相続放棄でしてはいけないこと、してもよいこと

2015.12.22

1 相続放棄が認められない行為とは?

 相続放棄は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も一切を引き継がないことができる行為です。
ただ、相続放棄の前後を問わずに、相続財産の一部でも「処分」した場合には認められませんし(民法921条1号)、「隠匿」、「消費」した場合も認められません(民法921条3号)。莫大な借金や保証債務があることを知らずに、遺産に手を付けてしまうことはよくあることですが、「処分」や「消費」などをすると相続放棄が認められないことになります。
では、「処分」や「隠匿」はどのような行為が当たるのでしょうか?相続放棄前にしてはいけない行為、してもよい行為について見てみたいと思います。

2 相続放棄の際にしてもよい行為

 以下の行為については、裁判例上、相続放棄の効力が認められています。
①保存行為、短期賃貸すること(民法921条1号但書)
②遺産から葬式費用、火葬費用、治療費を支払うこと(大阪高裁昭和54年3月22日決定。ただし、あまりにも高額な場合には認められない可能性があります)
③形見分けで価値がない物の取得
④形見分けで、プラスの財産に占める割合が低いもの(ただし、これも程度問題で、次の3項の⑥の裁判例もあります)
⑤遺産から仏壇等購入すること(大阪高裁平成14年7月3日決定。ただし、あまりにも高額の場合には認められない可能性があります)
⑥生命保険の死亡保険金の受領(死亡保険金は、相続財産ではないため受領することができます。)

3 相続放棄の際にしてはならない行為

以下の行為については、裁判例上、相続放棄が認められませんでした。
①売掛金の取立て
②賃借権確認訴訟の提起(自身が賃借権を相続で受け継いだことの確認を裁判で求める行為です)
③賃料受領口座の変更(賃料の送金口座を被相続人から自己に変更するように通知をする場合などです)
④被相続人の債務の弁済
⑤遺産分割協議(なお、遺産分割協議は「処分」に当たらないとする裁判例もありますが、遺産額や債務額など詳細な事実認定をしないと判断が難しいと思われ、注意が必要です)
⑥毛皮コート、絨毯、スーツなどの遺品のほとんどを持ち去る行為(東京地裁平成12年3月21日判決は、小型トラックで2回にわたり、毛皮コート、絨毯、スーツなど衣類全てを持ち去った行為は、「形見分け」でないとします。)

4 赤の他人が価値ある財産を処分できないと考えるとわかりやすい

 相続放棄をすると、例えると、赤の他人が財産を管理する状態になります。 そのため、赤の他人として、許される行為かどうかというように考えると、相続放棄の前後を問わず、認められるか否か判断しやすいといえます。
ただし、この点は、証拠評価や事実認定など裁判上の問題がありますので、弁護士に相談されることをお勧めします。

5 お困りの場合には

 相続放棄したいけどどうしたらよいかわからない、遺産に手を付けてしまったが、相続放棄できるかわからない、相続手続をどう進めたらよいか分からないなどでお困りであれば、たちばな総合法律事務所へご相談ください(初回30分無料)。 ご相談のご予約は、https://law-tachibana.sakura.ne.jp/law-tachibana.jp/contact/ 又は06-6467-8775にお電話いただいてご予約いただき、お気軽にご相談ください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。