大阪弁護士会所属/登録番号:38530
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:145169
英文による秘密保持契約書(Non Disclosure Agreement)作成のポイントとサンプル書式
1 企業間取引における「秘密保持契約」の位置づけ
企業間取引おいては、取引を行うか否かの検討時点で、秘密保持契約が取り交わされます。
表題は「秘密保持契約書」「機密保持契約書」「機密保持に関する覚書」などであり、標題の違いこそあれ、要するに「秘密を守るための契約」です。
この契約を締結しないと提示した情報が第三者に流出することを防ぐことができないために、当事者双方が情報の提供を躊躇することになり、交渉が停滞するおそれがあります。
したがって、交渉を円滑に進めるためにも秘密保持契約の締結は重要な意義を持ちます。
2 秘密保持契約書作成のポイント
2-1 各条項の留意点
2-1-1 契約書検討全般的な視点
秘密保持契約書の検討は、あなたがしようとするビジネス上の立ち位置と無関係ではいられません。あなたが、情報を開示する立場であれば、相手方に一方的に義務を課し(これを片務的といいます。)、秘密情報の範囲はより広いものとします。
他方、逆の立場であれば、双方が義務を負うようにして(これを双務的といいます。)、秘密情報の範囲はできる限り狭いものとします。
このように契約の内容はあなたがやろうとしているビジネス上の立ち位置により、検討する内容が異なります。
2-1-2 「秘密情報」の定義
例えば、あなたが取引先との関係で、あなたのみ情報を提供し取引先は情報を受け取るのみといった場合には、以下の例1又は例2のとおり、秘密情報の定義において①片務的とし、②秘密指定がない広汎な定義を設けるという契約書を提示することになります。
“Confidential Information” in the Agreement is all of technical and business information about PartyA distributing to the Party B for the Transaction.
“Confidential Information” in the Agreement are all of information or material (but not limited to technical and business information ,business plans and proprietary business models, and/or media samples, prototype parts or other tangible embodiments of information) about PartyA distributing to the Party B for the Transaction.
“Confidential Information” in the Agreement is all of technical and business information which the Disclosing Party(who discloses Confidential Information prescribed in this Article among the parties,)marks confidential to the Receiving Party(who receives information by disclosing party about the party) for the Transaction by way of any of the following (1) to (4):
(1)Information in which such as “極秘”,㊙”, “秘密”(they mean secret)or “Confidential” is attached to the document and sample clearly stating by Disclosing Party”
(2) Information which Disclosing Party disclosed Receiving Party by an electromagnetic method (an electronic method, a magnetic method, an optical method, or a method which cannot be recognized by the perception of a person), and to the extent that the information is recognized, it is confidential to recognize that it is confidential, or information clearly stating that it is secret to the medium, package, attachment document (including information written by electromagnetic method) fixed information.
(3) Information that the Disclosing Party has disclosed orally that it is confidential at the time of the disclosure.
(4) Information on the structure, facilities, machinery, etc. within the facility which was made clear by inviting the Receiving Party to the Disclosing Party’s facility.
2 Notwithstanding the provision of item 3 of the preceding paragraph, the information of item 3 above is not deemed to be Confidential Information unless Discloser Party marks such Confidential Information in writing within two (2) weeks from the day of the oral disclosure
2-1-3 非開示義務の範囲
非開示義務の範囲は、秘密保持契約の中核的な要素の一つですが、これについても以下のとおり、ビジネス上の立ち位置によってさまざまなバリエーションがあります。
Receiving party should not disclose Confidential information any parry.
Receiving party should not disclose Confidential information any third party without prior written disclosure’s content.
Receiving party should not disclose Confidential information any third parry with the exception of hereunder party.
2-1-4 目的外使用禁止条項の規定
目的外使用禁止規定の実質的な価値は、秘密情報を用いた受領者の業務の改良行為及びこれを基礎とするノウハウなどの創造を禁止し、秘密情報のただ乗りを禁止することにあります。
Receiving party shall not use any Confidential Information for any reasons except to evaluate and engage in discussions concerning the Purpose.
サンプル分析などの使用も禁止する例
サンプルの供与が直ちに秘密情報の提供になるとは限りません。
なぜなら、既に公知になっているサンプルを提供する場合もあり、その場合には、通常秘密情報の定義から外れることになるからです。
その場合には、以下のとおり、サンプルを秘密情報に含め、サンプルの分析も禁止する条項を加える必要があります。
またいわゆるリバースアンエンジニアリング(R&D)をすること自体は違法ではなく、契約で禁止しないと自由にR&Dを許すことになります。そこで、以下のような条項を定める必要があります。
2-1-5 「秘密情報に基づく権利の帰属」条項
秘密情報を用いた成果物(特に発明などの知的財産)は、直ちに秘密法情報の帰属者に帰属することにはなりません。
発明とは作業なのでその作業をおこなった者に帰属することになり、その材料(秘密情報)を提供したにすぎない者に帰属することにはならないからです。
2-1-6 「契約終了時の情報が化体した媒体の返還」等の条項
契約が終了した場合、秘密情報が化体した媒体(書面、電磁的記録媒体)を相手方に供与していた場合、返還義務を定めないと直ちには返還されることがありません。
返還されないと契約終了により秘密保持義務が消滅したとして、第三者に漏洩される可能性があります。そこで、次の条項を定めます。
2-1-7 「義務違反の場合の制裁」条項
秘密保持契約に違反した場合の制裁条項がない限り、一般的な民事上の損害賠償に条項によることになりますが、それでは証明の負担などが大きく、実務的ではありません。
そこで、以下のとおり漏洩が生じてそれが、受領者の責任ではないと証明できない限り違約金を支払えと定める例があります。
なお、違約金の定めは損害賠償の上限と画するものといえますので、漏洩等におり生じた損害が違約金の額を超える場合には、超える部分の損害は甘受せざるを得ないので注意が必要です。
2-1-8 「(有効期間などの)一般」条項
一般条項の中で重要なものは有効期限です。有効期限が到来すると、秘密保持義務などの契約上の各義務は消滅してしまいます。その結果、情報が第三者に漏洩される危険が増大します。
例えば、有効期限満了前に相手方に開示した情報については、特に漏洩の危険について注意しなければなりません。
そこで、以下のとおり、契約終了後も一定期間、契約条項が効力を有する旨の条項を設けることがあります(下記例では(1)で有効期間1年、(2)で一部の条項について契約終了後3年間の効力継続が規定されています。)。
3 まとめ
一般情報の漏洩を完全に防ぐためには秘密保持契約の締結は、一つの要件ですが、それのみでは足りません。
秘密保持契約の締結は相手方に情報の保全を法的に拘束することは可能であっても、物理的に拘束することはできないからです。
ところで、開示しない情報は基本的には漏れることがありませんので、情報を相手方に開示する場合には吟味して、必要な情報に限って開示するように心がけてください。
4 当事務所でのサポート
英文の秘密保持契約書は、言語が英語だけにとっつきにくい一面があり、かつ独特の表現があるため、どのように付き合えばよいかわからない部分が多々あります。
このような場合に、当事務所では英文契約における専門的知識・ノウハウを有している弁護士が在籍しています。
ご相談、ご依頼いただくことで英文契約への対応による時間を減らして、ビジネスに集中できる環境を作ることができ、より生産性を上げることが可能となります。
是非一度、お気軽にお問合せください。
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