大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
電子契約に関する法改正や規定について
1. 電子契約がクローズアップされるに至った理由
(1) コロナ禍に加速した契約書の電子化
昨年からのコロナパンデミックにより、社会が大混乱になりました。しかし、他方でハンコ文化の我が国では、押印のみのために出社を余儀なくされる会社員の方が多く存在していました。この状況において、以前はIT大臣ですら、押印の要否について所詮、民・民間の問題などと放言していたのですが、大臣が変わり、政府がこの状況の改善に乗り出すこととなりました。そのため、ハンコを使わない電子契約がクローズアップされることになったのです。
(2) 政府は、押印について
一番の問題は、押印しなければ契約書の効力がないという誤解をいかに解消するかでした。本来は、契約書に押印があろうとなかろうと押印以外の方法で当事者間における契約内容に即した合意の成立が認められるのであれば、当該契約は有効となります。ただ、民事訴訟の規定及びこれを前提とする判例法理により、本人の印鑑が押されているのであれば、本人の意思によって捺印されたと推定し(一段目の推定)、本人の意思によって捺印された契約書は、真正に成立した(二段目の推定)と推定するとされているために、契約書の証拠価値を高めるために、契約書に押印がされてきたのです。この誤解を解消して、ハンコ文化を根絶するために、政府の諮問機関である規制改革会議での議論を経て、電子署名法の行政Q&Aを発出で、政府の見解を明らかにしたのです。法改正によれば年単位の時間を要するところ、行政Q&Aの発出のみであれば、スピード感を持った改善が見込まれることによります。
(3)電子契約の見通し
電子契約は、現代のニーズに合わせた契約手法であり、ハンコ廃止の潮流に併せて、今後大幅に増加することが見込まれます。
2. 電子契約の構造
上記1の状況の説明の前提として電子契約の構造の概略を解説します。
(1) 従前
電子契約とは契約書への押印ハンコの代わりに、何らかの電子認証を行う手段で契約締結を行う手法をいいます。そして、従来は、各契約当事者が、政府その他の機関から電子認証を得て、これを契約書データに統合するという方法で用いられていました。この方法では、まず契約当事者が同じ電子認証手段を用いる必要がありますので、それぞれが違う電子認証手段では電子契約はできないことになります。この意味で非常に使いにくい制度でした。
(2) クラウド署名
現代においては、上記の電子契約手段とは異なり、クラウドすなわちインターネット上で、第三者が、契約当事者が契約締結がなされたことを認証するという電子認証方式がメジャーとなっております。そのイメージは、当該第三者が契約の立会人というのがわかりやすいと思います。
この仕組みは署名鍵をクラウド事業者が準備して署名をするため、利用者はその事業者に署名指示を行うだけ(クラウド事業者鍵を署名各当事者が用いる方式)というものとなり、非常に使い勝手が良いものとなりました。
3. 電子署名法の実質改正
(1)電子契約と電子署名法
現代のクラウドを用いた電子契約の手法は非常に便利です。
ところが、電子署名法上の壁をクリアできないと普及には至りません。
電子署名法は、上記民事訴訟法のルールを電子契約の分野に応用して、電子署名法2条及び3条の要件満たす電子署名があれば、その署名がなされた情報は、作成者の意思により作成されたものと推定すると規定しました。ただ、先のクラウド署名が電子署名に該当するかは非常に不明確でした。そこで、政府の規制改革会議において、電子署名法の実質改正ともいえる電子署名法における行政Q&Aの発出により、解釈上の手当を行いました。
(2) 電子署名法の規定
ア 電子署名法2条の構造
電子署名法2条は「利用者の意思に基づくことが明らかであれば同条の「電子署名」として認めるという構造をもっております。
では、どのような場合に利用者の意思に基づくことになるかといいますと、
B 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。 →改変検知機能
というものです。
この点に関し行政Q&Aは、
B タイムスタンプ技術(改変することができない)
という場合に、利用者の意思を認めることができるので、当該手法を具備した電子署名を電子署名法2条の「電子署名」として認めるという解釈を打ち立てました。
イ 電子署名法第3条の規定
(ア) 電子署名法第3条は、「固有性が認められる「電子署名」なら、推定効が発生することを認める」という構造を有するものです。
(イ) そこで、行政Q&Aは
B サービス提供事業者内部において暗号強度や利用者毎の個別性を担保する仕組みの仕組みを有するのであれば、「固有性」を認め、電子署名法第3条の要件を具備するという解釈を打ち立てました。
(ウ) 技術的な例としてサービス提供事業者の署名鍵及び利用者パスワード+サーバ及び利用者の手許にある2要素認証用のスマートフォン又はトークンなどを適正に管理することが考えられます。
(エ) 留意すべきは、身元確認は電子署名法の要件となっておらず、あくまでもサービス選択のための留意点に過ぎないこと点です。
4. 裁判例
(1)裁判例
電子署名を施した文書について成立の真正を争った裁判例は 日本においては現時点では存在しないといわれています。
(2) 電子署名の証拠の性質
実務では、プリントアウトしたものを文書として提出することで民事訴訟法231条準文書として扱われるようです。
ところで、事業者署名型電子契約の電磁的記録(またはその印刷物)が民事訴訟において証拠として提出された実例は既に存在するようであり、また、保全事件に関して被保全権利の存在を裏付ける疎明資料として事業者署名型電子契約の電磁的記録の印刷物を提出したケースが散見されるようです。また担当裁判官との債権者面接においても、事業者署名型電子契約を利用している点について特段の質問等がないまま発令に至ったという例もあるようです。
5. 残された問題
(1)法人代表者の印鑑証明に代わる正式な電子証明としての効力
法人代表者の印鑑証明書に代わる正式な電子証明書は、商業登記法に基づく電子認証制度によって発行される証明書のみであり、電子署名ではこれを代替することはできません。すなわち、電子証明法による電子認証は法人代表者ではなく自然人としての認証にとどまります。
(2)スマートフォンへの対応
法人の電子版実印として、商業登記電子証明書(と電子委任状)が存在しますが、いずれもPAdES(PDF長期署名:欧州で利用されている電子署名手法)やスマートフォンへの対応は現状予定されていません。
(3)利用の利便性
民間認証局による自然人電子証明書への資格情報付記は認定制度の対象外法人実印の代替としては利用しにくいという実情があります。
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