財産債務『明細書』から財産債務『調書』に大きな変更

2015.12.2

1 今までの『財産債務明細書』制度

 今までは、財産債務明細書制度は、その年分の所得金額が2000万円超である場合に提出すること要するとされていました。①2000万円超要件には、分離課税に係る所得金額など(利子所得、配当所得、譲渡所得など)を含まないとされ、②不提出についての罰則もなければ、提出についてのメリット(インセンティブ)もありませんでした。
また、③書き方も、土地を何筆持っていても「土地~円」、複数の証券会社の口座で様々な銘柄の株式を持っていても証券口座名を書かずにまとめて「株式~円」など、かなりアバウトな書き方でも特に問題とされることはありませんでしたし、金額の算定方法もかなりアバウトだったような印象があります。

2 平成28年1月1日以降の『財産債務調書』制度

 ⑴ 財産債務『調書』制度とは?

 来年から、財産債務調書制度が始まります。対象者は、平成27年分の所得税の申告期限である平成28年3月15日には、申告書とともに財産債務調書を提出することになります。
財産債務調書では、
Ⅰ:その年分の所得金額が2000万円超で、所得金額には上場株式の配当や申告分離課税を含み、且つ
Ⅱ:財産額の要件として、

  ⅰ:その年の12月31日に有する財産の価額の合計額3億円以上、又は
ⅱ:国外転出特例財産(有価証券、信用取引残、匿名組合に係る出資持分、デリバティブなど)が1億円以上ある場合とされ、インセンティブが用意されています。

 ⑵ 所得金額要件~対象所得の範囲が拡大~

 Ⅰの所得金額要件に、上場株式の配当所得や申告分離課税(不動産の譲渡所得や上場株式の譲渡所得など)に係る所得を含むことになったので、対象者は増加すると思われます(国外送金調書施行令第12条の2第5項各号)。
さらに、平成28年分の所得(平成29年3月15日申告期限)からは、金融所得一体課税により特定公社債(国債のほか外貨建債券)の売却益そして償還益が申告分離課税も可能となるため、2000万円超要件を充足しやすくなり、さらに対象者は増加すると思われます。
 マイナンバーの施行で、今後は分離課税所得の紐づけが容易となっていきますので、「分離だから当局は知らないだろう」という油断は、許されなくなるものと推測されます。

⑶ 財産額要件~新設された要件 提出者を限定~

 しかし、Ⅰの所得要件で該当者が増えますが、Ⅱの財産額の要件で対象者に絞りがかけられています。
いわゆるアベノミクス相場で不動産当が値上がりしていますので、都市中心部の不動産所有者、株式保有者そして相続税対策として保険に加入されている方は、一度、資産の棚卸しをして、財産債務調書の対象となる財産を保有しているか確認する必要があると思われます
もっとも、不動産については、固定資産税評価額でもよいとされ、非上場の株式については、帳簿上の純資産価額に持ち株割合を乗じた価額でよいとされるなど、財産評価基本通達による複雑な計算を要しない簡易かつ安価に出る評価でよいとされていますので、棚卸をしてみたら財産額要件を満たさなかったという方が、多くいらっしゃいそうです。
ただし、今後は、財産額要件について金額を下げていき、調書提出の対象者を増やしていく可能性はあります

⑷ 非常に詳細な記入が必要!!

 財産債務明細調書の記入も、かなり詳細に記載しなければなりません。
 例えると相続税申告書の第11表の「相続税がかかる財産の明細書」に匹敵すると言っても過言ではないうえに、相続税申告書と異なり有価証券や未決済の信用取引などについては取得価額も記載なければならず(一般口座で保有の方は大変と思われます)、専門家でないと無理ではないかと思われます。
 また、財産債務調書に債務、つまり借金の記入も要求されます。これは、相続税の調査の際にも、借金がある場合には、何を購入等したかを追求されるのと同じ趣旨で、借金の化体財産、つまり借金をしたら何らかの財産が残っているはずという趣旨によるものです。債務の内容が保証債務の場合には化体財産はありませんが、主債務者との関係について追及される可能性があります。

⑸ インセンティブ

 提出しないことによる刑事罰がないのは従前どおりですが、提出した場合には調書に記載した財産に係る所得の申告漏れ(所得税や相続税)があった場合に過少申告加算税を5%軽減され、逆に調書に記載しなかった財産に係る所得税の申告漏れについては過少申告加算税を5%加重するとされています。

3 財産債務調書のインセンティブは本当にインセンティブか?

 財産債務調書のメリット部分ですが、弊職の個人的に感想としては、きちんと申告している大部分の人には何のメリットにもなっていない印象がありましたが、課税当局としては、金融資産や少額の国外財産を逐次把握したいということかと推測されます。例えると、相続税の税務調査が前倒しされていると分かりやすいかも知れません。
マイナンバーや外国課税当局との情報交換など、情報を把握する制度の整備が年々進んでいることからすると、提出したほうが無難でしょう。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

事業承継・相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。