大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995
内縁の妻(夫・パートナー)は財産を相続できる?法律から見る確実な相続対策と生活保障
- 内縁の妻(夫・パートナー)は財産を相続できる?法律から見る確実な相続対策と生活保障
- 1. 内縁関係(事実婚)とは?法律上の定義と法律婚との違いを徹底解説
- 2. なぜ内縁の妻(夫・パートナー)には相続権がないのか?民法の原則と例外
- 3. 内縁の妻(夫・パートナー)が財産を受け継ぐための具体的な法的手段
- 4. 内縁関係の子どもの相続権
- 5. 内縁の妻(夫・パートナー)の生活保障:賃借権と遺族年金
- 6. 内縁の妻(夫・パートナー)と税金:相続税・贈与税の注意点と対策
- 7.内縁関係に関するよくある誤解とQ&A
- 8. 生前対策の重要性と専門家への相談
- 9. まとめ:内縁の妻(夫・パートナー)が安心して未来を築くために
内縁の妻(夫・パートナー)は財産を相続できる?法律から見る確実な相続対策と生活保障
近年、結婚の形が多様化する中で、法的に婚姻はしていないものの、実質的に夫婦同然の生活を送る「内縁関係」を選ぶカップルが増えています。
しかし、このような内縁のパートナーは、法律上の夫婦と比べて相続における権利が大きく異なります。
大切なパートナーに確実に財産を残し、生活を守るためには、生前からの正しい知識と周到な準備が不可欠です。
この記事では、以下のようなお悩みや疑問をお持ちの方を対象に、内縁関係における相続の法的知識と、具体的な対策を分かりやすく解説します。
✅ 内縁の妻(夫)に財産を相続させることはできるのか?
✅ 法律上の夫婦と何が違うのか?
法的な位置づけを知りたい。
✅ 子どもがいる場合、相続はどうなるのか?
認知は必要なのか?
✅ 遺言書を作成すれば安心なのか?
他にどんな方法があるのか?
✅ 相続税はかかるのか?
節税対策はあるのか?
✅ 万が一の場合、住んでいる家や年金はどうなるのか?
1. 内縁関係(事実婚)とは?法律上の定義と法律婚との違いを徹底解説
まず、内縁関係の基本的な定義と、法的な婚姻(法律婚)との違いを整理しておきましょう。
これらの違いを理解することが、適切な相続対策を講じるための第一歩となります。
1.1. 内縁関係の定義と認められるための要件
内縁関係とは、婚姻届を提出していないものの、当事者間に夫婦同様の共同生活を送る意思(夫婦同様の関係を築こうとするお互いの意思)があり、かつ、その共同生活の実態が客観的に認められる状態を指します。
具体的には、以下の要素などを総合的に考慮して判断されます。
✅ 同居
同じ住居で生活を共にしていること。
✅ 生計の同一
生活費を共有し、経済的に協力し合っていること。
✅ 夫婦としての意識
周囲(親族、友人、職場など)に対して夫婦として振る舞っていること。
✅ 継続期間
ある程度の期間、共同生活が継続していること。(明確な期間の定めはありませんが、一般的には数年以上とされることが多いです。)
✅ 子の存在
間に子どもがいる場合、その認知や共同養育の事実。
✅ 住民票
同一世帯として住民票に記載されていること(「妻(未届)」「夫(未届)」などと記載されることもあります)。
✅ 健康保険・厚生年金保険
一方が他方の健康保険の被扶養者として健康保険・厚生年金保険に加入していること。
これらの要素が複数認められる場合に、法的に「内縁関係」または「事実婚」として扱われる可能性が高まります。
ただし、戸籍上は正式な夫婦としては認められていないため、その点で法律婚とは処遇が大きく異なります。
1.2. 法律婚(戸籍上の婚姻)との主な相違点
法律婚では婚姻届を役所に提出し、戸籍上で夫婦と認められます。
これにより、法律上の様々な権利や義務が発生します。
一方、内縁関係の場合は婚姻手続きをしていないため、以下のような点で法律婚と異なります。
ただし、内縁関係であっても、社会保険(年金、健康保険)の被扶養者となれる場合や、労働災害における遺族補償、公営住宅の入居資格など、一部の法律や制度では法律婚の配偶者と同様の保護が受けられることもあります。
また、長年同居していることで、医療同意や賃貸借契約で配偶者同等に扱われるケースもあります。
1.3. 内縁関係が増えている背景と法的リスク
価値観の多様化や経済状況の変化に伴い、内縁関係を選ぶカップルは増えつつあります。
結婚という形式にこだわらず、同居や共同の経済生活を重視する人が増えています。
背景には、旧来の結婚観にとらわれずに気軽にパートナーシップを始めたいという意識の高まりや、再婚で戸籍を動かしたくない、夫婦別姓を望むなどの事情、行政手続きに伴う親族同士の調整を避けたいなど、さまざまな理由があります。
