相続税 税務調査~調査対象の選定基準②

2015.12.21

1 税務署は生前から様々な情報を蓄積している

 相続人や受遺者は、被相続人が亡くなられてから遺産関係の書類や情報を収集することが多いです。やはり、生前から財産関係を聞くのは、心情的なハードルがあるようです(なお、この点は、ファミリー全体のいくすえをしっかりさせ、孫の留学や起業など将来の選択肢を確保するために、親の財産を聞くのだという姿勢で聞けば、案外教えてくれます)。
しかし、税務署は、被相続人が亡くなってから慌てて情報を収集するわけではなく、前回ふれたように、被相続人の生前から様々な情報を蓄積しています。そのため、税務署は、「相続税のお尋ね」を送付したり、「相続税の申告書」を申告期限までに送ってくるわけです。

2 財産に着目した選定基準

 さらに、税務署は、相続税の申告書の提出を受けてからも、様々な情報を収集して、申告書の相続財産が実際よりは少なくないかチェックしてきます。財産関係でチェックする項目としては以下のものがあります。

 ①生前の所得に比べて、申告書の総遺産が少ない

 亡くなった方の生前の所得に比べて、申告書上の相続財産が少ないと、税務署は、申告漏れ、家族名義の財産に相続財産が紛れているのではないかと疑います。
算式としては、
{(収入-400万円(生活費)-税金)×5年+負債額 }>申告書の遺産総額
の場合には、申告漏れの可能性が出てきます。
そのため、被相続人や相続人の預貯金口座について、過去10年分の履歴を取り寄せて、被相続人の口座から相続人の口座へ金員が流れていないかという更なる調査を行うことになります。

 ②申告書に不動産の減額要因の記載がある

 不動産の評価を下げる特例としては、小規模宅地の特例、広大地の特例、また道路との段差が著しいなどがありますが、税務署はこのような減額要素について要件を満たしているかを念入りにチェックします。不動産の場合は、要件を満たしていない場合には追徴税額が大きくなり、税務署員の勤務評価に反映されやすいことから、不動産のチェックはほかのものより念入りといえます。
特に「広大地」については、減額幅が大きいため、広大地の要件を入念にチェックします。なお、広大地については、納税資金に余裕があるのであれば、当初申告では広大地として申告せずに、更正の請求で広大地を主張したほうが無難です(当初申告で広大地の適用を主張して認められなかった場合、結果的に過少な申告となり、10~15%の過少申告加算税が賦課されてしまいます)。

 ③申告書に債務の「変形資産」がない

 保証債務であれば別ですが、借金したお金は、何らかの形(預金、不動産など化体財産、変形資産)で残っているのではないかという観点から疑いの目で税務署員は見てきます。

 ④申告書の多額の預貯金・有価証券の形成経緯が不明

 相続税の申告書に、多額の預貯金・有価証券の記載がある場合、被相続人が継続して高額納税者であった場合には、稼いだ所得で形成したと説明できます。
しかし、そうでない場合には、本当に被相続人の相続財産なのか、他の相続人も同様の名義財産があるのではないかなどの疑いを招きます。

 ⑤海外に財産がある事案

 海外の金融機関に一定額以上の送金をすると、金融機関が調書を作成して税務署に提出しますので、税務署は、海外の財産があるかを把握している場合があります(他に国外財産債務調書で把握している場合もあります)。相続人や受遺者としては、海外の財産調査に苦労するので仕方がない面はありますが、海外の財産が申告書から漏れるケースが多いです。そのため、海外に財産がある場合には、注意が必要です。

3 疑問を持つと、徹底的に調べられる?!

 以上が財産に着目した調査の選定基準ですが、国は、疑問を持つと、預貯金の10年分の履歴の収集など徹底的に調査してきます。
申告に当たっては、疑念を持たれないような相続財産の調査と申告書作成が必要となります。
また、遺産をこれから残す方は、不必要な税金を支払わずに済むように、早い段階から、遅くとも60~70歳から遺言書作成などで財産関係を明確にして相続対策に取り組む必要があります。

4 お困りの場合には

 相続対策・生前対策を進めたい、「相続税についてのお尋ね」が来てどうしたら良いか分からない、相続税の申告書の作成をどうしたらよいかわからない、相続税の税務調査で税務署員への受け答えに不安がある、相続手続をどう進めたらよいか分からないなどでお困りであれば、たちばな総合法律事務所へご相談ください(初回30分無料)。 ご相談のご予約は、https://law-tachibana.sakura.ne.jp/law-tachibana.jp/contact/ 又は06-6467-8775にお電話いただいてご予約いただき、お気軽にご相談ください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

税務調査の立会・不服申立 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。