりやすい問題が「遺言書無効の争い」です。

特定の1人に有利な内容で書かれた遺言書に対して、被相続人の認知症に乗じて無理やり書かせたのか、偽造・変造などを疑う他の相続人からの相談も少なくありません。

こうしたことから、遺留分のトラブルは速やかに専門家へ相談し、適切な手続きを行うことが必要です。

参照ページ
『遺留分侵害額請求』
兄弟姉妹を除く相続人に最低限保障されている相続分である遺留分について解説しています。
参照コラム
『相続トラブルで多い「遺言書の無効を争う方法」を徹底解説』
知らぬ間に作成されていた遺言書について、作成時期に遺言者の認知能力に問題があるなど、遺言の効力を争うケースがあります。このコラムでは、遺言書の効力について詳しく解説しています。

【2年】高額療養費の請求

高額療養費とは、医療機関や薬局の窓口で支払った額が暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。

被相続人が高額療養費の受取をせずに死亡した場合、診療を受けた月の翌月の初日から2年以内に支給申請をしないと消滅します。

【3年】死亡保険金の請求

死亡保険金の請求は、故人が亡くなった日から3年以内に行う必要がある点を知っておくことが非常に重要です。

これは、民法に基づき、特段の定めがない限り、死亡保険金の請求権が発生してから3年が経過すると、時効によってその請求権が消滅するため、支払いを受けられなくなります。

具体的には、故人が亡くなった後に、保険金の存在を知らなかったり、その他の理由で請求手続きが遅れ、気づいた時には3年を超えてしまっているケースが見られます。

なお、かんぽ生命保険の保険金は、返戻金その他諸支払金を請求する権利は、行使しないまま5年間を過ぎると支払いを受けられなくなります。

このようにして、権利を失ってしまう事態を避けるためにも、死亡保険金の存在が明らかになった段階で、速やかに請求手続きに取りかかることが肝心です。

なお、生命保険契約の有無については、一般社団法人生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を利用することで、加入する保険会社から契約の有無を確認することができます。

【3年】相続登記の期限

相続が発生した際には、故人が所有していた不動産の名義変更を進める必要があります。

相続登記手続は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。(令和6年4月1日より以前に相続した不動産は令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。)

相続登記を放置するデメリットやリスクとして、①第三者にご自身の権利を主張できない(ことで不動産を失う可能性がある)、②相続不動産の所有者において更に相続が発生した場合、相続人が増えてしまうため将来的には遺産分割協議自体が複雑化する、③登記を怠ったことによる罰則や過料も課される可能性があります。

また、実際の所有者と登記上の所有者が異なるなど、権利関係の不明確さから、不動産の売却や利用に際して法的な障壁が発生する可能性があります。

期限内に登記手続きを進めるためには、必要な書類を早期に準備し、場合によっては専門家のアドバイスを仰ぐことが賢明です。

相続登記の義務化

2024年4月1日から、相続登記の義務化が施行されました。

この変更は、不動産の所有権移転を明確にし、不動産取引の安全を確保することを目的としています。

この法改正により、所有者不明の土地問題の解消が期待されています。

相続登記の期限は、原則として不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内です。

なお、この登記義務に違反した時には「過料」と呼ばれる10万円以下の罰金が科される可能性があります。

但し、相続人が極めて多数でその把握に時間を要する場合、相続人の間で遺産分割内容で揉めているため相続不動産の所有者が確定しない場合、相続登記義務者が重病であるなどの正当な理由があれば、過料は科されることはありません。

期限を逸脱した際の対応

遺産相続の手続きには様々な期限が設けられており、これを逸脱すると複雑な問題や権利の喪失といったトラブルに直面する可能性があります。

期限後の相続放棄の検討、遺産分割協議の遅延に対する解決策、相続税申告の遅れに伴うペナルティへの対処、そして未登記不動産の問題などについて、弁護士などの専門家に相談し、具体的な対応方法を理解することが重要です。