しかし、内縁関係は法律上の整備が法律婚ほど進んでいないため、特に相続、財産分与(関係解消時)、子どもの親権(共同親権が認められないなど)、税制面で、法律婚の夫婦より不利な立場に置かれがちです。
実態がどれほど夫婦同然であっても、制度の網からこぼれてしまう点を理解し、自分たちの状況に合った方法でリスクを回避する必要があります。
2. なぜ内縁の妻(夫・パートナー)には相続権がないのか?民法の原則と例外
日本の民法では、相続人の範囲が厳格に定められています。
内縁の配偶者は、この法定相続人の範囲に含まれないため、原則として相続権は認められません。
2.1. 法定相続人の範囲と順位(民法における規定)
民法では、被相続人(亡くなった方)の財産を相続できる「法定相続人」とその「順位」が以下のように定められています(民法第887条、第889条、第890条)
参照 法定相続人と相続順位
― 常に相続人
被相続人の配偶者(法律上の妻または夫)
― 第一順位
被相続人の子
(胎児を含む。子が既に亡くなっている場合は孫、ひ孫などの直系卑属が代襲相続)
― 第二順位
被相続人の直系尊属
(父母、祖父母など。親等が近い者が優先)
― 第三順位
被相続人の兄弟姉妹
(兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は甥・姪が代襲相続)
配偶者は常に相続人となります。
第一順位の人がいれば、配偶者とその人が相続人となります。
第一順位の人がいない場合は、配偶者と第二順位の人が相続人となり、第二順位の人もいない場合は、配偶者と第三順位の人が相続人となります。
2.2. 内縁の配偶者が法定相続人になれない根拠(法律婚主義)
日本の相続法は「法律婚主義」を採用しており、民法上の「配偶者」とは、戸籍上の婚姻関係にある者を指します。
そのため、婚姻届を提出していない内縁のパートナーは、たとえ長年生活を共にし、実質的に夫婦同然の関係であったとしても、法定相続人とはみなされません。
これが、内縁の妻(夫)に相続権がない直接的な理由です。
したがって、何もしなければ、被相続人の財産は法定相続人に渡り、内縁のパートナーは一切相続できないことになります。
2.3.相続における「配偶者」の定義
民法第890条は「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」と規定していますが、この「配偶者」は法律上の婚姻関係にある者を指します。
内縁関係は、法律上の婚姻ではないため、この条文の「配偶者」には該当しません。
2.4.判例に見る内縁関係者の相続に関する判断傾向
過去の裁判例においても、内縁の配偶者には原則として相続権を認めていません。
ただし、例外的に保護が図られるケースとして後述する「特別縁故者」制度などがあります。
ただ、これはあくまで相続人が不存在の場合の制度であり、法定相続人がいる場合には適用されません。
3. 内縁の妻(夫・パートナー)が財産を受け継ぐための具体的な法的手段
法定相続権がない内縁のパートナーに財産を残すためには、生前に積極的な対策を講じる必要があります。代表的な手段は以下の通りです。
3.1. ① 遺言書による遺贈:最も確実な方法とその注意点
内縁のパートナーに確実に財産を残したい場合、遺言書を作成し、財産を「遺贈」するのが最も一般的で有効な手段です。
「遺贈」とは、遺言によって法定相続人以外の人にも財産を無償で譲り渡すことです(民法第964条)。
3.1.1. 遺言の種類と各メリット・デメリット
遺言には主に以下の種類があります。
内縁のパートナーへの遺贈を確実にするためには、形式不備のリスクが低く、相続手続きもスムーズな公正証書遺言の作成を強くおすすめします。
3.1.2. 遺言執行者の指定の重要性
遺言の内容をスムーズに実現するためには、遺言執行者を指定しておくことが非常に重要です(民法第1006条)。
遺言執行者は、相続財産の管理や遺贈の履行など、遺言の内容を実現するための権限を持ちます。
内縁のパートナー自身を遺言執行者に指定することも可能です。
しかし、手続きの煩雑さや他の相続人との関係を考慮し、信頼できる第三者(弁護士や司法書士などの専門家)を指定することも検討しましょう。
3.1.3. 遺留分との関係と対策(遺留分侵害額請求への備え)
遺言書で内縁のパートナーに全財産を遺贈すると指定しても、法定相続人(兄弟姉妹を除く)には「遺留分」という最低限の相続分を主張する権利があります(民法第1042条)。
もし遺言の内容が法定相続人の遺留分を侵害している場合、その相続人は遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求(遺留分侵害額請求)することができます(民法第1046条)。
遺留分を侵害するような遺言書を残した場合、のちに相続人と内縁のパートナーとの間でトラブルになる可能性があります。
