大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
英文契約書における秘密情報とこれに係る知的財産の関係
1.はじめに
秘密保持契約書を締結するということは、契約当事者間で何らかの情報の交換がなされることが予定されているといえます。そして、情報の中には、ノウハウなどの知的財産と評価される性質の情報が含まれます。では秘密保持契約を締結し、当事者間で秘密保持義務を双方が負い、ノウハウなどが含まれる情報を交換したとして、開示者から被開示者に当該ノウハウが移転したことになるのでしょうか。以下詳説します。
2.知的財産とは
(ア)知的財産とは
①法律上の定義
「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう(知的財産基本法2条1項)と定義されています。
②知的財産の定義の要素
かつ
要素B1:例えば発明のように、人間の創造的活動により生み出されるものであること
又は、
要素B2:例えば商標のように、商品又は役務を表示するもの
又は
要素B3;例えば営業秘密のように、事業活動に有用な技術上又は営業上のもの
をいいます。
先のノウハウについていえば、ノウハウとは情報(要素A)であり、製造方法の一つのように人間の創造的活動により生じたもの(要素B1)とも、事業活動に有用な技術上のもの(要素B3)ともいうことができるので、知的財産に該当することになります。
(イ)知的財産も財産権であり、移転することができます
知的財産も財産権の一種であり、移転することができます。ただ、移転方法については、特に定めがあるわけではないので、合意により定めることができます。
3.秘密保持義務が生じたとしても、知的財産の移転が生じるわけではない。
秘密義務の発生は、知的財産の移転を当然に生じさせるわけではありませんしかしながら、知的財産も情報であり、情報は一旦開示されると情報受領者に対し情報の使用を物理的にやめさせる方法はありません。そこで、契約により情報受領者を拘束する方法が挙げられます。
4.情報受領者の情報の自由使用を制限又は禁止する条項
(ア)情報受領者の情報の自由使用を制限又は禁止する条項
情報受領者の情報の自由使用を制限又は禁止する条項としては、秘密保持契約書には情報の開示の目的が定められていることが通例ですので、目的外の使用を禁止する条項を設けることが一つです。また、情報に係る知的財産について情報の開示はその情報に係る知的財産の移転・取得等は生じないことを確認する条項を設けることも有用です。
(イ)確認が必要な項目
以下のような条項により使用を禁止又は移転がないことを確認させる必要があります
①条項【目的外使用の禁止】
I.目的外使用の禁止
(ii) In the event of Receiving Party receiving a sample by Disclosing Party, Receiving Party shall not analyze the sample without a prior written consent of Disclosing Party. The analysis for the sample is deemed to be Confidential Information, and Receiving Party shall report promptly the analysis result to Disclosing Party in writing
II.訳
(ii) 受領者は、開示者から試料を受領した場合、開示者の事前の書面による同意なく、当該試料を分析してはならないものとします。また、当該試料の分析は秘密情報とみなし、受領者は分析結果を速やかに書面にて開示当事者に報告するものとします。
III.検討
秘密情報の目的外使用禁止条項は、受領開示者に情報の自由使用を禁止するという意味で、情報に係る知的財産に利用制限をかけていることに等しい効果を生じさせます。
②条項【情報に係る権利処理条項】
I.情報に係る権利処理条項
II.訳
III.検討
情報開示者の情報の開示により、情報に係る知的財産を含めて一切の権利が情報受領者に移転していないのであれば、少なくとも情報を第三者に正当に貸与するなどの情報に係る権利を使用することはできません。この意味で、情報使用を制限することが可能となります。
5.おわりに
秘密情報と知的財産の関係は高度な法的理解が必要な場合が多く、かつその交渉についても専門性が要求されます。判断に迷われた場合には専門家へのご相談をお勧めします。
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