養子縁組の条件を徹底解説!普通養子縁組・特別養子縁組の違いから手続き・費用まで

2025.5.22

養子縁組の条件を徹底解説!普通養子縁組・特別養子縁組の違いから手続き・費用まで

養子縁組は、新たに家族を迎える手段として注目を集めています。
実親との関係がどうなるのか、費用はどのくらいかかるのかなど、気になるポイントは多いでしょう。
特に、どのような条件を満たせば養子を迎えることができるのか、具体的な情報を求めている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、法律事務所の視点から、養子縁組の条件を中心に、普通養子縁組と特別養子縁組の違い、具体的な手続きの流れや費用、独身者や共働き夫婦の場合、年収の目安など、養子縁組を検討する際に知っておくべき重要な情報を網羅的に、かつ分かりやすく解説します。

1. 養子縁組とは?制度の目的と法的効果


養子縁組とは、血縁関係のない者同士、あるいは血縁関係があっても親子関係にない者同士の間に、法律上の親子関係を創設する制度です
(民法第792条以下)。

この制度の主な目的は、子どもの福祉を最大限に尊重し、安定した家庭環境を提供することにあります。

養子縁組が成立すると、養親と養子の間には法律上の親子関係が生じ、扶養義務や相続権など、実の親子と同様の権利義務が発生します。
これにより、子どもは愛情豊かな家庭で養育される機会を得て、養親は子育てを通じて家族としての絆を深めることができます。

養子縁組には、大きく分けて「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があり、それぞれ要件や効果が異なります。
ご自身の状況や希望に応じて、どちらの制度が適しているかを理解することが重要です。

2. 養子縁組の基礎知識:普通養子縁組と特別養子縁組の違い

まずは、養子縁組の大きな分類である普通養子縁組と特別養子縁組の基本的な違いを知ることが大切です。

養子縁組とは、法的に親子関係を築く制度であり、社会的にも家族関係を安定させる大切な仕組みです。

普通養子縁組では実親とのつながりが残り、特別養子縁組では実親との関係を原則として終了させるなど、両者で法律的に大きな違いがあります。

普通養子縁組と特別養子縁組では、子に対する責任や相続制度にも影響が及びます。
実親や養親の同意が必要になるなど、要件も多岐にわたるため、まずは基礎的な情報を把握しておくことが重要です。

以下に、普通養子縁組と特別養子縁組の主な違いを表にまとめました。

ここでは、普通養子縁組と特別養子縁組の概要を整理するとともに、それぞれに求められる条件や手続き上のポイントについて押さえていきましょう。

3. 普通養子縁組の条件と特徴

普通養子縁組は、比較的柔軟な条件で利用できる養子縁組の形態です。

3.1. 普通養子縁組の特徴:実親との親子関係は継続


普通養子縁組では、実親との法的な親子関係は残り、新しい養親との親子関係が追加される
形となります。

これにより、子どもは実親と養親両方の相続人になる可能性があるため、相続面でも複数の関係が生じる点が大きな特徴です。
扶養義務についても、実親・養親双方が負うことになります。

手続きのハードルは特別養子縁組ほど高くはありませんが、未成年者を養子にする場合には家庭裁判所の許可が必要となります(民法第798条)。
ただし、自己又は配偶者の直系卑属と養子縁組をする場合は、この同意は不要です。(自分の孫と普通養子縁組をする場合、配偶者の子(連れ子)と養子縁組する場合)

また、配偶者がいる場合は、養子縁組をする際に配偶者の同意も求められる(民法第796条)など、いくつかの条件や配慮が必要です。
ただし、配偶者と共同して養子縁組をする場合は、この同意は不要です。

成人を養子にするケースでは家庭裁判所の許可は原則として不要で、当事者間の合意と役所への届出で成立するため、比較的簡易に行うことができますが、心理的・経済的な準備も含め、当事者同士で十分に話し合うことが大切です。