そのため、遺留分に配慮した遺言書を作成することが大切です。
3.2. ② 生前贈与の活用
生前のうちに財産を贈与しておく方法も、内縁のパートナーに確実に財産を渡す一つの方策です。
3.2.1. 暦年贈与(年間110万円の基礎控除)の仕組みと注意点
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、これ以下の金額の贈与であれば贈与税はかかりません(相続税法第21条の5)。
この制度を利用し、毎年コツコツと贈与を続けることで、非課税で財産を移転できます。
参照 暦年贈与利用時の注意点
✅ 定期贈与とみなされないようにする
毎年同じ時期に同じ金額を贈与すると、あらかじめ一定額を贈与する契約があった「定期贈与」とみなされ、贈与総額に対して課税されるリスクがあります。
贈与の都度、贈与契約書を作成する、贈与時期や金額を変えるなどの工夫が必要です
✅ 多額の贈与には高額な贈与税がかかる
一度に110万円を超える贈与をすると、超えた部分に贈与税が課税されます。
贈与税の税率は相続税よりも高い場合があるため注意が必要です。
3.2.2.死因贈与契約:遺贈との違い、メリット・デメリット
死因贈与契約とは、「贈与者の死亡によって効力を生じる贈与契約」のことです(民法第554条)。
遺言による遺贈と似ていますが、遺贈が遺言者の単独行為であるのに対し、死因贈与は贈与者と受贈者(財産をもらう人)の双方の合意(契約)によって成立します。
参照 暦年贈与利用時の注意点
― メリット
• 受贈者の意思確認
生前に受贈者の同意を得るため、確実に財産を受け取ってもらえる。
• 遺言の方式によらない
遺言のような厳格な方式は不要(ただし、書面で残すことが望ましい)。
• 仮登記が可能
不動産の場合、始期付所有権移転仮登記を行うことで、受贈者の権利を保全できる場合がある。
― デメリット
• 撤回の制限
契約であるため、遺言のように自由に撤回できない場合がある(遺贈の規定が準用されるため、一定の撤回は可能)。
• 遺留分侵害のリスク
遺贈と同様に、法定相続人の遺留分を侵害する可能性がある。
• 不動産取得税・登録免許税
遺贈の場合と比較して税負担が重くなる場合がある。
死因贈与契約を締結する際は、後日の紛争を避けるため、公正証書で作成することを強く推奨します。
3.3. ③ 生命保険金の受取人指定
生命保険金は、民法上の相続財産とはみなされず、受取人固有の財産として扱われます。
そのため、受取人に内縁のパートナーを指定しておけば、他の相続人の同意を得ることなく、比較的速やかにまとまった金額の現金を確実に渡すことができます。
なお、内縁の配偶者も、場合によっては相続税の申告が必要になります。
注意点として、法定相続人が受け取る死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠がありますが、内縁のパートナーには非課税枠は適用されません(相続税法12条1項5号)。
そのため、受け取った死亡保険金の全額が相続税の課税対象となります。
また、被相続人の配偶者、一親等の血族(子や父母など。代襲相続人となった孫を含む)以外の者が相続または遺贈によって財産を取得した場合、相続税額が2割加算されます(相続税法18条1項及び2項)。
内縁の配偶者は、法律上の配偶者ではないため、この2割加算の対象となります。
さらに、相続税の配偶者控除(1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税が非課税になる優遇措置)の適用も受けることができません。
3.4. ④ 特別縁故者制度:相続人がいない場合の最後の手段
被相続人に法定相続人が一人もいない場合(相続人不存在)、または相続人全員が相続放棄をした場合などには、家庭裁判所に申し立てることで、内縁のパートナーが「特別縁故者」として認められれば、相続財産の全部または一部を受け取れる可能性があります(民法第958条の2)。
3.4.1. 特別縁故者として認められるための要件(具体的な3つの類型)
特別縁故者として認められるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
参照 民法第958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与)
1. 被相続人と生計を同じくしていた者
内縁の妻(夫)や事実上の養子などが該当します。同居の事実や経済的な扶助関係が重要視されます。
2. 被相続人の療養看護に努めた者
被相続人の病気療養や介護に献身的に尽くした親族以外の者などが該当します。
3. その他被相続人と特別の縁故があった者
