遺産相続で誰も何も言ってこない…放置は危険!理由と今すぐできる対処法を弁護士が徹底解説

2025.6.10

遺産相続で誰も何も言ってこない状況は危険です。放置すると、借金や税金、不動産登記の義務化による過料、遺留分侵害額請求権の時効など、多くのリスクがあります。この記事では、弁護士が考えられる理由から、相続放棄や相続税申告、遺産分割協議の方法、専門家への相談まで、具体的な対処法を分かりやすく解説します。

遺産相続で誰も何も言ってこない…
放置は危険!理由と今すぐできる対処法を弁護士が徹底解説

ご家族が亡くなられ、相続が開始したはずなのに、他の相続人から何の連絡もない…。
このような状況は、残されたご遺族にとって大きな不安や疑問を抱かせるものです。

何か隠されているのでは?」「自分だけ相続から外されているのでは?」といった疑念や、「手続きが進まないとどうなるのだろう?」といった焦りを感じる方もいらっしゃるでしょう。

特に、相続に関する詳しい知識がない場合、どう行動すべきか分からず、ただ時間だけが過ぎてしまうことも少なくありません。

相続手続きは、民法などの法律で定められたルールにしたがって進める必要があり、一定の期限が設けられているものも多く存在します。
何も言われないからといって放置してしまうと、気づかないうちに相続で不利な状況に陥ったり、ご自身の正当な権利を失ってしまったりするリスクも潜んでいます。

この記事では、遺産相続に詳しい弁護士が、他の相続人から連絡がない場合に考えられる理由、放置することの具体的なリスク、そしてご自身が今すぐ取るべき行動について、網羅的かつ分かりやすく解説します。

1. まずは相続の状況を確認!自分でできる初期調査

他の相続人からの連絡を待つだけでなく、まずはご自身で相続の状況を把握することが重要です。

相続が開始しているのか、誰が相続人なのか、どのような財産があるのか、といった基本的な情報を集めることから始めましょう。

相続手続きには、相続放棄や限定承認のように相続開始を知った時から3ヶ月以内(民法第915条第1項)という短い期限が設けられているものがあります。

また、相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です(相続税法第27条第1項)。
これらの期限を意識し、早期に状況を確認することが、ご自身の権利を守るための第一歩となります。

1-1. 被相続人の死亡の事実と時期を確認する

まず、相続の開始、つまり被相続人の死亡の事実と時期を公的な書類で確認します。
これは相続手続き全体の出発点となります。

― 戸籍謄本(除籍謄本)の取得
被相続人の最後の本籍地を管轄する市区町村役場で、被相続人の「死亡の記載のある戸籍謄本(または除籍謄本)」を取得します。
法的に死亡の事実とその日付が確認できます。

― 住民票の除票の取得
被相続人の最後の住所地を管轄する市区町村役場で、「住民票の除票」を取得します。
死亡時の住所地を確認できます。

 

これらの書類は、後の相続人調査や財産調査の第1歩となる重要な書類です。

1-2.誰が相続人なのかを確定する(相続人調査)

被相続人の死亡の事実を確認できた時には、次に誰が法的な相続人(法定相続人)となるのかを確定させる必要があります。

被相続人が遺言書を残していない場合、相続人全員で遺産分割協議をおこなうことになるため、またご自身の相続分などを確認するために欠かせないステップになります。

― 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取得

被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本を収集します。
これにより、配偶者の有無、子の有無、親の存否、兄弟姉妹の有無などが明らかになり、法的に誰が相続人となるのかが確定できます。

戸籍は結婚や転籍などにより複数の市区町村にまたがることが多いため、根気強く集める必要があります。

もし、先に亡くなっている子がいる場合は、その子に子(被相続人から見て孫)がいれば代襲相続(民法第887条第2項)が発生するため、その孫の戸籍謄本も必要になります。
兄弟姉妹が相続人となる場合で、先に亡くなっている兄弟姉妹がいる場合も同様に代襲相続(民法第889条第2項)を考慮します。