例えば、相続放棄の期限は「相続人の死亡とご自身に相続発生があったことを知った時から3か月」ですが、「相続人死亡時から3か月」と誤った知識と理解でいると実は期限内の相続放棄が可能であったにも関わらず、本来の相続放棄の期限さえも過ぎてしまい借金を背負うことにもなりかねません。

期限後の相続放棄の可能性

相続放棄は、相続が発生したことを知ってから3か月以内に行う必要があります。
しかし、期限後でも特別な事情が認められる場合は、相続放棄できる可能性はあります。

ただ、原則としては期限内に放棄をおこなう必要があり、期限内に手続きが間に合いそうもない時は家庭裁判所に対して、「熟慮期間の伸長」の申立手続きなど適切な対応をおこなうようにしましょう。

まとまらない遺産分割協議の解決策

まとまらない遺産分割協議を解決するためには、家庭裁判所の遺産分割調停により合意を目指すか、意見対立が激しい場合、弁護士を代理人に立てて協議を継続するなどの方法が考えられます。

家庭裁判所の調停手続きは、裁判官や調停委員が公平な立場から各相続人の主張を聞くことで、双方にとって受け入れ可能な遺産分割案を見つけ出すことが期待されます。

弁護士を介して問題解決を図る場合、その豊富な知識と経験を生かして複雑な相続問題も適切な解決がおこなえる可能性があります。

相続税申告遅延のペナルティ対策

相続税の申告と納税を期限内に完了させることができない場合、延滞税が課されるため、相続税の負担が増える可能性があります。

特に揉めている相続の税申告は、税理士が敬遠しがちです。

もめている共同相続人全員が同じ税理士に申告を依頼した場合、相続人の一方が税理士に申告書の開示を求めたら、税理士は応じる義務があります。

その結果、他方の相続人が自身より多く取得していた事実が明らかになれば、問題がこじれるばかりでなく、税理士は見せた側の相続にから「なぜ見せたんだ!」と逆恨みされる可能性もあります。

当事務所では、弁護士であり税理士をおこなっていることから、もめている相続の税申告に強みがあります。

ぜひ、もめている相続トラブルの相続税申告は当事務所までご相談ください。

参照ページ
『揉めている相続の相続税申告』
当事務所では、税理士実務をおこなう弁護士が「相続問題」に対応。税務、法務の両面から問題解決にあたっています。

未登記不動産の扱い

2024年4月1日より相続登記義務化がスタートしました。
なお、これよりも以前に相続している不動産についても登記義務化の対象となります。

相続登記義務化の対象となる権利は「所有権」のみで、登記手続きの義務がある人は「相続人」「遺贈(遺言による贈与)を受けた相続人などです。

通常、相続登記手続きは、相続人・相続財産・遺言書の有無の調査、遺言書がない場合の遺産分割協議、登記手続きの準備・作成・提出といった手間と時間がかかります。

こうした負担を軽減するため、相続不動産の所有者である被相続人の相続人であることが分かる戸籍謄本等を法務局に提出し申し出ることで相続登記義務を果たしたものとみなされる「相続人申告登記」の制度も始まりました。(相続人の申出だけで、登記申請の必要がありません)

ただし、これは一時的なもので、最終的に相続不動産を取得した場合には相続登記をおこなう必要があることに注意が必要です。

【3年10カ月】遺産分割調停申立て、相続税のやむを得ない事由の承認申請

遺産分割がまとまらない場合、相続税申告書に申告期限後3年以内の分割見込書を添付して提出しますが、3年経過してもまとまらないことはよくあります。

その場合には、無理に遺産分割協議を成立させるのではなく、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをし、かつ、死亡日から3年10か月を経過日の翌日から2カ月以内に所轄の税務署に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」と裁判所の受付印のある調停申立書のコピーを提出して、承認を受ける必要があります(通常は自動承認)。