上記1、2に該当しないものの、被相続人と特に親密な関係にあったと認められる者。
3.4.2. 申立手続きの流れ
特別縁故者への財産分与の申立ては、以下の流れで進みます。
参照 特別縁故者への財産分与の流れ(家庭裁判所)
1. 相続人の不存在の確定
家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、相続人捜索の公告を行います。
一定期間内に相続人が現れなかった場合に相続人の不存在が確定します。
2. 特別縁故者の申立て
相続人不存在が確定した後、一定期間内(通常、相続人捜索の公告期間満了後3ヶ月以内)に、家庭裁判所に「相続財産分与の審判申立」を行います。
3. 家庭裁判所の審理
裁判所は、申立書や提出された証拠(住民票、戸籍謄本、陳述書、写真、家計簿など)を基に、申立人が特別縁故者に該当するか、分与する財産の額や種類などを審理します。
基礎控除 のような考え方はここではありません。
4. 審判
裁判所が申立てを認めると、財産分与の審判が下されます。
家庭裁判所に申立てる際には、被相続人との同居の事実を示す住民票や、生活費の負担状況がわかる資料などが求められます。
さらに、内縁に至る経緯や介護、療養看護の実績を詳しく説明できる資料をそろえることが重要です。
裁判所は総合的に見て深い生活実態があると判断した場合にのみ特別縁故者として認定します。
3.4.3. 特別縁故者制度の限界と注意点
特別縁故者の財産分与制度を利用したとしても、次のような点について限界があります。
― 相続人が不存在であることが前提
法定相続人が一人でもいる場合は、この制度は利用できません。
― 必ず認められるわけではない
申立てをしても、裁判所の判断で認められないこともあります。
― 財産の全部がもらえるとは限らない
裁判所が相当と認める範囲での分与となります。
― 相続税の課税対象
特別縁故者として財産を取得した場合、遺贈によって取得したものとみなされ、相続税が課税されます(相続税法4条1項)。
また、相続税額の2割加算の対象となります。
4. 内縁関係の子どもの相続権
内縁関係にある男女の間に生まれた子供の相続権を確保するためには、父が「認知」の手続きをすることが極めて重要です。
4.1. 嫡出子と非嫡出子の法的地位と相続分(法改正後の平等性)
法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子を「嫡出子」、婚姻関係にない男女の間に生まれた子を「非嫡出子」といいます。
かつて非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分とされていましたが、2013年の民法改正により、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等になりました(民法第900条4号ただし書)。
ただし、これはあくまで父から認知されている非嫡出子の場合です。
4.2. 認知の法的効果(相続権の発生、扶養義務など)
認知とは、父が自分の子であると法的に認める行為です。
認知によって、子どもは以下の法的効果を得ます。
参照 認知による法的効果
✅ 相続権の発生
父の法定相続人となり、遺産を相続する権利を得ます。
✅ 扶養義務の発生
父に対して扶養を求める権利が生じ、父も子を扶養する義務を負います。
✅ 戸籍への記載
父の戸籍に認知した子の氏名などが記載されます。
認知は、子の将来にとって非常に重要な手続きです。特に相続においては、認知の有無 が子の権利を大きく左右するため、必ず行っておくべきです。
手続きについて不明な点があれば、弁護士に相談しましょう。
4.4.認知がない場合の相続手続きの困難さ、死後認知の申立てについて
父が亡くなる前に認知をしなかった場合でも、子が父の死後3年以内であれば、検察官を相手方として認知を求める訴え(死後認知の訴え)を起こすことができます(民法第787条ただし書)。
死後認知が認められれば、子は相続権を得ることができますが、手続きは煩雑であり、DNA鑑定は必要です。
これに伴い、被相続人のDNA鑑定に提出する試料が必要となります。
ただ、内縁成立から200日経過後又は内縁解消前300日以内に出生している場合には、特段の事情のない限り、内縁の夫の子と推定されることから(最高裁S44.11.27)、DNA鑑定は必須ではありません。。
生前に認知しておくことが最も望ましいです。
5. 内縁の妻(夫・パートナー)の生活保障:賃借権と遺族年金
相続財産だけでなく、内縁関係にあったパートナーの生活基盤となる住居や年金についても、一定の保護が受けられる場合があります。
5.1. 居住権の保護
5.1.1. 借地借家法における内縁の配偶者の保護(事実上の夫婦として居住していた場合)
