自筆証書遺言の検認の流れと注意点

2017.6.26

1 自筆証書遺言と公正証書遺言で検認の要否が変わる

 自筆証書遺言は、全文自筆、日付記載、署名押印という要件を満たしていれば、どのような紙に書いていても遺言としての効力が認められ、手軽に作成できるといえます。もっとも、自筆証書遺言だけを持って、不動産の移転登記や被相続人の預金の払戻をしに行っても門前払いとなり、家庭裁判所での検認調書付きの遺言の提示を求められます。
他方、公正証書遺言は、公証人という方が作成するもので、公証人に手数料を支払う必要があるものの、上記の検認手続が不要です。
そのため、自筆証書遺言は、逝去後に家裁での検認というコストが発生し、公正証書遺言は、逝去前の作成時にコストが発生するという差異があるといえます。

2 そもそも「検認」とは?

 自筆証書遺言に要求される検認手続ですが、「検認」というと非常にかしこまった重大な手続きという印象があります。
しかし、実際には、遺言の物理的な状態を確認する手続きで、①封筒に入れられているか(封筒に入れられている場合には検認手続の場で裁判官が開封します)、②遺言はどのような紙質か、③筆跡がペンで書かれているか、鉛筆かなどの筆記具の種類、④ペン字が青色か、黒色か、⑤印影があるか、⑥印影があるとして朱肉によるものか否かなどについて確認していく作業です。
後述する通り、遺言が有効か無効かを判定する場ではありません。

3 検認手続の流れ

⑴ 検認申立てまで

 戸籍謄本など必要書類をそろえたら、遺言の検認の申立てをします。なお、申立の際に原本還付の申し出をしておかないと、戸籍謄本等が返してくれません。戸籍謄本は、被相続人名義の不動産や預金口座を変更するのに必要となりますので、原本還付の申請をする必要があります(申請書に戸籍謄本等のコピーを添付する必要があります。)。
遺言書の原本は、提出する必要はありません(検認手続の当日に持参します)が、封筒に入っていない場合にはコピーを、入っている場合には封筒のコピーを付けたほうが丁寧とされています(遺言書等のコピー申立書の必要添付書類とはされていません)。
また、検認済証明書の交付申請書も併せて提出しておきます。

⑵ 検認当日~出頭しなくても制裁はない

 不足資料等が無い場合には、裁判所の込み具合にもよりますが、申立してから3~4週間後に裁判所へ出頭するようにとの要請が書面で全相続人に行きます。民事訴訟と異なり、出頭しなかったから不利益となる制裁はありません(民事訴訟の場合は第1回期日に答弁書も出さずに出頭しないと、敗訴してしまいます。)。
もっとも、出頭したうえで、被相続人の筆跡か否かを確認し、意見を述べることは無益ではないです。

⑶ 検認当日~検認手続の具体的内容~

 検認の当日は、広めの会議室のようなところに通されて、裁判官、書記官、出頭した相続人が一堂に会します。
遺言書の原本を裁判官に提出し、裁判官は、封筒入りの遺言の場合には、その場でハサミにより封筒を切って中身を取り出し、封筒の状態や遺言書状態を順次確認していき、書記官がそれを書き留めて、検認期日調書の作成資料としていきます。
裁判官は、その場で出頭した相続人に対して、遺言書の筆跡が被相続人の筆跡かどうかを確認していきます。なお、出頭した被相続人のうちの一人でも、被相続人の筆跡ではないと断言すると、後の名義変更手続きがスムーズにいかなくなる可能性が出てきます(なお、応答としては、①被相続人の筆跡である、②被相続人の筆跡かわからない、③被相続人の筆跡ではないの3つとなります)。
時間にすると、5~10分くらいで終了します。

⑷ 検認当日~検認終了後の手続~

 これでようやく、銀行や不動産の名義変更をする準備が整ったことになります。
もっとも、銀行によって必要となる戸籍謄本の範囲、住民票除票が必要かなど微妙な差異がありますので、その点を踏まえながら、遺言書の内容を実現する名義変更手続をしていくことになります。

5 遺言を保管していない側の方の場合の申請書類

 遺言を保管しておらず、遺留分を請求する必要がある方の場合には、遺言書の検認期日調書謄本の交付申請をすることになります。
上記調書には、遺言書のコピーが添付されているので、遺言の内容を確認して、とりあえず遺留分減殺請求をするのか、被相続人の財産状況を調査してから遺留分減殺請求をするのかなどを検討することになります。

6 遺言の検認でよく質問される点~有効・無効を判定する場でない~

 遺言の検認期日の当日に、裁判官に対して、被相続人がこんな内容の遺言を書くはずがないとか、被相続人は認知症で遺言を作れる状態でなかったはずだとかを主張するべきか、又は主張したいという相談をよく受けます。
もっとも、遺言の検認は、遺言の物理的状態を確認・確定する作業にすぎず、遺言が無効と主張する場合には、別途地方裁判所に、遺言無効確認請求訴訟を提起する必要があります。
そのため、検認当日に述べることができるのは、筆跡が被相続人のものか、そうでないかということだけですので、注意が必要です。

7 遺言の検認でよく質問される点~遺言らしきものはとりあえず検認申立て~

 自筆証書遺言と言っても、明らかに無効なもの(日付が無い、押印がないなど)もありますが、これらの書類についても検認申立てをするべきです。なぜなら、遺産分割審判や遺言無効確認訴訟などの後の争訟手続きでいきなり出すと、偽造ではないかと疑われる可能性があるので、なるべく早い段階で検認申立てをして、その状態を確定・公証してもらって、後の不要な争点をなくしておく必要があるからです。

8 検認後に遺言執行者選任申立てを要することも

 また、自筆証書遺言の表現、例えば「~にあげる」とか、「贈る」とかという表現の場合には、名義変更するために遺言執行者が必要と言ってくる金融機関があります。 そのため、封函されて内容がわからない遺言の場合で、検認の当日に表現が「相続させる」ではなく、「~にあげる」という表現の場合には、さらに遺言執行者選任申立てをする必要があります。

 

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

  • 自筆遺言書作成プラン
  • 公正証書遺言書作成プラン

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。