3.2. 普通養子縁組の具体的な条件

普通養子縁組にあたっては、以下の条件を満たす必要があります。

養親の条件

■ 成年者であること
 (民法第792条)。20歳以上であれば養親になることができます。

■ 養親は養子よりも年長者であること
 (民法第793条の解釈)。年齢が逆転している縁組は認められません。

■ 尊属(父母や祖父母など直系の目上の親族)または年長者を養子とすることはできません(民法第793条)。

■ 配偶者の同意・夫婦共同縁組
・配偶者のいる人が養親となる場合、原則として配偶者の同意が必要です(民法第796条)。ただし、配偶者とともに養子をする場合や、配偶者がその意思を表示することができない場合はこの限りではありません。
・配偶者のいる人が未成年者を養子とするには、原則として配偶者とともにしなければなりません(民法第795条第1項本文)。これを夫婦共同養子縁組の原則といいます。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合や、配偶者がその意思を表示することができない場合は、単独で養子とすることができます(同条第1項ただし書、第2項)。

 

養子の条件

■ 養親の尊属または年長者でないこと(民法第793条)。
年齢に上限はありません。

■ 15歳未満の場合
養子が15歳未満であるときは、その法定代理人(通常は親権者である実親)が代わりに縁組の承諾をします(代諾養子、民法第797条第1項)。

■ 15歳以上の場合
養子本人の意思で縁組をすることができます。未成年者であっても、15歳以上であれば法定代理人の同意は不要です(ただし、未成年者を養子にする場合は家庭裁判所の許可が必要)。

■ 実親の同意(養子が未成年者の場合)
養子が未成年者で、かつその子に父母以外の法定代理人がいない場合に、父母でその監護をすべき者(親権者など)の同意が必要です。
ただし、父母の一方が親権を喪失していたり、行方不明であるなど、同意が得られないことに正当な理由がある場合は、同意がなくても家庭裁判所が許可することがあります(民法第797条第2項参照)。

 

その他

■ 縁組の意思の合致
養親と養子(養子が15歳未満の場合は法定代理人)の双方に、真に親子関係を創設する意思があること。

■ 家庭裁判所の許可(未成年者を養子とする場合など)
未成年者を養子とする場合は、原則として家庭裁判所の許可が必要です(民法第798条本文)。
これは、子どもの福祉の観点から、縁組が子どもの利益に適合するかを裁判所が判断するためです。
ただし、自己または配偶者の直系卑属(子や孫など)を養子とする場合は、家庭裁判所の許可は不要です(同条ただし書)。
例えば、妻の連れ子を夫が養子にする場合などがこれにあたります。
・後見人が被後見人を養子とする場合も、家庭裁判所の許可が必要です(民法第794条)。

 

3.4.後見人が被後見人を養子にする場合の注意点


後見人が被後見人(未成年被後見人または成年被後見人)を養子とする場合は、家庭裁判所の許可が必要
です(民法第794条)。
これは、後見人がその地位を利用して、被後見人の利益に反する養子縁組を行うことを防ぐためです。

家庭裁判所は、養子縁組が被後見人の真意に基づくものか、被後見人の利益を害さないかなどを慎重に審査します。

特に成年被後見人の場合、縁組意思の確認が困難なケースもあり、手続きが複雑になる可能性があります。
必要書類も通常より増加する可能性があるので、事前に専門家(弁護士など)に相談し、情報収集をしっかり行いましょう。

4. 特別養子縁組の条件と特徴

特別養子縁組は、子どもの福祉を特に重視し、実親との法的な親子関係を原則として終了させ、養親との間に実の親子に近い安定した関係を築くことを目的とした制度です。

4.1. 特別養子縁組の特徴:実親との関係が原則として終了する

特別養子縁組は、子どもの利益を最優先に考え、実親との法的親子関係を原則として終了させるものです(民法第817条の9)。

これにより、養子は養親の嫡出子としての身分を取得し、戸籍上も実親との関係が分からないように配慮された記載となります。

例えば、戸籍の父母欄には養親の名前が記載され、続柄も「長男」「長女」などと記載されます。

養親と子どもの新しい関係を確立するために、普通養子縁組よりも厳しい条件と手続きが必要とされています。

実親の同意が原則として求められますが(民法第817条の6)、実親による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合で、かつ、父母がその同意を拒んだことが養子となる者の利益に著しく反するときなどは、同意がなくても特別養子縁組が認められる場合があります(同条ただし書)。