被相続人が賃貸物件(アパートやマンションなど)に住んでおり、内縁のパートナーが同居していた場合、被相続人の死亡後もその住居に住み続けられるか(賃借権を承継できるか)が問題となります。
借地借家法第36条では、居住用建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合、その建物で同居していた内縁の配偶者は、賃借人の権利義務を承継すると定めています。
これにより、一定の条件下では内縁のパートナーも賃借権を承継 し、住み続けることが可能です。
5.1.2.配偶者居住権(短期・長期):内縁関係では適用されない
2020年4月1日の民法改正で、残された配偶者の居住権を保護するための「配偶者居住権」(長期)と「配偶者短期居住権」が創設されました。
これにより、法律婚の配偶者は、被相続人の死亡後も一定期間または終身、無償で自宅に住み続ける権利を得やすくなりました。
しかし、これらの配偶者居住権は、法律上の配偶者を対象とした制度であり、内縁のパートナーには適用されません。
とはいえ、裁判例のなかで一定の保護が図られてきました。
例えば、相続人が、内縁の配偶者に対して住んでいた家屋の明渡しを求めたケースにおいて、内縁の配偶者の居住実態や、明け渡しによる不利益の大きさなどを考慮し、相続人からの明渡請求を「権利の濫用」として認めなかった裁判例(最高裁昭和39年10月13日判決)があります。
ただ、これは、あくまでも権利の行使を制限するものであり、内縁の配偶者に居住権を認めるものではありません。
5.2. 遺族年金の受給可能性と手続き
被相続人が国民年金や厚生年金に加入していた場合、その死亡により遺族に支給される遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)があります。
原則として法律婚の配偶者が対象ですが、内縁関係のパートナーであっても、一定の要件を満たせば受給できる可能性があります。
6. 内縁の妻(夫・パートナー)と税金:相続税・贈与税の注意点と対策
内縁のパートナーが財産を受け継ぐ際には、税金の問題も避けて通れません。
特に相続税においては、法律婚の配偶者と比べて不利になる点が多くあります。
6.1. 相続税の基本
6.1.1. 相続税の基礎控除と計算方法の概要
相続税は、亡くなった方(被相続人)から財産を相続したり、遺贈によって取得したりした場合に課される税金です。
全ての相続財産に課税されるわけではなく、まず「基礎控除額」を差し引きます。
基礎控除額は以下の式で計算されます。
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
遺産の総額が基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、申告も不要です。
遺産の総額が基礎控除額を超える場合に、その超えた部分(課税遺産総額)に対して相続税が課税されます。
相続税の計算方法は、まず法定相続人が法定相続分通りに相続したと仮定して各人の相続税額を計算し、それを合計して相続税の総額を算出します。
その後、実際に各人が取得した財産の割合に応じて相続税の総額を按分し、各人の納付税額を計算します。
6.1.2. 内縁の配偶者には適用されない税制優遇措置
法律婚の配偶者には、相続税の負担を大幅に軽減する優遇措置がありますが、内縁のパートナーにはこれらの措置は適用されません。
参照 内縁の配偶者に適用されない税制上の優遇措置(一例)
✅ 配偶者の税額軽減(配偶者控除)の不適用
法律婚の配偶者は、法定相続分または1億6,000万円のいずれか多い金額まで相続税がかからないという強力な制度がありますが(相続税法第19条の2)、内縁のパートナーには適用されません。
✅ 小規模宅地等の特例の不適用
被相続人の自宅敷地や事業用地などについて、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額できる特例がありますが(租税特別措置法第69条の4)、原則として内縁のパートナーには適用されません。
これらの優遇措置が適用されないため、内縁のパートナーが財産を相続・遺贈された場合の相続税負担は、法律婚の配偶者と比べて格段に重くなる可能性があります。
6.1.3. 相続税額の2割加算とその影響
被相続人の配偶者、一親等の血族(子や父母)、代襲相続人である孫以外の人が遺産を取得した場合、その人の相続税額が2割加算されるという制度があります(相続税法第18条)。
内縁のパートナーは、この「配偶者、一親等の血族」に該当しないため、相続税額が2割加算の対象となります。これにより、さらに税負担が増えることになります。
7.内縁関係に関するよくある誤解とQ&A
Q1. 住民票を一緒にして「妻(未届)」と記載すれば、相続できますか?
