契約書における「不可抗力条項」の見直しによりトラブルを回避・軽減するための実務対応

2022.6.20

1.不可抗力条項によりトラブルを回避する

昨今のコロナウィルスの大流行により、ヒト、モノ、カネの動きが止まり、取引も大きなダメージを受けました。当然ながら、この流行は、予見ができずかつ制御できないものといえます。
そこで、取引先に対し期日内での納品ができなかったとしても、当社の責任ではないと主張したいところです。この場合の契約上の取り決めが不可抗力(force majeure)条項です。英文契約において、同条項を設ける際の注意点や例文について解説します。

2.不可抗力条項とは

(1)不可抗力条項を設ける目的

地震、感染症のような当事者が契約時に発生を予見できない事由(これを一般的に「不可抗力」といいます。)が生じた場合に、当事者が契約上の債務の履行をまぬかれるとする条項をいいます。

(2)不可抗力条項が設けられていない場合のリスク

不可抗力条項がないと、基本的には、自己の債務が、不可抗力の発生により債務が履行できず、かつそのような事由は契約時に予見できなかったことを証明できないと、損害賠償責任などの債務不履行責任を負うことになります。

(3)英文契約における不可抗力条項の例

英文契約書にいて不可抗力条項(force majeure clause)を定める場合の例文は以下のとおりです。

アSection 1

Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations), arising out of or in connection with this Agreement due to earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure.. However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party.

イSection 2

If any of the events specified in the section1 occurs, and it becomes difficult to achieve the purpose of this Agreement, all or part of this Agreement, each parties may terminate all of this agreement or the part of this agreement upon consultation on the condition of both parties’ agreement.

(4)邦訳

翻訳すると次のとおりです。

ア第1項

地震、台風、津波その他の天災、戦争、暴動、内乱、テロ行為、新型コロナウイルスを含む重篤な疾病、法令の制定・改廃、官公庁の命令・処分その他の政府の行為、争議、輸送・通信回線の事故、その他の不可抗力により、本契約に起因または関連して生じた損害の全部または一部(金銭債務を除く)についてはいずれの当事者も、不可抗力による本契約の全部または一部の履行の遅延または不履行については責任を負わないものとします。ただし、当該事象の影響を受ける当事者は、当該事象が発生したことを速やかに相手方に通知し、相手方に生じた損害を回復するために最善の努力をするものとします。

イ第2項

第1項に定める事由が発生し、本契約の目的を達成することが困難になった場合には、双方の合意を条件として協議の上、本契約の全部または一部を解除することができるものとします

3.不可抗力条項のポイント

契約書における不可抗力条項を定める場合のポイントは、「具体的な不可抗力事由が定められている」こと、その事由が発生した場合の「対応方法」などについて定められているかどうかが重要です。

(1)不可抗力の事由を明確に定めること

先の例文における「不可抗力の具体的な事由」を定めた個所は次のとおりです。

ア条項例(ハイライト部分です)

【section1】

Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations), arising out of or in connection with this Agreement due to earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure.. However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party

該当部分邦訳

地震、台風、津波その他の天災地変、戦争、暴動、内乱、テロ行為、新型コロナウイルスを含む重篤な疾病、法令の制定改廃、官公庁の命令・処分その他 の政府の行為、紛争、輸送・通信回線の事故、その他の不可抗力により、本契約に起因または関連して発生するもの。

イ不可抗力事由を具体的に定める理由

債務の履行中に不可抗力が生じた場合には、直ちに条項が発動して、相手方に主張できる必要があります。
売主の場合であると、納期が刻一刻と迫ってきている中で、履行遅滞を回避する措置を取る必要があるからです。この場合において、例えば「台風」「新型コロナウィルス」のような事由が不可抗力条項の中に明確に定められていると相手方に主張することが容易になります。つまり解釈の余地を残さないように明確にさだめることが重要なのです。

(2)不可抗力が生じた後の処理義務を明らかにすること

例文における「不可抗力事由発生時の当事者の対応」について定めた個所は次のとおりです。

ア条項例(ハイライト部分です)

