大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995
バツイチ社長の相続問題
今回は、中小企業の事業承継と、遺留分侵害額請求の問題についてお話しします。
「前妻さんの子どもに、会社の株式を渡したくないんです」
株式会社のオーナー社長であるAさんは、40年程前に離婚し、子どもBは妻が引き取りました。その後再婚した現在の奥さんとの間に2人の子どもがいます。
Aさんは最近大病を患い、幸い回復したものの、いざというときに備えて、相続や事業承継の準備をしておく必要性を痛感し、ご夫婦で当事務所に相談に来られました。
その時、開口一番に奥さんが言われたのが文頭の言葉です。
Aさんは再婚後に起業し、経営が軌道に乗るまで、ご夫婦でずいぶん苦労をされたとのこと。「私も金策に走り回り、会社の仕事も手伝いました」。子育てをしながら必死に頑張って、やっとここまでになった会社だから、関係の無いBさんには経営に口出しされたくないという、奥様の気持ちは理解できます。ではどうすればいいのか?
相続対策の基本は遺言書ですが、株式の相続は、事業承継問題と切り離せないので、計画的に準備する必要があります。
1.株式の信託契約の活用
中小企業の事業承継は、株式の譲渡または相続によって行われます。
会社の後継者は、家族の合意のもと、長男Cさんに決まっていますが、Aさんは、元気なうちは、当分、社長を続けたいということでした。
そこで私は、後継予定者であるCさんが自社株式を確実に相続できるように、株式を後継者に信託する、「自社株信託」の契約をお勧めしました。
自社株信託とは?
◇株式の委託者兼受益者をAさん、受託者(兼帰属権利者)をCさんとして自社株の信託契約を結びます。
人事権などの議決権はCさんに移る一方で、株式の配当を受ける権利(受益権)をAさんのままにしておけば、贈与税は課税されません。
◇Aさんが亡くなって相続が発生すれば、直ちに、後継者であるCさんに株式が引き継がれ、株式については、遺産分割協議や遺言の執行はいりません。
◇Aさんの病気が再発したり、認知症になっても、議決権はCさんにあるので、会社の経営に支障をきたすことはありません。
相続税は、Aさんの死亡時に課税されます。
「自社株信託」は、Aさんの生存中に契約しても、高額になりやすい贈与税が課税されないように設定でき、買い取りではないので資金も不要です。
さらに、もしCさんが後継者として不適切だとAさんが判断した場合は、信託契約の定め方によりますが、Aさんだけの意思で、一方的に信託契約の解除ができ、その場合も税金や買い取り金などの費用は発生しません。
2.遺言書の作成
さらに、相続の発生時に、Bさんが自分の相続分を主張した場合を想定して、遺言書を作成することにしました。
そこで、次の3点を明記した遺言書を書いていただきました。
① Cさんに事業を承継させることと、その理由。
② Cさんに株式を100%相続させる「自社株信託」の契約をしたこと。
③ Bさんには、(遺留分相当の)現金を相続させること。
Bさんに相続させる金額については、弁護士兼税理士が、現在のAさんの財産を調査し、会社の株式の評価額を算出して、予想額を設定し、資金の準備計画を立てました。
中小企業の事業承継の場合、推定相続人の合意と、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の認可があれば、後継者が贈与された株式を遺留分侵害額請求の対象外にすることが可能です。しかし、Aさんのケースの場合、Bさんの合意が得られない可能性が大きいということで、この方法はとりませんでした。
3,遺言書のメンテナンス
遺言書作成後に、相続財産の内容や自社株の評価額が変わる可能性は大いにありますから、
相続発生時のトラブルを予防するためにも、遺言書は、時々見直して、修正や加筆されるとよいでしょう。当事務所で遺言書作成のお手伝いをさせていただいたお客様には、定期的にメンテナンスのご案内をさせていただいております。
なお、2019年1月から、自筆証書遺言のうちの財産目録がPCなどで作成可能になりましたので、メンテナンスがより簡単になりました。
※2020年7月から、自筆証書遺言を、全国の法務局で保管してもらえることになります。
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