大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995
中小企業の会社支配をめぐる紛争(その3)
4 多数派も安心できない~少数派転落リスクや想定外のキャッシュ流出リスク~
⑴ いつ少数派に転落するかわからないリスク
しかし、多数派株主も、いつ少数派に転落するかわかりません。
例えば、少数派株主が多数派の切り崩しが成功したとか、プータローで親の面倒を見ていた弟が親に遺言を書かせていて過半数を握られてしまったとか、公私混同を理由に裁判により役員を解任されてしまったということもあります。
⑵ 想定外のキャッシュ流出の可能性
少数派株主が、第三者に株式を譲渡しようとして譲渡承認請求をしてくる場合があります。多数派としては、部外者に決算書を開示したくないということもあり、多数派が懇意にしている第三者を買主に指名することはできますが、裁判所による鑑定で株式が高く評価されて、多額のお金を用意して会社が買い手に貸し付ける必要が出てくる可能性もあります(少数派株主の株式数が発行済株式の3%未満であれば譲渡承認を選択する場合もあります)。
また、株式の問題ではないですが、親の会社に対する貸付金が積みあがっており、相続により当然分割されて、適切に処理しておれば返さなくていいはずの借入金について、銀行借入をしてまで返済しないといけない場合(会社が債務超過でない場合)やきょうだいから解散請求や債権者破産の申立てを受けて会社が破産する場合(会社が債務超過の場合)もあります。
⑶ 「『顧問税理士』『顧問弁護士』がいるから安心」という思込み
多数派株主は、会社のお金で契約している顧問税理士や顧問弁護士がおり、いつでも専門家に相談できるという強みがあります。
しかし、「顧問税理士」がいるから大丈夫とか、「顧問弁護士」がいるから安心とは言えない点に注意が必要です。
そもそも、顧問弁護士や顧問税理士は、会社と顧問契約をしているのであって、株主個人や代表取締役個人と顧問契約を締結していないため、専門家として会社全体の利益を考えることはあっても、株主個人や代表取締役個人の利益を考える義務はありません。
また、税理士の職務は、税法に合致した申告書の作成ですので、顧問税理士は、日常業務の中で、支配権の異動や役員借入金の返済リスクについて注意を払うことはあまりないと言えます(むしろ、税務調査対応のため、不明金などを役員貸付金や役員借入金として経理処理して、結果的に相続人間の将来の紛争の原因を作ってしまう結果になることが散見されます)。
顧問弁護士も、契約書のリーガルチェック、労働紛争や焦げ付いた債権回収などの日常の会社法務に注力しているうえに、株主名簿や法人税申告書を見る機会がほぼないため(また、申告書を読み解く知識もないため)、社長などから株主の構成について質問を受けない限り、支配権を維持できるか・できないかの問題点を認識できないといえます。
さらに、顧問税理士も顧問弁護士も、株主個人や代表取締役個人も、多数派の支配が今後も続くだろうという正常バイアス、遠い未来のことは予測しようがないという心理が働くことから、支配権の維持や帰趨に大きな関心を抱きにくいのは仕方がない面があります。
⑷ 多数派も来るべき事態に備える必要が高い
このように、多数派も、漫然と胡坐をかいていると(※1)、ある日突然会社から追い出されて役員報酬という収入源がなくなる、株式買取や相続人への借入金返済により会社のキャッシュが無くなり役員報酬を減額せざるを得ないということは十分あり得ますし、当事務所の取扱い事例でもよく経験する現象です。最悪の場合には、借入金を返済できずに債権者破産の申し立てを受けることです。
結局、自身の権利を一番よく守れるのは、自分自身しかありえないので、多数派株主や代表取締役個人は、顧問税理士や顧問弁護士に任せているから安心という考え自体が慢心であると心得て、顧問税理士や顧問弁護士に積極的に質問し(会社と株主との利益相反の問題はあります)、主体的に定款の整備、株主構成の確認(法人税申告書別表二の熟読)、BSや勘定科目内訳書の確認(親族からの借入金の確認など)を普段からチェックする必要があります。
※1 先代経営者に対する配慮はもちろん、会社経営にタッチしない兄弟や親族に対して普段から配慮することが(例えば、甥・姪への進学祝いなど節目の祝儀を欠かさないなど)、重要と思われます。実際に弁護士に相談される少数派の方は、長年にわたる感情的わだかまり・しこりを持っていない方はいない印象があります。
5 まとめ
以上のように、株式会社は、過半数ルールを基本としているため、攻撃側(通常は少数派株主)であれ、防御側(通常は多数派株主)であれ、究極的には発行済株式の過半数の確保を目指すことになります。
ただ、少数派株主は、往々にして過半数ルールの壁を越えられません。その場合には、株式の譲渡承認請求(とそれに伴う会社による買取人指名)や多数派株主の死亡による持株割合の変動を待つなどを考えることになります。
多数派株主は、多数派の強みを生かして、地道に打つべき手を打って、多数派の地位を盤石にしていく必要があります(但し、株式数を積み上げていくと、相続財産が増えて、相続税も増大するというジレンマが生じますので、早期の後継者の育成と後継者に取得させることが必要となります。
(次ページに続く)
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