財産債務調書の提出義務者の拡大 | 令和4年税制改正(令和5年分以後の財産債務調書について適用)

2022.6.23

1 財産債務調書の提出義務者の拡大

令和5年分の財産債務調書の提出義務者が拡大されることになりました。

財産債務調書制度等の見直し(令和5年分以降)

従前の提出義務者
1 所得2000万円超  且つ 総資産3億円以上の財産保有
2 所得2000万円超  且つ 有価証券など1億円以上の財産保有

これら従前の提出義務者に加え、次の方も対象となります。

新たな提出義務者 (今回の改正)
3 所得基準なし        総資産10億円以上

 

制度拡張の趣旨として、「資産状況の変化をより幅広く把握し、国内外の金融資産の情報を照らし合わせる」とのくだりがあり、これは、海外への送金や国外財産の把握、暗号資産の把握など、国税庁から見て気づいた時には課税の時効(除斥期間)が経過して課税できない事態、調査が依然難しい海外財産の把握を目指しているものと推測されます。

2 マイナンバーによる紐づけの代わり?

本来は、マイナンバーで、すべての口座・財産を紐づけるのが、「国税庁」にとっては理想であるものの、プライバシーなどの問題から現実には難しいことから、財産債務調書の提出義務者の対象について、超々富裕層を追加したものと推測されます。

3 主要国にはない日本だけの制度???

財産債務調書制度のような、納税者に広範囲にわたり保有資産の報告義務を課す制度は、財務省のHPによると、主要先進国で、日本だけのようです。

下記URLの財務省の作成資料によると、先進国の中で日本のみが、網羅的に財産を報告する義務を課しており、先進国の中で、もっとも富裕層に厳しい目を注いでいるのは間違いないようです。

 財務省HP|「主要国における法定資料制度の概要(個人)」 

 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_10.pdf

 

4 「上位富裕層」との関係は?

国税庁のいう「上位富裕層」は、内部基準は明らかではないものの資産総額20~30億円の方を対象としていると言われ、継続的に監視されています。ただし、上記金額には、家族保有の財産額を含めての額とも言われています。

今回の改正による、お一人で「総資産10億円以上」を保有する方も、おそらく「上位富裕層」の判定要素に追加され、国税庁の継続的な監視対象になると予想されます。

そのため、総資産10億円以上の方は、今後の経済活動においては、より一層、監視対象となっていることを意識しておく必要があります。
SNSでの自身の生活振りなどの投稿は自重したほうがいいでしょう。

5 実際の作成はかなり大変(労多く、益は?)

財産債務調書の作成は、かなり大変な作業です。

相続税申告書を毎年作成するようなものなので、以下の点を注意しながら、資料を収集し、金銭評価をしなければなりません。

財産全てを漏れなく洗い出せるのか。
財産を国税の定めるどのカテゴリーに記載するのかの判断
財産の価額の記載はどうするのか。
12月31日時点の時価額の資料を一々収集しないといけないのか
(生命保険の解約返戻金、外貨建資産の円換算、美術品の評価など)。等々

 
作成の負担軽減策として記載省略できる美術品の額を100万円未満から300万円未満に拡大するとか、提出期限を3月15日から6月30日に延長するとか作成面での緩和はされるようですが、例えば各金融機関の残高証明書や年間取引報告書、画面のスクリーンショットを付けるだけで良いなどと簡易化しないと、事務負担の軽減の実感が湧かないと思われます。

6 今後の対応~どう福と成すか

⑴ 資産の「漏れ」が無いことを最優先して作成

財産債務調書の作成は、かなり大変ですが、一番重要なことは「漏れ」をなくすことと思われます。

なぜなら、財産債務調書における加算税の制裁は、漏れていた財産に対するもので、評価の間違いは制裁対象ではないからです。

⑵ 残された家族への思いやりとして

毎年提出しないで突然死した場合、家族が余計な相続税の加算税の納付を迫られるデメリットがあります。

特に、今回の超富裕層(上位富裕層)の方は、相続税額の絶対額が多額になるので、作成・提出をしておいて、過少申告加算税の税額が増えないようにする必要があると思われます。

また、残された家族からも、相続財産調査をテコにして相続財産を調査しやすくなるというメリットもあり、これも大きなメリットです(何もない状態から財産を調べると、弁護士の調査権限を駆使しても半年以上かかることはざらであり、相続財産調査と相続税申告期限との競争になります。)。

⑶ アセットアロケーションの見直す機会に

税金以外の視点で考えると、何となく頭の中で覚えていたアセットクラス(邦貨現預金、邦貨債券、邦貨株式、邦貨不動産、外貨債券、外貨株式、外貨不動産(リート)、オルタナティブなど価額変動の特性に応じたアセットクラスへの分類)や、実体の有る・無し(同族会社への貸付は回収可能性という意味では実体がないことが多いでしょう)を、「見える化」します。

そのため、アセットアロケーションのリバランス、リアロケーションなどを年に1回強制的に検討する機会にもなります。

実際に数字で見てみると、例えば、日本円の預貯金の額が全財産のほとんどを占めているといった、取らなくていいリスクを取りすぎていることがわかります。

⑷ 相続対策検討の機会

相続対策(遺産分割対策、相続税対策)は、一度対策をしたら終わりというものではく、5年おきくらいにメンテナンスする(見直しをするか検討する)必要があります。

財産債務調書は、そのいい機会を提供すると言えます。

⑸ 罰則に備えて

2022年6月時点では、財産債務調書の不提出について罰則による制裁はありません

しかしながら、国外財産調書制度と同様に、罰則による制裁が新設されることは、遅かれ早かれ避けられないと思われます。

また、所得税の加算税の加重制度が、相続税にも拡張されることも避けられないと思われます。
そのため、今から、財産債務調書の作成に取り組んだ方がよいと思われます。

7 当事務所にできること

財産債務調書等の提出

⑴ 税理士として

財産債務調書の作成は、漏れなく財産を挙げていく必要があり、一般の方には、普段から自身の財産目録を作成していないと、その作成は非常に難しいと思われます。

また、会社の顧問税理士には、個人の財産を知られたくないという声もよく聞きます。

⑵ 弁護士として

当事務所は、国外財産調書を含めた作成経験が豊富で、また、弁護士としての調査権限もありますので、財産債務調書をスムーズに作成・提出することが可能となります。

また、もしこれから結婚を考えておられる場合には、夫婦財産契約の締結を検討しなければ、財産から生まれる配当や利子が、離婚の際に分割対象となる恐れがあり、事前に対処したがよいでしょう。

当事務所では、個別のご相談もおこなっておりますので、お気軽にお問合せください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

税トラブル に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。