子どもの戸籍も大きく変化し、原則として実親とのあらゆる法律上のつながりが終了するため、養親のもとで新しい生活を送る環境をより完全に保護する制度といえます。

4.2. 特別養子縁組の具体的な条件

厳格に定められた特別養子縁組の条件をクリアするためには、以下の点を理解しておきましょう。

養親の条件
 配偶者のある者であること(夫婦であること)(民法第817条の3第1項)。法律上の婚姻関係にある夫婦が対象で、事実婚の場合は認められません。

■ 夫婦の一方が25歳以上、もう一方が20歳以上であること(民法第817条の4)。

■ 夫婦共同で養子縁組をすること(民法第817条の3第1項)。単独での縁組は原則できません。

 

養子の条件

■ 申立て時に原則として15歳未満であること(民法第817条の5第1項本文)。ただし、以下の例外があります。

・養子となる者が15歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されていること。
・15歳に達するまでに特別養子縁組の申立てができなかったやむを得ない事情があること。
・重要な要件として、実親による監護が著しく困難または不適当であること、その他子の利益のため特に必要があると認められること(民法第817条の7)。

 

実親の同意

・ 原則として、養子となる者の父母の同意が必要です(民法第817条の6本文)。
・ただし、父母がその意思を表示できない場合や、虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由があるにもかかわらず同意を拒否することが養子の利益に著しく反する場合には、同意がなくても家庭裁判所が審判をすることができます(同条ただし書)。

 

監護期間(試験養育期間)

・養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間監護した状況を考慮して、家庭裁判所が審判をします(民法第817条の8)。
この期間は「試験養育期間」とも呼ばれ、養親子の間の適合性や養育能力などを判断するために設けられています。
・この監護は、養子縁組の申立て前からのものでも構いません。

 

家庭裁判所の審判

・常に家庭裁判所の審判によって成立します(民法第817条の2)。裁判所は、上記の各条件を満たしているか、そして何よりも「子の利益」に合致するかを総合的に判断します。
・家庭裁判所の審判は大枠で2段階の審判構造になります
第1段階:実父母側に特別養子縁組を認める要件があるか否か=特に実父母の同意に関する事項です=実父母に養子となるべき者との間の世や子関係を断絶させてもよいか
第2段階;養子となるべき者と養親とのマッチングに関するものです
・家庭裁判所の調査官による詳細な調査(家庭訪問、養親候補者や関係者との面談など)が行われます。

 

4.3. 実親の同意と子の利益の考慮

特別養子縁組では、原則として実親の同意を得なければなりません
この同意が、家庭裁判所調査官の調査を経て書面でなされた場合又は審問期日になされた同意である場合には、2週間を経過すると撤回ができません

しかし、前述の通り、虐待などにより子どもの安全が脅かされている場合や、同意を拒否することが子の利益に著しく反する場合には、家庭裁判所が実親の同意なしで縁組を認めるケースがあります(民法第817条の6ただし書)。

手続き上はあくまで子の利益を最優先に判断されるため、養親となる夫婦が安定した生活と適切な愛情を提供できるかどうか、その資質が問われます。
子どもが安心して成長できる環境を整えることが最大のポイントです。

5.養子縁組の条件に関するよくある疑問:独身、共働き、年収、年齢制限など

養子縁組を検討する際に、ご自身の状況で養親になれるのか、具体的な条件について疑問を持つ方も多いでしょう。
ここでは、よくある疑問について解説します。

5.1. 独身でも養子縁組は可能か?


普通養子は独身でも養親になれます。
特別養子は独身では養親になることはできません。

■ 普通養子縁組の場合
独身者でも養親になることは可能です民法第792条で養親は「成年者」と規定されており、婚姻要件はありません)。
・ただし、未成年者を養子にする場合、単独で養親となることについて家庭裁判所が子の福祉の観点から慎重に審査する傾向があります。養育環境やサポート体制などが重視されるでしょう。

■ 特別養子縁組の場合
原則として夫婦共同でなければならず、独身者は養親になることができません(民法第817条の3第1項)。
これは、より安定した家庭環境を子どもに提供するという制度の趣旨に基づいています。

 

5.2. 共働き夫婦でも養子縁組は可能か? 年収の基準はあるのか?