 

相続人の範囲と順位は民法で定められています(民法第887条、第889条、第890条)。

参照 法定相続人の範囲と順位
• 常に相続人となる者:配偶者
• 第1順位:子(子が既に死亡の場合は孫)
• 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など)
• 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡の場合は甥姪)

 

相続人調査は複雑で時間もかかるため、行政書士や弁護士などの専門家に依頼することも有効な手段です。

1-2-1. 家庭裁判所に相続放棄や限定承認の申述の有無を照会する


相続放棄が受理されると、その相続人は初めから相続人でなかったものとみなされます
(民法第939条)。
他の相続人が既に相続放棄や限定承認の手続きを家庭裁判所でおこなっている可能性も考慮し、照会をおこなうことがあります。

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を申請します。

これにより、ご自身以外の相続人が相続放棄等をしていないか、あるいはご自身が知らないうちに相続放棄の手続きが進められていないかなどを確認できます。

限定承認は、相続財産の範囲内で借金などを弁済する手続きです(民法第922条)。
この照会は、利害関係人(相続人など)であればおこなうことができます。

1-3.遺言書の有無を確認する

被相続人が遺言書を残している場合、原則としてその内容に従って遺産が分けられます。
遺言書の有無によって、その後の手続きが大きく変わるため、早期に確認することが重要です。

参照 遺言書の探し方(保管場所の例)
✅ 自宅や貸金庫などを探す
自筆証書遺言の場合、被相続人の自宅の仏壇、机の引き出し、貸金庫などに保管されている可能性があります。

✅ 公正証書遺言の検索
公正証書遺言の場合、原本が公証役場に保管されています。
平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、全国どこの公証役場からでも「遺言検索システム」を利用して照会することが可能です(相続人などの利害関係人に限ります)。

法務局における遺言書保管制度の利用確認
自筆証書遺言を法務局で保管する制度を利用していた場合は、法務局に照会します。

 

自筆証書遺言(法務局保管制度を利用していないもの)が見つかった場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です(民法第1004条第1項)。
封印された遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないとされています。

なお、知らないうちに他の相続人に有利な遺言書が残されており、その作成過程に疑問が残るような場合において、遺言書の無効を争うことができるケースがあります。
くわしくは、次のコラムをご参照ください。

 

1-4.相続財産の概要を把握する

どのような遺産があるのか、大まかにでも把握することが重要です。
プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も調査の対象となります。
特に、負債も相続の対象となるため、しっかりと調査することが大切です。

参照 代表的な相続財産

不動産
権利証(登記識別情報通知書)、固定資産税の納税通知書などから手がかりを得ます。名寄帳を市区町村役場(都税事務所)で取得することで、被相続人がその市区町村内に所有していた不動産の一覧を確認できます。

✅ 預貯金
郵便物や通帳、キャッシュカードなどから取引のあった金融機関を特定し、残高証明書や取引履歴の開示を請求します。
最後の住所地だけでなく、過去の居住地の周辺にある金融機関に対して照会をおこなってみるのも良いでしょう。
なお、金融機関は口座名義人の死亡を知ると口座を凍結するのが一般的です。
相続手続きが完了するまで、預金の引き出しや解約は原則としてできません。

✅ 有価証券(株式など)
証券会社からの取引報告書や配当金の通知書などを探します。
また、証券保管振替機構(ほふり)に相続人として照会をすることも可能です。ほふりからの回答をもとに各証券会社、信託銀行などに更に照会をおこなっていくことになります。

✅ 借金・負債
契約書、督促状、消費者金融のカードなどがないか確認します。
個人信用情報登録機関に情報開示を請求することも有効です(本人の死亡後、相続人が照会可能)。

 

財産調査は手間と時間がかかる作業であり、専門的な知識も必要となる場合があります。
弁護士に依頼すれば、相続人に代わってこれらの調査をおこなうことが可能です(弁護士法第23条の2に基づく照会など)。