A1. いいえ、住民票の記載だけでは法定相続人にはなれません。
相続権を得るためには、法律上の婚姻届が必要です。
ただし、住民票の記載は内縁関係の証明の一つとなり、特別縁故者の申立てや遺族年金の請求の際に有利な証拠となる可能性があります。
Q2. 長年同居していれば、自動的に法律婚と同じように扱われますか?
A2. いいえ、同居期間が長くても、婚姻届を提出しない限り法律婚にはなりません。
相続や税制面では明確な区別があります。
ただし、社会保険の一部や賃借権の保護など、一定の範囲で法律婚に準じた扱いがされる可能性があります。
Q3. 内縁の夫が亡くなりました。夫の親族から「あなたには何も権利がない」と言われましたが、本当ですか?
A3. 法定相続権はありませんが、遺言書があれば財産を受け取れる可能性があります。
また、相続人がいない場合は特別縁故者として財産分与を受けられる可能性があります。遺族年金の受給要件を満たせば年金を受け取れることもあります。まずは専門家にご相談ください。
Q4. 内縁関係でも結婚指輪をしていますし、結婚式も挙げました。これで夫婦と認められますか?
A4. 結婚指輪や結婚式は、社会的に夫婦として認識されていたことを示す証拠の一つにはなりますが、それだけで法律上の夫婦とは認められず、相続権も発生しません。
法的な権利を得るためには、やはり婚姻届の提出が必要です。
Q5. 内縁のパートナーに財産を残すには、遺言書と生前贈与、どちらが良いですか?
A5. それぞれにメリット・デメリットがあります。
遺言書は亡くなった後に効力が発生し、生前贈与は生きている間に財産を移転します。
財産の種類や額、他の相続人との関係、税金などを総合的に考慮して、最適な方法を選ぶ必要があります。
多くの場合、これらを組み合わせることも有効です。
専門家(弁護士や税理士)に相談して、個別の状況に合わせたプランを立てることをお勧めします。
8. 生前対策の重要性と専門家への相談
これまで見てきたように、内縁関係における相続対策は、法律婚の場合と比べて複雑で、検討すべき事項が多岐にわたります。
大切なパートナーに確実に財産を残し、無用なトラブルを避けるためには、生前からの周到な準備が不可欠です。
8.1. 内縁関係の相続対策が複雑な理由
内縁関係の相続対策が複雑となる主な理由は次のとおりです。
✅ 法定相続権がないため、積極的な意思表示(遺言など)が必要。
✅ 税制上の優遇措置が少ないため、税負担が重くなりがち。
✅ 遺留分や他の相続人との関係を考慮する必要がある。
✅ 内縁関係の事実を法的に証明する必要が生じる場合がある。
8.2. 弁護士、税理士など専門家の役割と選び方
内縁関係の相続対策を円滑に進めるためには、専門家のサポートが非常に有効です。
参照 弁護士と税理士の主なサポート内容
― 弁護士
✅ 遺言書の作成支援(特に公正証書遺言)
✅ 死因贈与契約書の作成
✅ 相続人間の紛争予防、交渉、調停、訴訟代理
✅ 遺留分に関するアドバイスと対策
✅ 特別縁故者の申立て手続き
✅ 内縁関係の法的問題全般に関する相談
― 税理士
✅ 相続税・贈与税のシミュレーションと納税額の試算
✅ 節税対策のアドバイス
✅ 相続税・贈与税の申告手続き
上記の中でも、どの弁護士、税理士に相談、依頼するかを判断する際のポイントは次の通りです。
参照 専門家(弁護士と税理士)を選ぶ際のポイント
✅ 専門分野と実績
内縁関係や相続問題に関する取り扱い経験が豊富か。
✅ 説明の分かりやすさ
専門用語を避け、丁寧に説明してくれるか。
✅ コミュニケーションの取りやすさ
親身に話を聞き、相談しやすいか。
✅ 費用の明確さ