特に共働きのご夫婦でも養子縁組は可能で、年収による制限はありません。

共働き夫婦の場合
・共働きであること自体が養子縁組の妨げになるわけではありません。重要なのは、子どもが安心して成長できる養育環境を整えられるかどうかです。
・夫婦で協力して育児をする意識、子どものための時間を確保できるかなど、具体的な育児体制が審査の際に考慮されることがあります。
夫婦の協力体制を具体的に示すことが大切です。

■ 年収の基準
法律で養親の年収について明確な基準額が定められているわけではありません
・しかし、子どもを安定して養育できる経済的基盤があることは重要な要素です。家庭裁判所や児童相談所、民間あっせん機関は、養親候補者の収入や資産状況、負債の有無などを確認し、経済的な安定性を評価します。
・単に高収入であれば良いというわけではなく、収入に見合った安定した生活を送っており、子どもを養育していく上で経済的な困窮に陥るリスクが低いと判断されることが重要です。

 

5.3. 養親の年齢に制限はあるのか?

普通養子に養親となれる年齢に制限はなく、特別養子の場合は養親となる夫婦の一方が25歳以上、他方が20歳以上という年齢制限があります。

■ 普通養子縁組の場合
法律上の上限年齢はありません。養親は成年者(20歳以上)であればよく、養子より年長者であれば問題ありません。
・ただし、未成年者を養子にする場合、養親の年齢があまりにも高いと、子どもの成人までの養育期間や健康面などが考慮され、家庭裁判所の判断に影響する可能性はあります。

■ 特別養子縁組の場合
養親となる夫婦の一方が25歳以上、他方が20歳以上という下限年齢はありますが(民法第817条の4)、法律上の上限年齢は定められていません。
・しかし、こちらも子どもの福祉の観点から、養親の年齢や健康状態、養育能力などが総合的に審査されます。
一般的には、子どもが成人するまでの期間を考慮し、養親がある程度若年であることが望ましいとされる傾向があります。

 

6. 養子縁組の手続きの流れ

養子縁組をスムーズに進めるためには、手続きの流れを正しく理解しておく必要があります。
普通養子縁組と特別養子縁組、また養子が未成年か成年かによって手続きは異なります。

6.1.養子縁組手続きの一般的なステップ

養子縁組の手続きについて次の流れになります。

① 相談・情報収集
まずは、養子縁組制度について詳しく知ることから始めます。
ご自身の状況や希望を伝え、どの養子縁組が適しているか、条件を満たしているかなどを確認します。

② 養親候補者としての登録・研修(あっせん機関を利用する場合)
民間あっせん機関を通じて養子縁組を行う場合、養親候補者としての登録や、養育に関する研修の受講が必要となることが一般的です。

③ マッチング(あっせん機関や児童相談所を通じての場合)
養親候補者と養子となる子どもとのマッチングが行われます。
子どもの状況や養親の希望などを考慮して、適切な組み合わせが検討されます。

④ 家庭裁判所への申立て(必要な場合)
■ 特別養子縁組の場合:常に家庭裁判所への審判申立てが必要です。
■ 普通養子縁組で未成年者を養子とする場合(自己または配偶者の直系卑属を除く): 家庭裁判所への許可審判申立てが必要です。
■ 普通養子縁組で後見人が被後見人を養子とする場合: 家庭裁判所への許可審判申立てが必要です。

申立先の家庭裁判所は、原則として養子となる者の住所地を管轄する家庭裁判所です。

⑤ 家庭裁判所の調査・審理
申立て後、家庭裁判所調査官が調査をしたり,裁判官が審問がおこなわれます。
裁判所は、これらの調査結果や提出された資料に基づき、縁組の許可または不許可(特別養子縁組の場合は成立または不成立)の審判をします。

⑥ 審判の確定と告知
審判が下されると、申立人などに告知されます。審判に不服がある場合は、一定期間内に即時抗告をすることができます。
審判が確定すると、家庭裁判所から審判書謄本及び確定証明書が発行されます。