これを怠ると、遺産分割調停や審判が成立しても、配偶者税額軽減や小規模宅地特例の適用が認められないことになります。

【協議・調停・審判後4カ月以内】相続税の修正申告・更正の請求など

法定申告期限後に遺産分割の協議が成立、調停・審判で解決したときは、4カ月以内に、相続税の納税額が増える方は修正申告、当初の申告の納税額が結果的に多かった方は更正の請求をする必要があります。なお、相続税の負担を織り込んで協議を成立させた場合には、2割加算者がいない場合には、申告不要です。

遺産相続期限の有効管理

遺産相続においては、多くの期限が設定されており、これらを逃すと、遺産を失うリスクや、予期せぬ法的問題が発生する可能性があります。

スムーズな相続手続きのためには、これらの期限を遵守し、適切な管理を行うことが不可欠です。

チェックリストと専門家の活用

遺産相続における期限管理には、チェックリストの作成が有効です。
遺産相続に伴うさまざまな手続きや期限が存在し、これらを一つ一つ確実に進めるためにはチェックリストが役立ちます。
チェックリストを使用することで、漏れや遅延を防ぎ、手続きがスムーズになります。

例えば、スマートフォンの予定表などを利用して相続放棄の期限、相続税の申告期限など、重要な日付をチェックリストに記入し、期限が近づいたらアラートが出るように設定することで期限を逸するリスクを低減できます。

また、相続手続きにおける複雑な問題や不明点が生じた場合は、専門家の知見と経験を活用することが重要です。
専門家は法律や税務の知識を有しており、遺産相続に関するさまざまな問題に対して効果的なアドバイスを提供することができます。

専門家に依頼することで、手続きの不備や誤りを未然に防ぐことが可能になります。

例えば、相続税の申告期限に間に合わせるためにどのような書類が必要かなど、期限管理から全て任せることができるため、税理士や弁護士などの専門家に依頼されることで、正確かつ迅速な手続きが可能になり、トラブルを回避できます。

相続手続きの計画的進行と早めの行動

相続手続きを進めるにあたり、計画的な進行と早めの行動が大切です。
相続手続きは複雑かつ時間を要する場合が多いですが、適切な計画とサポートを得ることで、手続きをスムーズに進めることができます。

例えば、相続税申告には、故人の財産の価値評価や必要な書類の準備といった、多くのステップがあり、時間がかかるためです。

たちばな総合法律事務所では、相続人の方に代わり、相続財産調査や被相続人名義の相続財産の名義変更手続きなど遺産整理サポート業務をおこなっています。

預貯金口座、株式などの解約・売却・換価処分といった面倒な手続きを代行もお任せください。

また、税理士法人も併設しておりますので、相続税申告の試算やそれに関わる財産評価などにも対応いたします。

相続トラブルや相続税申告に関する初回無料相談をおこなっていますので、ぜひお気軽に、当事務所までお問い合わせください。

遺言書が残されていない場合、相続人全員で遺産分割協議をおこないます。
遺産分割協議が成立した際には、後日トラブルとなることを防ぐために遺産分割協書を作成しておくことが一般的です。

期限内の合意には全相続人の協力が必須ですが、意見の対立がある場合、家庭裁判所へ遺産分割調停の申し立てが必要となることもあります。
まとまらない遺産分割協議については、専門家のアドバイスを早期に求めることで平穏な解決に繋がることがあります。

新たな相続が発生してしまう可能性がある

遺産分割協議を適切に行わない場合、未解決の疑問や不公平が残り、これが新たな相続の問題を引き起こす可能性があります。

たとえば、ある相続人が他の相続人に遺産の全体像を隠して独り占めし、利益を得たとします。
この事実が後から明らかになった場合、被相続人の遺産がすでに散逸していて、被害の回復が難しいことがあります。

また、遺産分割協議をおこなわないまま放置している間に、相続人が亡くなり、相続関係が複雑になり費用や手間が増える可能性があります。

たちばな総合法律事務所では、被相続人の財産の名義変更や処分などの遺産整理手続きやまとまらない遺産分割や相続税申告まで幅広い解決サポートをおこなっています。

相続に関する相談は初回無料です。
是非お気軽にお問い合わせ、ご相談ください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

遺産相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。