2. なぜ連絡がない?考えられる主な理由と背景

他の相続人から連絡が一切ない場合、そこには様々な理由が考えられます。
単なる連絡不足というケースもあれば、意図的なものが隠れている可能性も否定できません。

2-1. 遺言書が存在し、特定の人に遺産を集中させる内容になっている

被相続人が「特定の相続人に全ての財産を相続させる」または「遺贈する」といった内容の有効な遺言書(公正証書遺言や自筆証書遺言など)を作成していた場合、遺言書の内容に従い、相続を受けた相続人だけで相続手続きをおこなっていることがあります。

なお、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)が選任されていれば、すべての相続人に対して遺言書があること、その内容について知らされることが一般的です。
とはいえ、遺言書が存在する場合でも、相続人全員にその存在と内容を知らせ、必要な手続き(遺言の検認など)を進めるのが本来は望ましい対応と言えます。

遺言書で財産を受け取る人が決まっている場合でも、他の相続人には遺留分(兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分、民法第1042条)を請求できる場合があります。

遺留分を侵害されていることを知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に遺留分侵害額請求を行う必要があります(民法第1048条)。

参照 遺言書が見つかったが、内容に納得がいかない場合(遺留分侵害など)の初動対応

✅ 遺言の有効性の確認
まず、遺言書が法的に有効なものか(自筆証書遺言の要件を満たしているか、偽造の疑いはないかなど)を確認します。

✅ 遺留分侵害額請求の検討
ご自身の遺留分が侵害されている場合は、遺留分侵害額請求を行います。
請求は、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。

✅ 弁護士への相談
遺言の有効性判断や、遺留分侵害額の計算、請求手続きについて弁護士に相談しましょう。

 

 

2-2. 相続財産を特定の相続人が独占・使い込んでいる

他の相続人に知らせずに、特定の相続人が被相続人の預貯金を引き出したり、不動産を自分のものにしようとしたりするなど、財産を不当に管理・処分している可能性があります。

被相続人の死亡後、遺産分割協議が成立する前に、一部の相続人が勝手に遺産を使い込んだ場合、他の相続人はその相続人に対して不当利得返還請求(民法第703条、第704条)や損害賠償請求ができる可能性があります。

このような場合、早急に財産調査を行い、不正な使い込みの証拠を確保することが重要です。

参照 他の相続人が遺産を隠している・使い込んでいる疑いがある場合の初動対応

✅ 証拠の保全
まずは、被相続人の預貯金通帳の取引履歴を過去数年分(可能であれば10年程度)取得し、不自然な出金がないか確認します。不動産の登記事項証明書を取得し、知らない間に名義変更されていないかなども確認します。

✅ 内容証明郵便での開示請求
他の相続人に対し、遺産の内容を開示するよう内容証明郵便で請求します。

✅ 弁護士への相談
証拠収集や、不当利得返還請求、損害賠償請求などの法的手続きについて、速やかに弁護士に相談しましょう。
当事務所でも、遺産の使い込みに関する相談、解決実績があり、初回無料相談も実施中です(電話相談対応)。

 

 

2-3. 他の相続人が相続手続きの知識がない、または多忙で放置している

相続手続きは複雑で、何から手をつけて良いかわからないという相続人は少なくありません。

また、仕事や家庭の事情で忙しく、手続きに着手できないまま時間が経過しているケースも考えられます。

特に相続人間が疎遠であったり、誰が主導して手続きを進めるのか決まっていなかったりする場合に起こりがちです。
この場合、こちらから積極的に連絡を取り、手続きの必要性を説明し、協力を求めることが解決の糸口になることがあります。

2-4. 相続財産がほとんどない、または借金の方が多い(マイナスの財産)

調査の結果、相続財産がほとんどない、あるいは借金などのマイナスの財産の方が多いことが判明した場合、他の相続人が相続放棄を検討している可能性があります。

先順位の相続人が、相続放棄をしたとしても家庭裁判所や相続人から「先順位の相続人が相続放棄をしたこと(相続権が移ったこと)」を知らされることはありません。

もし借金の方が多いのであれば、あなた自身も相続放棄や限定承認を検討する必要があります。
相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」であるため、注意が必要です。