⑦ 市区町村役場への届出
普通養子縁組の場合
・ 家庭裁判所の許可が不要な場合(成人養子など):
養子縁組届に必要事項を記入し、当事者および証人2名(成年者)の署名押印の上、市区町村役場に提出します。届出が受理された日に縁組の効力が発生します。
・ 家庭裁判所の許可が必要な場合:養子縁組届、審判書謄本及び確定証明書などを市区町村役場に提出します。
■ 特別養子縁組の場合
審判が確定した日から10日以内に、審判書謄本及び確定証明書を添付して、養子縁組届(特別養子縁組用)を市区町村役場に提出します。
届出先は、養親もしくは養子の本籍地、または届出人の所在地の市区町村役場です。

 

 6.2. 必要書類と提出時のチェックポイント

養子縁組の手続きには、主に以下の書類が必要となります。
具体的なケースや管轄の家庭裁判所、市区町村役場によって異なる場合がありますので、事前に必ず確認してください。

■ 市区町村役場への届出に必要な主な書類
✔ 養子縁組届(普通養子縁組用または特別養子縁組用)
✔ 当事者(養親・養子)の戸籍謄本(本籍地以外で届け出る場合)
✔ 届出人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
✔ 届出人の印鑑(認印で可の場合が多いですが、念のため確認)
✔(必要な場合)家庭裁判所の審判書謄本及び確定証明書
✔(養子または養親となる方に配偶者がいる場合)配偶者の同意書

 

■ 家庭裁判所への申立てに必要な主な書類(例:特別養子縁組申立)
✔ 申立書
✔ 養親となる者の戸籍謄本(全部事項証明書)
✔ 養子となる者の戸籍謄本(全部事項証明書)
✔ 実親の戸籍謄本(全部事項証明書)
✔ その他、家庭裁判所が指示する追加書類(例:生活状況に関する陳述書、写真など)

6.3. 里親制度との違い

養子縁組と似た制度に「里親制度」があります。

■ 里親制度との違い
里親制度は、さまざまな事情により家庭での養育が困難となった子どもを、一時的または継続的に自身の家庭で預かり養育する制度です。
法的な親子関係は発生しません。 子どもの戸籍は実親のまま残り、親権も原則として実親(または未成年後見人)にあります。
・里親には、養育里親、専門里親、養子縁組里親、親族里親などの種類があります。
このうち「養子縁組里親」は、将来的に養子縁組を希望する里親のことです。
・養子縁組が法的な親子関係を永続的に築くことを目的とするのに対し、里親制度(養子縁組里親を除く)は、あくまで子どもの社会的養護の一環として、家庭的な環境での養育を提供することを主眼としています。

■ 民間養子縁組あっせん機関との関わり
・ 養子縁組を希望する場合、児童相談所のほか、都道府県知事の許可を受けた民間あっせん機関に相談し、サポートを受けることができます。
・ これらの機関は、養親希望者と子どもとのマッチング、実親からの相談支援、養子縁組成立までの手続き支援、成立後のアフターケアなどを行います。
・ 機関によって、対象とする子どもの年齢層、養親の条件(年齢、宗教など)、費用、サポート内容などが異なります。複数の機関から情報を収集し、自分たちの育児方針や生活スタイルに合った信頼できる団体を選ぶことが重要です。
・ あっせん機関を利用する場合でも、特別養子縁組や未成年者の普通養子縁組の成立には、最終的に家庭裁判所の審判が必要です。

 

7. 養子縁組にかかる費用と支援制度

養子縁組を検討する上で、費用面も重要なポイントです。
どの程度の費用がかかるのか、また利用できる支援制度があるのかを知っておきましょう。

7.1.養子縁組にかかる費用の目安

養子縁組にかかる費用は、養子縁組の種類や、民間あっせん機関を利用するかどうか、弁護士などの専門家に依頼するかどうかによって大きく異なります。

■ 家庭裁判所での手続き費用
・ 申立手数料
収入印紙で納付します。
例えば、特別養子縁組の申立ては1件につき800円の収入印紙が必要です。養子縁組許可の申立ても同様です。