事前に見積もりを提示し、料金体系が明確か。
複数の専門家に相談し、信頼できるパートナーを見つけることが大切です。
当事務所では、内縁関係の相続に関するご相談も多数お受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
8.3. 親族間トラブルを未然に防ぐためのコミュニケーションと具体的なステップ
相続問題は、法律だけでなく感情も絡むため、親族間でのトラブルが生じやすいものです。
特に内縁関係の場合、法定相続人からの理解が得られにくいケースもあります。
参照 内縁の配偶者がいる場合の相続に関するステップ
― 1. パートナーとの話し合い
まずは内縁のパートナーと、将来の相続についてどのような希望を持っているのか、お互いの意思をしっかりと確認し合いましょう。
― 2. 法定相続人への意思表示(可能であれば)
ご自身の法定相続人となる可能性のある親族(子、親、兄弟姉妹など)に、内縁のパートナーの存在と、その人に財産を残したいという意思を、適切なタイミングで伝えておくことも検討しましょう。理解と協力を得られれば、後の紛争リスクを大幅に軽減できます。
― 3. 遺言書の作成と付言事項の活用
遺言書を作成し、なぜ内縁のパートナーに財産を残すのか、感謝の気持ちや経緯などを付言事項として記載することで、他の相続人の心情に配慮します。
― 4. 専門家の活用
弁護士などの専門家を交えて、法的に有効で、かつ関係者の感情にも配慮した対策を講じることが、円満な解決への近道です。
9. まとめ:内縁の妻(夫・パートナー)が安心して未来を築くために
内縁の妻(夫・パートナー)は、法律上の婚姻関係にある配偶者と比べて、相続における法的な保護が十分とは言えません。
法定相続権や税制上の優遇措置も原則としてありません。
しかし、本記事で解説したように、遺言書の作成、生前贈与、生命保険の活用、特別縁故者制度などの法的手段を適切に用いることで、内縁関係であっても大切なパートナーに財産を引き継ぎ、生活を守る道は確かに存在します。
特に、子どもの認知は、その子の将来にとって極めて重要です。
重要なのは、「何もしなければ何も残せない」という点です。
生前から具体的な対策を計画的に実行することです。
どの対策が最適かは、個々の財産状況、家族構成、パートナーとの関係性などによって異なります。
また、遺留分や相続税の問題など、専門的な知識が不可欠な場面も多くあります。
参照 養子縁組を検討している方が次に取るべき行動のステップ
― 1. 現状の把握
自身の財産(不動産、預貯金、有価証券、保険など)と、法定相続人となる可能性のある方をリストアップする。
― 2. パートナーとの話し合い
パートナーと将来について具体的に話し合い、お互いの希望や意思を確認する。
― 3. 専門家への相談
弁護士や税理士などの専門家に相談し、ご自身の状況に最適な相続対策についてアドバイスを受ける。
― 4. 対策の実行
遺言書の作成、生前贈与の開始、生命保険の見直しなど、具体的な対策を実行に移す。
内縁関係は、お互いの自由な意思に基づいたパートナーシップです。
その大切な関係を守り、将来にわたって安心して生活を共にするために、法的な備えを怠らないようにしましょう。
本記事が、皆様の不安を少しでも解消し、前向きな一歩を踏み出すためのお役に立てれば幸いです。
相続に関するお悩みやご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にたちばな総合法律事務所にご相談ください。
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