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2-5.他の相続人もあなたからの連絡を待っている

お互いに「誰かが何かしてくれるだろう」「自分から連絡しにくい」と考えてしまい、結果として誰も行動を起こさないまま時間が過ぎてしまうケースもあります。
特に、普段からあまり交流のない親族間では起こりやすい状況です。

2-6.他の相続人が意図的に情報を隠している、またはあなたを相続から排除しようとしている

残念ながら、一部の相続人が自分に有利なように遺産分割を進めようとして、意図的に他の相続人に情報を与えない、あるいは連絡を無視するケースも存在します。

このような場合、知らない間に不利益な内容の遺産分割協議書が作成されたり、財産が処分されたりするリスクがあります。

 

3. 相続を放置し続けることの深刻なリスク

「誰も何も言ってこないから、このままでいいか」と放置してしまうと、様々な法的なリスクや不利益が生じる可能性があります。

3-1. 相続放棄・限定承認の期限(3ヶ月)を過ぎてしまい、多額の借金を背負うリスク


被相続人に借金があった場合、相続放棄(全ての財産も負債も引き継がない)や限定承認(プラスの財産の範囲内で負債を引き継ぐ)の手続きを家庭裁判所で行うことで、借金を免れることができます。

しかし、これらの手続きは原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内(熟慮期間)」に申述しなければなりません(民法第915条第1項)。
この「知った時」とは、通常、被相続人の死亡の事実を知り、かつ自分が相続人であることを知った時を指します。

何も連絡がないままこの熟慮期間が過ぎてしまうと、単純承認したものとみなされ(民法第921条第2号)、被相続人の借金も全て引き継ぐことになってしまう可能性があります。これを法定単純承認といいます。

なお、熟慮期間内に相続放棄の申立てをおこなうことが難しい場合には、期間伸長の申立て(民法第915条第1項但書)を同期間内におこなうことで、期限が伸びる可能性があります。

3-2. 相続税の申告・納付期限(10ヶ月)を過ぎてペナルティが発生するリスク


相続財産が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告と納税が必要
です。

この期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です(相続税法第27条第1項)。

期限内に申告・納税しなかった場合、延滞税や無申告加算税といったペナルティが課される可能性があります。
場合によっては重加算税というさらに重いペナルティが課されることもあります。

連絡がないために財産状況の把握が遅れ、申告が間に合わないという事態は避けなければなりません。相続人それぞれが単独で相続税申告をおこなうことができます。

相続人間で遺産分割協議内容で揉めており、遺産分割内容が確定していない場合でも申告は必要です。詳しくは、当事務所までご相談ください。

3-3. 不動産の相続登記の義務化と放置による過料のリスク(2024年4月1日施行)

これまで任意とされていた不動産の相続登記が、2024年4月1日から義務化されました。

相続(遺言によるものも含む)によって不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(改正不動産登記法第76条の2)。

正当な理由がないのに申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります(改正不動産登記法第164条第1項)。

相続登記をしないまま放置すると、その不動産を売却したり、担保に入れたりすることができません。
また、時間が経つほど相続関係が複雑になり、手続きが困難になることもあります。

 

3-4.遺産分割協議がまとまらず、紛争が長期化・複雑化するリスク

連絡がない状態を放置すると、いざ遺産分割協議を始めようとしたときに、相続人間の関係が悪化していたり、財産の状況が不明確になったりして、話し合いが難航する可能性があります。

時間が経つと、相続人の誰かが亡くなってさらに相続が発生する(数次相続)など、権利関係が複雑になることもあります。

感情的な対立が生じると、当事者同士での解決が困難になり、遺産分割調停や審判といった法的な手続きが必要になることもあります。
そうなると、解決までに長期間を要し、精神的な負担や弁護士費用などの経済的な負担も大きくなります。