・ 連絡用の郵便切手代
数千円程度。家庭裁判所によって異なります。

・ 戸籍謄本などの書類取得費用
1通数百円程度。

・ 民間あっせん機関を利用する場合の費用
登録料、研修費、カウンセリング料、あっせん成立時の手数料などが発生することがあります。
機関やケースによって大きく変動します。事前に詳細な費用体系を確認することが不可欠です。

• 弁護士などの専門家に依頼する場合の費用
法律相談料、着手金、成功報酬、実費などがかかります。依頼する業務の範囲や難易度によって費用は異なります。
複雑な事案や、法的なサポートが必要な場合は、弁護士に依頼することで手続きをスムーズに進められるメリットがあります。

• その他
・ 養子を迎える準備のための費用(ベビー用品、子供部屋の準備など)。

普通養子縁組の場合で、家庭裁判所の許可が不要な成人養子などの場合は、役所への届出に関する実費(戸籍謄本取得費用など)程度で済むことがあります。

7.2.利用できる可能性のある公的支援制度

養子縁組家庭を支援するための公的制度がいくつかあります。
利用できる制度は、お住まいの自治体や養子縁組の形態によって異なるため、事前に確認しましょう。

 

■ 特別養子縁組成立前の支援
・ 里親制度における措置費等
特別養子縁組を前提として子どもを里親として受託した場合、里親手当や生活費、教育費などが国や自治体から支給されることがあります。

・ 民間あっせん機関利用料の助成
一部の自治体では、民間あっせん機関に支払った費用の一部を助成する制度を設けている場合があります。

• 養子縁組成立後の支援

児童手当: 養子も実子と同様に児童手当の支給対象となります。

・ 小児医療費助成制度
自治体による子どもの医療費助成制度も利用できます。

・ 養育支援
自治体によっては、養子縁組家庭への相談支援やペアレントトレーニングなどのプログラムを提供している場合があります。

その他、ひとり親家庭支援(養親がひとり親の場合)や、障害のある子を養育する場合の支援なども利用できる可能性があります。

 

8. 養子縁組のQ&A:よくある疑問と注意点

実際に養子縁組を検討する際に多くの方が抱く疑問や、手続き中・後の注意点をQ&A形式で解説します。

8.1. 相続はどうなる?相続税や戸籍への影響は?

相続権について

普通養子縁組の場合
養子は、養親の相続人になると同時に、実親の相続人としての地位も維持します(民法第809条、第887条第1項)。つまり、2つの家から相続を受ける権利を持つ可能性があります。

特別養子縁組の場合
実親との法的な親子関係が終了するため、原則として実親の財産を相続する権利はなくなります。養親との間では実子と同じ相続権を持ちます(民法第817条の9、第887条第1項)。
養子が先に死亡した場合、その養子に縁組後に出生した子がいれば、その子が代襲相続人となる点も実子の場合と同様です。

相続税について

養子も法定相続人に含まれるため、相続税の基礎控除額(3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)の計算上、法定相続人の数にカウントされます。これにより、基礎控除額が増え、結果として相続税額が軽減される可能性があります。
ただし、相続税法上、法定相続人の数に含めることができる養子の数には制限があります。被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとされています(相続税法第15条第2項)。
この制限は、主に節税目的の養子縁組を抑制するためのものです。
注意点として、相続税対策のみを主たる目的とした養子縁組は、税法上否認されたり、養子縁組自体が無効と判断されたりするリスクがあります。養子縁組は、あくまで真に親子関係を築く意思に基づいておこなうようにしましょう。

戸籍への影響

普通養子縁組の場合
養子は養親の戸籍に入ります(または養親が筆頭者の新しい戸籍が作られます)。
戸籍には、養親の氏名、養子縁組日とともに、実親の氏名も記載されます。続柄は「養子」または「養女」と記載されます。
養子の氏は、原則として養親の氏に変わります(民法第810条本文)。ただし、婚姻によって氏を改めた者が養親となる場合で、婚姻の際に定めた氏を称する間は、養子の氏は変わりません(同条ただし書)。

特別養子縁組の場合

養子は養親の戸籍に、実子と同様の形で入籍します。
戸籍の父母欄には養親の氏名が記載され、実親の氏名は記載されません。続柄も「長男」「二女」などと実子と同様に記載されます。
これにより、戸籍上は実親との関係が分からないよう配慮されています。これは、養子が養親の家庭に円満に溶け込み、安定した親子関係を築くことを目的としています。

これらの変更が将来的にどのような影響を及ぼすか、慎重に検討しましょう。

8.2.養子縁組の解消(離縁)と実親との関係は?

