閉鎖会社による少数株式の取得と分配(入口と出口)~流れと税務~

2022.11.4

第1 取得場面

1 会社法の位置づけ

会社が、自己株式の取得することについて、過去の法制では禁止されていましたが、現在は、資本等取引と整理しつつ、株主間の平等性を確保するために規制を置いています。

2 必要な手続(フロー)

⑴ 他の株主への売主追加請求権に関する根回し

会社は、自己株式を取得する場合、株式平等原則から、特定株主以外の株主に対し、自己株式取得について自分も売主に追加するよう請求できる権利があることを通知する必要があります(会社法160条2項、3項。会社法施行規則28条より⑵の株主総会の2週間前に通知を要します。
また、他の株主は、同規則29条より総会の5日前に追加請求を行うことになります。)

そのため、会社が特定の株主からのみ株式を取得することについて、他の株主に根回しをして、売主追加請求権を行使しないように事実上の声掛けをする必要があります。

⑵ 株主総会招集に係る取締役会決議

①後記⑶の株主総会招集に係る取締役会決議、②前記⑴の売主追加の議案変更請求権の案内を発送することについて決議をします。

⑶ 株主総会招集通知の発送

他の株主への売主追加の議案変更請求権の案内の発送

⑷ 株主総会の特別決議(会社法309条2項2号)

以下の事項を決議します(会社法156条)。

  取得する株式数
  対価となる金銭等の内容及び総額
  株式を取得することができる期間(1年を超えない)
  相手方が特定の株主(氏名)であること(会社法160条1項)
   なお、特定株主は議決権を行為できません(法160条4項)。

⑸ 取締役会決議(会社法157条1項、2項)

上記株主総会決議を受けて、取締役会で以下の事項を決議します。
なお、特定の取締役の持ち株から取得する場合には、利益相反の可能性があるため、討議~決議まで退席する必要があります。

  取得する株式数
  1株当たりの交付する金銭等の額と算定方法
  対価となる金銭等の総額
  申込期日

⑹ 特定の株主への通知と当該株主からの譲渡申込み(法159条1項)

上記⑶で決定した事項を通知し、譲渡契約を締結します。

⑺ 株主名簿の書換

3 税務(5%未満の非同族の少数株主からの買取且つ配当還元方式の価額)

⑴ 買取る会社の税

自己株式の取得は、資本等取引とされるため、課税は生じません

なお、会社が取得する価額によっては、資本金額部分は資本金の減額、資本金額を超える部分は利益積立金額の減額と区分されます。

⑵ 売却する少数株主の税

個人から法人への譲渡のため、所得税法59条1項が適用され、「時価」の2分の1未満で譲渡した場合、「時価」で譲渡したとみなして譲渡所得課税されるリスクがあります。

他方、①租税特別措置法通達37の10・37の11共-22は、法人が自己の株式を個人から取得する場合、「当該自己株式等の時価は、所基通59-6により算定するものとする。」とあり、②『十訂版法人税基本通達逐条解説』(髙橋正朗編著、税務研究会刊)の中で、「法人税基本通達9-1-14」の解説に、「例えば、議決権割合が5%未満の小株主の有する非上場株式については、財産評価基本通達上いわゆる「配当還元方式」による評価が認められることがあるが、法人税においてもむろんこれによってよいことになる。」とあります。

そのため、何回かの交渉の結果、配当還元価額で妥結したなどの経緯が証拠から認められる場合には、配当還元方式による価額が「時価」となる可能性が高いといえます(そうでない場合には、原則評価とされる可能性がありますので、交渉の経過を残す必要があります。)。

したがって、少数株主は、配当還元価額で取得した株式を、配当還元価額で売却することになりますので値上がり益はなく、譲渡所得課税もないことになります。

⑶ 既存株主のみなし贈与課税リスク(相続税法9条)

みなし贈与とは、会社は、本来は高く評価するべき株式を安く購入した結果、会社の保有資産がその分増加したことになり、それゆえ会社の株主は、保有する株式の価値がその分値上がりするため、そこを捉えて贈与税を課税するという制度です(相続税法9条)。

正面から争点となった裁判例はありませんが、みなし贈与のリスクはかなり高いと思われます。

ア みなし贈与非該当説
少数株主から見た時価が配当還元方式の価額であるから、会社が取得する場合も配当還元方式の価額によるのが相当という考え方です。

『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』(加藤千博編、大蔵財務協会刊)の「相続税法基本通達9-2」の解説が挙げられます。

  ①「その利益を受けさせることについての積極的な行為を判定することが必要であることから同族会社の場合に限定しているものであろう。」とあり、適用には、「積極性」を判定する必要があるとの考え方が示されています。