3-5.預貯金や株式などの権利行使が困難になる・休眠口座となるリスク

被相続人名義の預貯金口座は、金融機関が死亡の事実を知ると凍結され、相続手続きが完了するまで原則として入出金ができなくなります。

長期間手続きをしないまま放置すると、預金が休眠預金として扱われ(休眠預金等活用法)、最終的には預金保険機構に移管される可能性があります。

株式などの有価証券も、名義変更手続きをしないと配当金を受け取れなかったり、売却できなかったりする不都合が生じます。

3-6.遺留分侵害額請求権の時効(1年または10年)が経過するリスク

遺言などによって自分の遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額請求を行うことで、侵害された分を取り戻すことができます。しかし、この権利には時効があります。

遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第1048条前段)。

また、相続開始の時から10年を経過したときも、同様に消滅します(民法第1048条後段)。

何も連絡がないために遺留分が侵害されている事実に気づくのが遅れると、この時効期間が経過してしまい、権利を主張できなくなる可能性があります。

3-7.相続回復請求権の時効(5年または20年)が経過するリスク


表見相続人(相続権がないのに相続人であるかのように振る舞い、遺産を占有している人)などによって相続権を侵害されている場合、真の相続人は相続回復請求権(民法第884条)を行使して遺産を取り戻すことができます。

この権利は、相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないとき、または相続開始の時から20年を経過したときに時効によって消滅します。

放置している間にこの時効が完成してしまうと、本来受け取れるはずだった遺産を取り戻せなくなる可能性があります。

3-8.特別受益や寄与分の主張が困難になるリスク


一部の相続人が被相続人から生前に特別な援助(生前贈与など)を受けていた場合(特別受益、民法第903条)、あるいは被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人がいる場合(寄与分、民法第904条の2)、これらを考慮して遺産分割を行うことができます。

しかし、時間が経過すると、特別受益や寄与分を証明するための証拠(送金履歴、領収書、介護記録など)が散逸したり、関係者の記憶が曖昧になったりして、これらの主張が難しくなることがあります。

何も連絡がないまま時間が経つと、これらの権利を適切に主張する機会を失う可能性があります。

4. 何も連絡がない場合に取るべき具体的な行動ステップ

他の相続人から連絡がない場合でも、指をくわえて待っているだけでは状況は改善しません。
ご自身の権利を守り、問題を解決するために、主体的に行動を起こしましょう。

4-1.相続人と相続財産の調査を徹底的に行う

前述の「1. まずは相続の状況を確認!自分でできる初期調査」で触れた内容を、より具体的に進めていきます。

― 相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取り寄せ、法定相続人を正確に特定します。
疎遠になっている親族や、存在を知らなかった相続人が見つかることもあります。
戸籍の収集は、本籍地が遠方の場合、郵送で請求することも可能です。
相続関係説明図を作成すると、相続関係が視覚的に分かりやすくなります。

― 相続財産の調査
✅ 不動産
固定資産税の納税通知書や名寄帳で所有不動産を把握し、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して権利関係を確認します。

✅ 預貯金
被相続人の通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを手掛かりに、取引のあった金融機関を特定します。
各金融機関に死亡の事実を伝え、残高証明書や取引履歴(被相続人の死亡前後のものも含む)の開示を請求します。
他の相続人による不正な引き出しがないか確認します。

✅ 有価証券
証券会社からの取引報告書などを探し、証券保管振替機構(ほふり)に情報開示請求を行うことも検討します。

✅ 借金・負債
契約書や督促状の有無を確認するとともに、信用情報機関(JICC、CIC、全国銀行個人信用情報センター)に相続人として情報開示請求を行います。
財産目録を作成し、プラスの財産とマイナスの財産を一覧にまとめると、全体の状況を把握しやすくなります。

 

