韓国籍の親の相続手続はどうすればいいでしょう?

2019.7.15

当事務所は、場所柄もあって、在日韓国人の方の相続に関するご相談を多くいただいています。今回は、韓国籍を持ったまま日本で生活しておられる、在日韓国人の方の相続手続について解説いたします。

1 .在日韓国人の方の相続手続きには、どの国の法律が適用されるのか?

・原則として、国籍のある、韓国・北朝鮮の法律が適用されます。

日本の国籍を取得せずに、日本で長年生活してこられた方が亡くなられた場合、相続手続は、亡くなられた方の国籍のある韓国や北朝鮮の法律が適用されます。
相続人が全員日本国籍を持っていても、それは変わりません。

・法の適用に関する通則法

日本では、平成18年に全面改正された「法の適用に関する通則法」により、外国籍の方の相続は、被相続人の本国法によると定められています。
一方、韓国の法律でも、被相続人の本国法によると定められているので、結果的に、韓国の法律が適用されるわけです。
※被相続人の居住する国の法律によるよう、法律で定めている国もあります。

・例外的に日本の法律が適用される場合もあります

韓国の法律では、遺言書で「相続は日本の法律に準拠する」と指定した場合は、日本の法律が有効になるため、日本の法律に準拠した相続手続が執られることになります。これを、「遺言による準拠法の指定」と言います。

2. 韓国の相続手続について

・法定相続人と相続順位

第一順位  配偶者 + 直系卑属(子または孫またはひ孫など)
第二順位  配偶者 + 直系尊属(親または祖父母など)
第三順位  兄弟姉妹
但し配偶者がいれば、配偶者が単独で相続人になります。ここが日本と大きく違う点です。
第四順位  4親等以内の傍系血族(おじ・おば・甥・姪・いとこなど)
(但し配偶者や第一~三順位者がいない場合)

*日本との大きな違いは、相続人に親も子もいない場合、配偶者が単独で相続できる点です。
*代襲相続については、日本の場合と違い、兄弟姉妹の代襲相続人が子どもに限られず、子や孫にも下がっていくことができます。

・法定相続分

第一順位  配偶者は直系卑属の5割増し
第二順位  配偶者は直系尊属の5割増し
第三順位  同率 配偶者がいれば配偶者が100%で、他の人に相続権はありません。
第四順位  同率 配偶者がいれば配偶者が100%で、他の人に相続権はありません。

となっています。例えば
① 第一順位の配偶者と子ども(AとB)が相続する場合は、
配偶者が1.5:子どもAが1:子どもBが1、 の割合 になります。
※日本の場合は、配偶者が1/2:子どもAが1/4:子どもBが1/4
② 配偶者と親(1人)が相続する場合は、
配偶者が3/5:親が2/5の割合になります。
※日本の場合は、配偶者が2/3:親が1/3

・遺言

遺言の法的な有効性などについても、韓国の法律に拠ることになります。但し、実際の遺言執行を考慮すると、日本の法律にも合致するように遺言書を作成しておく必要があり、公正証書遺言によるのが無難です。
ただし、最初にお話ししたように、被相続人が遺言書で「相続は日本の法律に準拠する」と指定した場合は、日本の法律に則って手続きを進めることになるので、相続手続を始める前に確認しておくことが大切です。

日本の遺言と違うところは?

*韓国民法では、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言に加えて、録音による遺言も認められています。
*2人以上の者が同じ証書で遺言できる、「共同遺言」も認められています(日本では禁止)。
*遺言で嫡出否認ができます。
*相続準拠法を決めることができます(韓国か日本か)。

・遺産分割協議

韓国の「相続財産分割協議」が、日本の「遺産分割協議」にあたります。
日本の場合と同様、相続人全員の参加が必要なので、相続人調査をしなければなりません。そのためには、被相続人の「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」「相続人全員の現戸籍謄本」に相当するものが必要です。
韓国では2007年に戸籍制度が廃止され、「家族関係登録制度」に変更されていますので、2007年までの戸籍謄本と、それ以降の新しい制度のもとの書類を取り寄せる必要があります。

在日韓国・朝鮮人の方の、遺産分割(相続手続)に必要な書類

① 出生から2007年までの、全ての韓国戸籍謄本(及びその日本語翻訳文)
② 韓国の、基本証明書・家族関係証明書・婚姻関係証明書・入養関係証明書・親養子入養関係証明書
③ 被相続人の住民票の除票
④ 韓国籍の法定相続人全員の韓国の基本証明書・家族関係証明書、日本の住民票
⑤ 日本国籍の相続人の戸籍抄本・住民票
⑥ 相続人全員の印鑑証明書
⑦ 遺産分割協議書
⑧ 相続関係説明図
⑨ 固定資産税評価証明書
(⑩ 被相続人の閉鎖外国人登録原票記載事項証明書)      等々

※ 韓国の書類収集については、東京・名古屋・大阪・福岡の韓国総領事館に郵送で申請できます。

・相続税の申告と納税

被相続人や相続人が「居住者」などか否かにより、相続税の申告義務の範囲、申告対象となる財産について差異が生じますので、早めに専門家に相談したほうが良いでしょう。

・韓国にある不動産の相続登記

相続登記の手続きは、韓国の様式に従って、現地の法務局に申請する必要があります。

・韓国にある銀行預金の相続手続き

現地の銀行に行き、韓国の様式に従って、相続手続きをする必要があります。

預貯金のある銀行・郵便局が探せる制度があります

韓国では、主要金融機関が、亡くなった方名義の預貯金がどこにあるか確認するサービスを提供しており、相続人等が被相続人名義の預貯金等の有無を金融監督院で照会することができます(1万ウォン以上が対象)。
照会が可能な金融財産は、預貯金(銀行、貯蓄預金、セマウル金庫、郵便局、信用協同組合)、証券口座、保険契約です。

上記の様に、国籍が韓国にある方の相続手続を進めるには、韓国の法律に準拠しなければならないため、日本の法律知識では対応できないことが多くあります。
当事務所は、相続税も含めた、在日の方の相続のご相談も承っておりますので、お問い合わせください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

  • 自筆遺言書作成プラン
  • 公正証書遺言書作成プラン

遺留分 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。