【section1】

Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations),>arising out of or in connection with this Agreement due to earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure.(excluding monetary obligations). However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party

該当部分邦訳

ただし、当該事象の影響を受けた当事者は、当該事象が発生したことを速やかに相手方に通知し、相手方に生じた損害を回復するために最善の努力をするものとします。

イ不可抗力事由発生時の当事者対応について定める理由

条項例で不可抗力が生じた場合には、これにより期限内の債務の履行ができなくなった当事者は、

①相手方に速やかにその旨を通知すること
②相手方の損害を回復するための合理的な努力をすること

をしなければなりません。
例えば、売買契約において製品の輸送中に台風で製品が紛失したケースを考えると、①の条項がないと、買主には不可抗力により製品が期限内の履行がなされないことがわかりませんので、例えば解除行為などの対応策を速やかにとることができなくなります。また②の条項により買主としてはエンドユーザーに報告するために売主に対し、経緯報告等の最低限の買主の損害防止措置を行ってほしいところです。したがって上記の各条項が必要となるのです・。

(3)不可抗力が生じた場合の効果を明らかにすること

「不可抗力事由に該当する場合の効果」について記載した個所は、条項例として先に記載した第2項になります。

ア条項例(Section 2)

If any of the events specified in the section1 occurs, and it becomes difficult to achieve the purpose of this Agreement, all or part of this Agreement, each parties may terminate all of this agreement or the part of this agreement upon consultation on the condition of both parties’ agreement.

該当部分邦訳

第1項に定める事由が発生し、本契約の目的を達成することが困難になった場合には、双方の合意を条件として協議の上、本契約の全部または一部を解除することができるものとします。

イ不可抗力発生時の効果を定める理由

当該条項では、不可抗力が生じ、債務の履行が不能となった場合、合意解約ができる効果が定められています。
この条項がないと、契約の帰趨についてどのようにするのか改めて交渉を要することとなり煩雑です。また例えば一部不能の場合には、残部についてどのようにするのかについて交渉が必要となり、煩雑となります。したがって、このような条項が必要となるのです。

4.不可抗力条項に係る契約交渉の例

(1)基本的視点:売主の立場と買主の立場で意見の出し方が異なる

契約交渉での主張は売主側か買主側かで、利害が異なるので意見の内容が異なります。したがって、各立場に立った場合の提示する典型的な意見案を検討してみます。

(2)売主側に立った修正の例

ア不可抗力条項を明確化するとともに列挙されていない事由についても問題がないよう適用できるよう明らかに定め場合

(ア)修正の例(赤字が修正です)

Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations), arising out of or in connection with this Agreement due to(including, but not limited to) earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure. However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party
(イ)説明

新型コロナウィルスを例に挙げると、数年前にこの感染症を予見して契約を行った当事者はいないはすです。このような当事者が全く予見できない事由が生じた場合に、不可抗力条項を発動させるために、契約上の列挙事由は例示列挙であり、限定列挙ではないことを明らかにする必要があります。

イ不可抗力が生じた場合の通知義務を緩和する場合

(ア)修正の例(赤字が修正です)
Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations), arising out of or in connection with this Agreement due to earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure. (excluding monetary obligations ). However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event as soon as possible and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party
(イ)説明

原案では事由発生後、「直ちに」他方当事者に通知するという条項になっておりますが、事由によっては直ちに通知ができない場合もがあります。このような場合に、不可抗力条項を円滑に発動させるために「可能な限り速やかに」通知するという修正案です.。

ウ不可抗力が生じた効果について、自動解除条項があればこれを修正する場合の条項例(第2項)

(ア)「協議なくして当事者において解除できる」とする場合の条項例

①条項例

If any of the events specified in the section1 occurs, and it becomes difficult to achieve the purpose of this Agreement, all or part of this Agreement, each parties may terminate all of this agreement or the part of this agreement

②邦訳
第1項に定める事由が発生し、本契約の目的を達成することが困難になった場合、各当事者は、本契約の全部または一部を解除することができるものとし、その場合、各当事者は、本契約の全部または一部を解除することができるものとします。
③当初条項例と本修正条項例との違い
これまでの条項例との違いは、当事者が相手方との協議(=on the condition of both parties’ agreement.)なくして解除ができることにあります。

(イ)「買主の解除条件を付け制限」する場合の条項例

① 修正の例(赤字が修正です)

If any of the events specified in the section1 occurs, and it becomes difficult to achieve the purpose of this Agreement, all or part of this Agreement, each parties may terminate all of this agreement or the part of this agreement subject to both parties agreement.

