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親の身柄の奪い合い

親を取り込んで、財産を独り占めしようとしたとして、遺言書の無効と不当利得返還請求の裁判を起こされました。

相談者
年代:50歳代

ご相談の経緯

Aさんの父は一人暮らしでしたが、近くに住む姉が世話をしていました。しかし、認知症の症状が出るなど、徐々に一人暮らしが無理になってきたので、独身のAさんは勤めをやめて父の介護をすることにし、バリアフリーの家を購入して同居を始めました。
父の財産を巡って、Aさんと日頃からいがみ合っていた姉は、このままではAさんに父の財産を取り込まれてしまうと思い、ケアマネージャーを通じて父の診断書を入手し、家庭裁判所に法定後見の申し立てをしました。裁判所からは弁護士の成年後見人が選任されましたが、父はその後しばらくして亡くなってしまいました。 父は、Aさんひとりに全ての財産を相続させるという遺言を残していたので、Aさんはすぐに、家庭裁判所での検認と執行者専任手続を済ませ、預貯金や不動産の名義変更をしました。

姉はかねてより、Aさんが認知症の父に自分に都合のいい遺言書を書かせるのではないか、父の預貯金を引き出して隠し持っているのではないか、と心配していましたので、その事実を知ると、家庭裁判所に、遺言書の無効と不当利得返還請求の申立をしました。
裁判所から通知を受けたAさんは、当事務所に相談に来られました。

ご相談のポイント

1.遺言書の正当性の証明

Aさんは、お父様から遺言書のことを聞いていたので、裁判所からの突然の通知に驚いてしまいました。万一お姉様の言い分が通れば、お父様の思いは無視されてしまうし、今の住居に住めなくなる可能性もあります。遺言書がお父様の意志で書かれたものであることを証明するにはどうすればいいか、というのが一番のご相談点でした。

2.不当利得返還請求への対応

Aさんの様に、被相続人と一緒に住んでいると、きょうだいなどから、勝手に預貯金を使い込んだり、隠してしまっているのではないかと疑われるのは、実はよくあります。
他の相続人に無断で引き出された預貯金は、不当利得返還請求をすることができ、相手が返還に応じなかった場合は、裁判所に訴訟を提起することになるのですが、Aさんはそのような事実はないが、裁判は避けたいとのご意向でした。

たちばな総合法律事務所に依頼された結果

1.遺言書の正当性を証明しました。

遺言書の正当性を裁判で争うには、遺言書の内容作成時のお父様の病状の確認が必要です。
遺言書は自筆公正証書遺言でしたが、内容と作成日を確認したところ、書式などに法的な問題はありませんでした。
作成時の病状については、お姉様がケアマネージャーを通じて当時の診断書を入手していましたが、当事務所も、カルテのコピーを依頼した結果、認知症の発症は認められるものの、遺言書作成に支障があるとまでは言えない状態であったことがわかりました。

2.預貯金の引き出しについて説明しました。

Aさんに確認したところ、お父様の生活費や住宅の取得の為に預金を引き出したとのことでした。住宅は、購入当時お父様名義になっており、Aさん自身も購入資金の一部を負担していました。しかも、Aさんの使い込みを心配したお姉様が、法定後見の申し立てをしていたため、もしもAさんがお父様の口座から不当に出金していれば、成年後見人のチェックで問題になり、刑事告発ということにもなりかねません。しかし、Aさんが同居して生活全般の世話をしていたという事情もあり、後見人からの指摘はなかったので、不当利得とみなされることはないと、お姉様に説明しました。

3.弁護士の説得で和解成立へ

Aさんきょうだいの関係は、以前からお父様の身柄をどちらが確保するかでこじれており、話し合いでの解決は困難な状況でした。しかし、お姉様が訴訟を提起されたことから、Aさんも弁護士への依頼を決められ、審理に約1年半費やしましたが、裁判官からの説得もあり、和解が成立しました。

弁護士からのコメント

身内の間で感情的になり、話しがこじれてしまったときは、弁護士にご相談ください。
過去の経験を基に、ベストな解決への道筋をご提案できますし、裁判になった場合の結果も予測できるので、ムダな争いを防ぐことができます。
2.後見制度には「法定後見」と「任意後見」がありますが、Aさんの姉が申し立てた「法定後見」は、親の判断力が低下した後に本人が自由に財産を処分できなくなるので、離れて暮らす子どもが、親の財産を保全したいときに便利な制度です。本人の財産は、死亡するまで、家庭裁判所に選任された弁護士などの成年後見人に監視され、凍結されることになるので、自由に処分できなくなり、きょうだいが使い込むのを防ぐことができます。

まとめ

遺産相続では、自分だけが損をしたのではないかと心配したり、逆に、損をさせたと訴えられる方が、結構いらっしゃいます。そんな場合、状況に合わせて色々な解決方法がありますので、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

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