  ②「同族会社の場合に限ってこのみなす贈与の取扱いをすることとしているのは、 同族会社の行為計算を否認することができるものとする法(筆者注:「相法」)64 条の規定を前提としているものであるということができる。」とあり、適用には、主に同族間の恣意的な経済的価値の移転を前提としている考え方が示されています。

しかし、残念ながら、『相続税法基本通達逐条解説(平成27年版)』(野原誠編、大蔵財務協会刊)以降の『相続税法基本通達逐条解説(大蔵財務協会刊)』では、上記[参考通達等]①・②の文言が削除されています。

相続税法基本通達9-2の通達の文言やそもそもの相続税法9条の文言からは、「積極性」や贈与者や受贈者の経済的価値の移転に係る「恣意」といった主観的要素は規定されておらず、みなし贈与の適用がないと判断することは難しいと思われます(独立当事者間取引の場合には適用を排除するべきという見解も法律の文言からそこまで限定解釈できるかという点で同様に成り立ちにくいと思われます)。

イ みなし贈与該当説
株式について、支配株主が少数株主から取得する場合には原則評価(注:小会社かつ法人税相当額へ控除せず、不動産・株式は時価評価を要すると思料されます)なのに、支配株主が支配する会社が取得する場合には配当還元方式の価額になるのは不整合という考え方です。

東京高裁平成27年4月22日判決(平成26年(行コ)第457号事件。上告等棄却)では、同族株主が実質的に支配する会社を同族株主として考えて、上記被支配会社が同族会社の非上場株式を取得する場合には原則評価によるべきと述べています。

また、上記裁判例の解説ジュリスト1507号147~150頁において川田剛明治大学前教授は、相続税法基本通達9-2からは、第三者割当増資や自己株式取得(金庫株取得)について、みなし贈与の規定が適用されるか排除されるか不明である旨を述べられております。

なお、実際問題として、税務調査の対象となるかという確率論は別次元の問題です。

第2 分配場面(閉鎖会社)

1 会社法の位置づけ

新任役員という特定の者に配当還元で割り当てることになるため、①第三者割当、且つ、②有利発行の各規制を遵守する必要があります(「時価」をいくらと算定するかという問題であり、配当還元方式による価額を時価とみる余地はあるものの、第三者割当である以上、特別決議を要する点では変わりはないです。)。

2 必要な手続

⑴ 他の株主への根回し

① 第三者割当・②有利発行共に、株主総会の特別決議(普通株主総会・種類株主総会ともに、発行済株式の2/3以上の賛成)を要するので、反対票を投じないように、他の株主に根回しをしておく必要があります。

⑵ 株主総会招集に係る取締役会決議

後記⑶の株主総会招集に係る取締役会決議をします。

⑶ 株主総会招集通知の発送

⑷ 株主総会の特別決議(会社法309条2項5号・199条2項・205条2項)

以下の事項を決議します(会社法199条)。

   募集株式の数
  募集株式の払込金額(1株当たりの払込金額)
  金銭以外の資産による場合はその旨、財産の内容・額
  払込期日・期間
  総数引受方式の場合には引受ける者の名称
   cf1:自己株式の処分のため、資本金等の増加はないので、増加する資本金等を定める必要はない。
   cf2:総数引受方式の場合、申込者に対する通知・申込書の提出・割当の決定・割当てる募集株式数の通知手続は不要(会社法205条1項)。

⑸ 募集株式の総数引受契約の締結

⑹ 株主名簿の書換

3 税務

⑴ 割当てする会社

資本取引のため、税金は発生しません。

⑵ 取得する株主

「時価」をどう捉えるかという問題ですが、同族株主が非同族株主に譲渡する場合には、配当還元方式による価額が認められていることから、時価=配当還元方式による価額であり、取得する株主には取得時点で利益は存しないことになります。

なお、原則評価を時価とみると、取得する株主(新任役員)は、原則評価による額と配当還元方式による額との差額について給与所得課税されます。

⑶ 既存株主

持ち株の価額が減少するため、税金は発生しないと思われます。

第3 その他

外部に協力的な第三者(役員・社員持ち株会、一般社団法人など)を用意し、当該第三者が取得する手法も考えられます。第三者が配当還元方式の価額で取得し、新任取締役が現れたら、配当還元方式の価額で売却するという方法です。

ただし、持ち株会については従業員等が最初に購入する資金の手当てをどうするか、持ち株会の実体があるか、持ち株会の実体の維持を継続できるか(簡単に言うと、同族株主の息がかからずに組織として運営されているか)などの問題があり、熟慮の上で決断する必要があります。

仮に特定の外部の第三者に一時的に取得させる場合には、当該第三者とは、株式譲渡に係る株主間契約や登録質の設定をするなどの対策をする必要があるほか、当該第三者について、独立の第三者性を証拠化するために、議決権行使について会社提案議案に反対票を投じたことに関する証拠を残すことが必要です。

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。