これらの調査は、ご自身で行うことも可能ですが、時間と手間がかかる上、専門的な知識が必要となる場面も多くあります。

弁護士に依頼すれば、職務上の権限(弁護士法第23条の2に基づく照会など)を用いて、より効率的かつ広範囲な調査を行うことができます。

4-2.他の相続人に連絡を取る・遺産分割協議を申し入れる

相続人と財産の概要が把握できたら、他の相続人に連絡を取り、遺産分割協議の開始を提案します。

― 連絡手段の検討
✅ 電話や手紙

まずは穏便な方法で連絡を試みます。
相続が発生した事実、ご自身が把握している相続財産、遺産分割協議を進めたい旨などを伝えます。

✅ 内容証明郵便
電話や普通の手紙で反応がない場合や、後々の証拠を残したい場合は、内容証明郵便を利用します。
いつ、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれるため、相手に心理的なプレッシャーを与え、話し合いに応じさせる効果も期待できます。

― 話し合いの進め方
冷静かつ誠実な態度で臨みましょう。
感情的になると、話し合いがこじれる原因になります。

 

遺産分割協議は相続人全員が参加しておこなう必要があります。
一部の相続人だけで勝手に進めておこなった遺産分割の合意は法律上無効です。

遠方に住んでいる相続人がいる場合は、書面やオンラインでのやり取りも検討しましょう。

4-3.遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てる


当事者間の話し合い(遺産分割協議)で合意に至らない場合や、そもそも相手が話し合いに応じてくれない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
ことができます。

― 遺産分割調停とは
調停委員(民間から選ばれた良識のある人)や裁判官が間に入り、相続人双方の主張を聞きながら、話し合いによる円満な解決を目指す手続きです。
調停は非公開で行われ、比較的柔軟な解決が期待できます。
調停で合意に至れば、調停調書が作成され、これに基づいて相続手続き(不動産の名義変更や預貯金の解約など)を進めることができます。
調停調書は確定判決と同じ効力を持ちます。

― 遺産分割審判とは
調停でも話し合いがまとまらない場合、自動的に審判手続きに移行します。審判では、裁判官が一切の事情を考慮して、遺産の分割方法を決定します。
審判は、当事者の意向だけでなく、法律や公平性の観点から判断が下されます。

 

調停や審判の手続きは複雑であり、法的な主張や証拠の提出が必要となるため、弁護士に代理人を依頼することが一般的です。

4-4.弁護士などの専門家に相談する

相続に関する問題は、法律や税金、不動産登記など、専門的な知識が幅広く求められます。
ご自身だけで解決しようとすると、時間も手間もかかり、精神的な負担も大きくなりがちです。

― 弁護士に相談・依頼するメリット
✅ 正確な法的アドバイス
あなたの状況に合わせた最適な対処法や、法的な権利について正確なアドバイスを受けられます。

✅ 相続人・財産調査の代行

面倒な戸籍収集や財産調査を代行してもらい、迅速かつ正確に状況を把握できます。

✅ 他の相続人との交渉代理

あなたの代理人として、他の相続人と冷静かつ法的に交渉を進めてくれます。感情的な対立を避け、円滑な話し合いをサポートします。

✅ 内容証明郵便の作成・送付

法的に適切な内容の書面を作成し、相手に送付することで、話し合いのテーブルについてもらいやすくなります。

✅ 遺産分割協議書の作成

法的に有効で、後々のトラブルを防ぐための適切な遺産分割協議書を作成します。

✅ 調停・審判の代理

家庭裁判所での法的な手続きを全て任せることができ、精神的な負担を軽減できます。

✅ 不正な財産の使い込みへの対応

不当利得返還請求など、法的な手段で権利回復を目指します。

✅ 時効管理

遺留分侵害額請求権などの時効を管理し、権利が失われないようにサポートします。

― 弁護士費用の目安と無料相談の活用
弁護士費用は、相談料、着手金、報酬金、実費などで構成されます。事案の複雑さや経済的利益の額によって費用は異なります。
多くの法律事務所では、初回無料相談を実施しています。まずは無料相談を利用して、弁護士に具体的な状況を話し、解決の見通しや費用の見積もりについて確認してみることをお勧めします。
相談の際は、収集した資料(戸籍謄本、固定資産税納税通知書、通帳のコピーなど)を持参すると、より具体的なアドバイスを受けやすくなります。