養子縁組は、一度成立すると永続的な親子関係を築くものですが、状況によっては解消(離縁)に至るケースもあります。

普通養子縁組の解消(離縁)

養親と養子(養子が15歳未満の場合はその離縁後の法定代理人)との協議により、離縁届を市区町村役場に提出することで解消できます(協議離縁、民法第811条)。
当事者間の協議が調わない場合や、一方の生死が不明な場合などは、家庭裁判所に離縁調停または離縁訴訟を申し立てることができます(裁判離縁、民法第814条)。
離縁が成立すると、養子縁組によって生じた養親子関係は終了し、養子の氏は原則として縁組前の氏に戻ります(民法第816条)。
離縁後も、実親との法的な親子関係は継続していたため、そのままです。

 特別養子縁組の解消(離縁)

原則として離縁は認められません。 これは、特別養子縁組が子の福祉のために実親子関係に代わる永続的な関係を築くことを目的としているためです。

ただし、極めて例外的な場合として、①養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があり、かつ、②実父母が相当の監護をすることができると認められるときに限り、養子、実父母または検察官の請求により、家庭裁判所が離縁をさせることができます(民法第817条の10第1項)。

この離縁は、養子の利益のために特に必要があると認められる場合に限られます。
特別養子縁組が離縁により解消されても、実親との法律上の親子関係は当然には復活しません。

離縁手続きを進めるには、家庭裁判所の関与が必要となるケースがほとんどです(協議離縁であっても養子が未成年者の場合は家庭裁判所の許可が必要な場合があります)。安易に手続きを行うのではなく、精神的な負担や子どもの将来を含めて慎重に検討する必要があります。

8.3. 養子となる子の年齢と意思の尊重は?

普通養子縁組の場合
養子が15歳未満の場合:法定代理人(通常は実親)が縁組の承諾をします(民法第797条第1項)。この際、家庭裁判所は子の意思を聴取するなどして、子の福祉に配慮します。
養子が15歳以上の場合:本人の意思で縁組をすることができます。

特別養子縁組の場合
申立て時に原則15歳未満であることが要件の一つですが、家庭裁判所は審判にあたり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を把握するよう努め、審判をするに当たり、その意思を考慮しなければならないとされています(家事事件手続法第153条、児童福祉法)。
養子となる者が15歳以上18歳未満で申立てが行われる例外的なケースでは、本人の同意が必須です(民法第817条の5第2項)。

いずれの養子縁組においても、手続きの過程で子の年齢や発達段階に応じた形でその意思が尊重されるべきであるという考え方が基本にあります。

8.4. 連れ子を養子にする場合の注意点は?

婚姻相手の連れ子と養子縁組をとらないと、連れ子との間に親子関係が発生することはありません。
そのため、再婚相手には親権はなく、遺産を相続することもありません。

8.5. 国際養子縁組とは?

日本国籍の者が外国籍の子を養子にする場合、または外国籍の者が日本国籍の子を養子にする場合は、国際養子縁組となります。この場合、日本の法律だけでなく、相手の国の法律も関わってきます。
準拠法の決定、ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)の適用の有無など、手続きが複雑になることが多いため、専門家(弁護士や国際養子縁組に詳しい機関)への相談が不可欠です。

9. まとめ:養子縁組の条件を理解し、安心して家族を迎えよう

普通養子縁組・特別養子縁組の違いや条件、費用面などをしっかりと把握して進めていくことが大切です。

養子縁組には、普通養子縁組・特別養子縁組それぞれで異なるメリットや要件があります。手続きの流れや必要書類、実親の同意などのポイントを理解することで、よりスムーズに準備を進めることが可能です。

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このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

遺産相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。