税理士がついている場合の相続税申告・遺産分割協議に要注意?

2016.12.10

1 税理士がついている相続税申告・遺産分割協議に関する相談が意外に多い

 「餅は餅屋」のとおり、相続税申告については、税理士がついていて安心される方が多いと思います。
ただ、弁護士として遺産分割や遺留分の相談のついで、この相続税申告が正しいのか、財産評価が正しいのかの相談を受けることが、意外に多いです。
その中で感じた問題点がいくつかあります。

2 問題点①~その税理士は誰の味方か?~

 例えば、税理士が、あたかも中立な立場であるかのように他の相続人に説明して協議の内容に「アドバイス」する方がいるようです(申告書の作成に徹するなら各相続人から中立です。ただし、それでも生命保険の非課税枠を誰に割り振るかなどの問題は生じます)。
もっとも、相談者からよくよく聞くと、会社の税務顧問で、後継者である相続人のために動いているとしか思えない物言いをされている、具体的には「株式の相続を主張されると会社の存続が厳しいから、この遺産分割協議に判を押してほしい」、「結婚して家を出た(姓が変わった)からこの代償金でお願いしたい」などと言われたという相談は結構あります。
しかし、上記の発言は、弁護士資格を有しないのに法律事務を行うという弁護士法違反の問題のほかに、そもそも他の相続人の利益を犠牲にして、依頼者たる後継者相続人の利益を図っている点で、利益相反の可能性があります(相続人Aの取り分が増えると、他の相続人の取り分が減るため)。利益相反の可能性がある場合には、同意書を取るべきですが、税理士がとられているケースはあまり聞いたことがありません。
そのため、「税理士が入っているから『安心』」だとしても、それは相続税の申告書作成を任せられるという限度での『安心』であり、自分の利益を確保してくれるという意味での『安心』とはならないように思われます。

3 問題点②~財産の評価額は正しいのか~

 これは、問題点①と関連しますが、全相続人に財産の一覧を交付される場合に、特に不動産について「時価」とは何かを説明しない(土地の相続税評価額は流通価格より安めであるあること)、依頼者相続人が小規模宅地の特例を受ける場合に、特例適用後の評価額(最大80%減となります)が時価だと、他の相続人に説明している例があります。
「時価」の算定は、色々と難しい問題があります。土地Aを取得する相続人は、土地Aの価額は安く、他の相続人が取得する土地Bは高いと主張する方が得な場合もあり、立場が変わると時価も変わりえるという問題があります。
また、小規模宅地の特例適用後の相続税申告書上の評価額を時価とするのは、不動産を時価の20%とすることになり、依頼者相続人の取り分を増え、他の相続人の取り分が減りますので、他の相続人としてはたまったものではないと思われます。
そのため、相続税申告書(の第11表)の評価額が本当に「時価」なのかについては、弁護士にセカンドオピニオンを求めたほうがよいように思われます。

4 問題点③~特別受益に関するミスリード~

 相続人が被相続人から生前に多額の贈与を受けていた場合、特別受益になる可能性があり、裁判では10年前であっても立証できれば特別受益になります。
ただ、相続税法では、亡くなる3年前以内の贈与を相続財産に加算するという規定があるため、税理士の中には、亡くなる3年より前の贈与は相続とは関係ないとおっしゃる方がいるようです。実際には「相続税申告とは関係ない」とおっしゃったのを相続人が「相続とは関係ない」と間違って記憶した可能性もありますが、複数の相談者から似たような相談を受けるので、誤解されている方がいらっしゃるのかなという印象があります。

5 問題点④~「もめないのが一番」は本当か?~

 また、広告や講演で、相続はもめないのが一番とおっしゃる税理士がいます。
一般論としては正しいのですが、遺産分割協議で、期限内に申告しないと配偶者税額軽減特例や小規模宅地特例の適用が無く相続税が増えるから早く協議を成立させましょう、もめずに協議を成立させるのが相続税が安くなって得ですよという言い方をする例があります。
しかし、弁護士の目から見ると、相続税は判断要素のうちの一要素にとどまり、あたかも相続税だけが判断要素ですという説明の仕方をするのはどうかなと思われます。上記の特例を例にとれば、所定の手続きを踏めば、当初の申告では相続税額が高くても、協議成立後に特例適用の可能性があることを他の相続人に説明すべきと思われます。
また、裁判をして良かった(もめて良かった)とおっしゃる方がいるのも事実です。何が良いかは、各相続人、被相続人が決めるべき事柄でしょう。

6 お困りの場合には

 相続税の申告がわからない、税理士の言っていること分からないなどでお困りであれば、たちばな総合法律事務所へご相談ください(初回30分無料)。 ご相談のご予約は、https://law-tachibana.sakura.ne.jp/law-tachibana.jp/contact/ 又は06-6467-8775にお電話いただいてご予約いただき、お気軽にご相談ください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。