相続税の節税~養子縁組か婚姻か~

2015.12.26

1 国民的スターの相続税の記事を見て

 国民的スターの高倉健氏の唯一の相続人である養女の方が、相続税だけで3億5000万円以上を支払わなければならず、延納手続をせざるをえなかったのではないかという週刊誌(週刊新潮新年特大号)の記事を拝読しました。
上記記事を見て、仮に養子ではなく婚姻関係であれば、税金はどうなったかという考えがふと浮かびました。

2 節税だけを考えると、養子縁組届ではなく婚姻届?

 仮に、①配偶者がいない、②被相続人と相続させたい人の性別が異なる、③被相続人と相続させたい人が4親等以上離れているという仮定の事実関係を前提にして、節税だけを考えると、養子関係と婚姻関係とでは、相続税の税額で大きな差異が生まれます。 なぜなら、婚姻関係にある場合には配偶者軽減の特例があり、申告を条件に、配偶者が取得した財産のうち、法定相続分か1億6000万円のいずれか多いほうに相当する相続財産に係る相続税がゼロとなるからです(相続税法19条の2)。 そうすると、養子縁組の届出ではなく婚姻の届出のほうが、節税効果だけに着目すると良いようにも見えます。

3 節税だけを目的とする婚姻は無効の可能性

しかし、民法上、婚姻の有効要件として、夫婦としての生活を送ろうとする意思(実質的意思)が必要とされています(なお、離婚は離婚届を出す形式的意思のみで足ります)。
そのため、節税だけを目的とする婚姻は、実質的意思がないとして無効とされる可能性があります。
そして、夫婦としての生活を送ろうとする意思があったかは、「本当に夫婦だった」という残された配偶者の説明だけでは裁判では勝てず、様々な事実関係を総合して認定されることになります。例えば、交流期間の長さや内容、婚姻を決意した動機、披露宴をしたか、年賀状をはじめとする挨拶状は夫婦と明示して連名で出したか、勤務先などに緊急連絡先として配偶者の電話番号を届け出たか、同居していたか、家計の分担割合や水道光熱費の名義、年齢などから総合的に判断することになります。
したがって、2の設例で、節税だけを目的として養子縁組ではなく婚姻を選択することは、民法上、難があります。
なお、民法上、婚姻関係と成年養子関係とでは、扶養義務の程度(1杯の粥を分かち合う義務か否か)、同居義務、財産の共有推定、法定相続分などの差異もありますので、節税だけに着目し、養子ではなく婚姻という形式を選択することは慎重に検討する必要があります。

4 節税プランは法的検証が不可欠

 節税プランに共通していえることですが、ブレインストーミングで節税プランを色々考えても、私法・税法の要件の充足性、リスクの大小、相続税の税務調査の可能性の大小、立証責任の所在などを検証して、本当には問題ないかを吟味する必要があります。

5 お困りの場合には

 タックスプランニング、相続税の税務調査への対応、相続手続をどう進めたらよいか分からないなどでお困りであれば、たちばな総合法律事務所へご相談ください(初回30分無料)。 ご相談のご予約は、https://law-tachibana.sakura.ne.jp/law-tachibana.jp/contact/ 又は06-6467-8775にお電話いただいてご予約いただき、お気軽にご相談ください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。