② 邦訳

第1項に定める事由が発生し、本契約の目的を達成することが困難になった場合、両当事者は、双方の合意を条件として、本契約の全部または一部を解除することができます。

③当初条項例と本修正条項例との違い

上記(ァ)のような条項案に対しては、当事者(特に買主)の自由な解除を認めるのではなく、買主の解除については条件を付けることにより事由解除を制限する修正を求めることになります。

(ウ)補足

次のような修正案もあり得ます。(赤字が修正です)
①修正案

If any of the events specified in the section1 occurs, and it becomes difficult to achieve the purpose of this Agreement, all or part of this Agreement, each parties may terminate all of this agreement or the part of this agreement with reasonable reason.

②説明
合意解除条項の付加が厳しい場合には、不合理な解除を排除するために、広範な解除権を制限するために、解除には「合理的な理由」を付することを求める修正案もあります。

(3)買主側に立った場合の修正の例

ア不可抗力の除外条項から金銭債務(=代金支払い債務)を除外する場合

(ア)修正の例(赤字が修正です)
Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations), arising out of or in connection with this Agreement due to earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure.. However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party.
(イ)説明

日本法、英米法やドイツ、フランスなどの大陸法などにおいて金銭債務は、履行遅滞はあり得ても履行不能はなく、さらに不可抗力による場合でも責任をまぬかれないものとされている関係で、そのことを確認的に合意するために「(except for monetary obligations),」が規定されている場合がありますが、買主の基本的な債務は代金支払債務であるところ、原案のままでは、不可抗力条項の恩恵を買主が受けることはほとんどないことになりますので、当該条項の排除を求めることになります。

イ不可抗力が生じた場合の通知義務について売主のみ通知期間を定めること

(ア)修正の例(赤字が修正です)
Each parties shall not be liable to other for any loss or damage, in whole or in part (except for monetary obligations), arising out of or in connection with this Agreement due to earthquakes, typhoons, tsunamis or other acts of God, wars, riots, civil commotions, acts of terrorism, serious diseases including the new coronavirus, enactment, revision or abolition of laws and regulations, orders and dispositions by public authorities or other governmental acts, disputes, accidents in transportation and communication lines, or other force majeure.. However, the party affected by such event shall promptly notify the other party of the occurrence of such event within two(2) weeks and shall make its best efforts to recover any damages caused to the other party.
(イ)説明

原案の「promptly」(速やかに)も買主にとって不利とまでは言えませんが、やはり期間が明確に定められている方が、例えばエンドユーザーがいるような場合には、報告しやすいということがあります。従いまして、上記の修正を求めることとなります。

ウ不可抗力が生じた場合の効果について、自動解除とするよう定める場合

(ア)修正の例(赤字が修正です)

If any of the events specified in the section1 occurs, and it becomes difficult to achieve the purpose of this Agreement, all or part of this Agreement, each parties may terminate all of this agreement or the part of this agreement upon consultation on the condition of both parties’ agreement.

(イ)説明

買主側によって、取引物が納期に納入されない場合には、時としては早急に解除を行って代替先から仕入れを行いたいとする場合もあるかもしれません。このような場合にいちいち売主との協議交渉を行っていたので場、時機に即した取引ができなくなる可能性もあります。以上の事情を考慮して上記の修正案を主張することになります。

5.まとめ

予測できない事象を原因とする損害賠償や債務不履行のリスクを最小に抑える、或いは取り除くためにも、契約書の不可抗力条項を見直す、または新たに設けることは、企業における事業継続をおこなう上で欠かせない対応です。
天災や騒乱などは予期しえないものですが、企業活動の中で法的リスクが可能性として予見しうるものである限り、備え対応を行うべきものです。

契約書のリーガルチェック に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。