「タワーマンション節税」の危険性/平等原則違反の主張の可能性

2015.11.10

1 タワーマンション節税の概要

 最近は広告などでタワーマンションが節税になると宣伝され、書籍でも紹介されることが多いです。
節税になるかというと、簡単に言うとマンションの戸数が多いため1戸当たりのマンションの敷地が小さくなります。そして、財産評価基本通達では、マンションの評価額は、区分所有建物の価額と敷地の価額の合計となります。そのため、高層階ほど市場価格(「市場時価」)が高いにもかかわらず、敷地が小さいことから「市場時価」と「財産評価基本通達での積算価格」との差が大きくなり、節税になるとされています。
市場時価と財産評価基本通達のかい離を利用した節税策といえます。

2 相続財産はそもそも「時価」評価される

 相続税法上、財産はすべて時価で評価することになっており(相続税法第22条)、ただ統一的なモノサシがないと混乱が生じることなどから財産評価基本通達が定められて、時価額を積算することになっています(「財産評価基本通達での積算価格」)。

3 評価通達の例外的取扱規定

 タワーマンションも、本来は相続税法第22条で時価、つまり「市場時価」で評価すべきですが、統一的モノサシである「財産評価基本通達での積算価格」によると大幅に安くなります。
もっとも、財産評価基本通達第6項には、通達によることが不適当な場合には国税庁長官の指示を受けて評価してよい旨が定められており、「財産評価基本通達での積算価格」が「市場時価」より高い又は大幅に安い場合には、財産評価基本通達によらずに時価額を算定してよいとしています
そのため、税務署が鑑定や類似事例の販売価額を収集して、タワーマンションの市場時価を算定して課税することは、そもそも財産評価基本通達上、可能となっています(市場時価の算定は非常に大変ですが)。
タワーマンション節税を宣伝する方々は、おそらく上記の通達を知ったうえで宣伝・販売しているのかもしれませんが、国が作成した財産評価基本通達の土地評価に係る条項を使用しつつ、別の条項(上記の第6項)の適用はないという解釈・判断は、弁護士の目からは少しアンバランスに映り、たとえは悪いですが、お釈迦様の手の平の孫悟空との印象を受けてしまいます。

4 「平等原則」違反は主張できるか?

 ただ、ある納税者のタワーマンションについては「市場時価」で評価して課税し、別のある納税者のタワーマンションについては「財産評価基本通達での積算価格」で評価して課税するのは、統一のモノサシとしての評価通達の意味がなくなりますし、不公平です。そのため、納税者側としては、「市場時価」で積算して課税された場合には「平等原則違反」として課税処分の取消しを求められないかが問題となります。
まだ、弊職の中で結論は出ていませんが、相続税法の時価評価の原則からすると、課税処分に取り消すべき「違法」があるとは言えないものの、「不当」な処分とみる余地はあります(なお、裁判で争えるのは違法な処分のみですが、国税不服審判所への審査請求では不当な処分も争えるとされています。もっとも「不当」を理由に課税処分が取消されたものは極めて稀ですが)。結局、タワーマンションの購入の段階、遅くとも贈与税や相続税の申告の段階から、税務調査、異議申立て(再調査の請求)そして審査請求を見据えて、「財産評価基本通達での積算価格」が妥当なのだという証拠固めをしておく必要があると、現時点では考えています。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。