― 弁護士以外の専門家
• 司法書士
主に不動産の相続登記や、裁判所に提出する書類作成のサポートを行います。
• 税理士
相続税の申告や節税対策に関する専門家です。
• 行政書士
遺産分割協議書の作成や、戸籍収集などの事実証明に関する書類作成のサポートを行います。

 

ご自身の状況や悩みに合わせて、適切な専門家を選ぶことが大切です。
どの専門家に相談すべきか分からない場合も、まずは弁護士に相談してみると、必要なサポートや他の専門家との連携についてアドバイスをもらえます。

5.特に注意すべきケースと対策

何も連絡がない状況の中でも、特に注意が必要なケースと、その対策について解説します。

5-1.相続人の中に連絡が取れない人・行方不明の人がいる場合

戸籍の附票や住民票を取得すれば、住所の変遷を追うことができます。
弁護士は、職務上の権限で住民票や戸籍の附票などを取得し、より広範囲な調査が可能です。

それでも行方が分からない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、その管理人と遺産分割協議を進めることになります(民法第25条)。

また、7年以上生死不明の場合など、一定の要件を満たせば、失踪宣告を申し立てることも検討します(民法第30条)。

5-4.他の相続人との関係が険悪で、話し合いが困難な場合

無理に直接交渉しようとすると、さらに感情的な対立を深める可能性があります。そのため、直接の接触を避ける方が好ましい場合があります。

こうした時には、 弁護士を代理人にすることで間に入ってもらい、冷静かつ法的な話し合いを進めることができることがあります。
相手方も弁護士が代理人となれば、真摯に対応する可能性が高まります。
当事者同士での解決が難しい場合は、早期に家庭裁判所の調停を利用することを検討しましょう。
調停委員が間に入り、当事者間の主張を調整し、遺産分割内容の合意に向けて前に進めることができます。

6. まとめ|遺産相続で何も言ってこない時は、放置せず早期確認と専門家の活用を!

ご家族が亡くなり、遺産相続が発生したにもかかわらず、他の相続人から何の連絡もないという状況は、非常に不安でストレスを感じるものです。
しかし、そのような時こそ、決して放置することなく、ご自身から積極的に行動を起こすことが何よりも重要です。

本記事で解説したように、連絡がない背景には様々な理由が考えられ、中には意図的に情報が隠されているケースや、法的な期限が迫っているケースも少なくありません。

まずは、被相続人の死亡の確認、相続人の確定、遺言書の有無、相続財産の概要調査といった初期調査をご自身で進めてみましょう。
その上で、他の相続人に連絡を取り、遺産分割協議の開始を働きかけることが次のステップです。

もし、ご自身での対応が難しい、他の相続人が話し合いに応じてくれない、法的な手続きや権利関係が複雑で分からないといった場合は、ためらわずに弁護士などの専門家に相談してください。

弁護士は、あなたの状況を法的な観点から正確に分析し、最善の解決策を提案してくれます。
面倒な調査や他の相続人との交渉、複雑な法的手続きなどを代行することで、あなたの精神的・時間的な負担を大幅に軽減し、正当な権利の実現をサポートします。

特に、以下のような場合は、早期に弁護士に相談することをお勧めします。

相続放棄や限定承認を検討している
  (3ヶ月の期限が迫っている)
他の相続人が財産を使い込んでいる疑いがある
遺言書の内容に納得がいかない
  (遺留分を主張したい)
他の相続人と連絡が取れない、
  または話し合いがこじれている
相続財産の種類が多い、または評価が難しい
不動産の相続登記の手続きが分からない

 

たちばな総合法律事務所では、相続手続きや相続税対策について初回無料相談を実施しています。
電話(10分)または来所(60分)による法律相談をご利用ください。

ご事情やご希望をお伺いしたうえで、問題解決のためのアドバイスをさせていただきます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

遺産相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。