相続放棄をすると、子や孫は代襲相続できなくなる?相続放棄の注意点を徹底解説

2025.3.10

相続放棄をすると、子や孫は代襲相続できなくなる?相続放棄の注意点を徹底解説

相続をめぐって、財産状況や家族の関係性によって複雑な問題が生じることがあります。

相続は資産だけでなく、借金や連帯保証人の地位といったマイナスのものも引き継ぎます。
その際、家庭裁判所で相続放棄手続きをおこなうことで、相続関係から解放されます。

また、相続放棄をすると、次順位の方に相続権が移ります。

ただ、故人の相続人となる方が、故人よりも先に亡くなっている場合に、その子が相続する「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」制度があり、例外的に相続人となるケースが存在します。

本記事では、相続放棄と代襲相続の関係についてくわしく解説します。

1.「代襲相続」の解説

特に故人(被相続人)が遺言書で遺産分割の内容を指定していない場合、法律で定められている順番で相続人となります。

配偶者は常に、法定相続人となります。
それ以外は
直系卑属(ちょっけいひぞく。子や孫など)
直系尊属(ちょっけいそんぞく。父母、祖父母など)
兄弟姉妹
の順番で、先順位の相続人が居ない場合に次順位の方へと移ります。

この際、「相続人となるはずの方が、相続時にすでに亡くなっている場合」に、その子どもが相続人となるケースがあります。
これを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」と言います。

例えば、父親が死亡し、その子が相続人となるケースを考えます。
父親の死亡よりも先に子どもが死亡している場合、その子(父親の孫)が存命の場合には、孫が代襲相続をします。

代襲相続は、相続人の死亡だけでなく、「相続廃除」「相続欠格」も代襲相続が発生する原因となります。

なお、先ほどの繰り返しになりますが相続人が相続放棄をした場合には、代襲相続は発生しません

そのため、放棄の対象となった被相続人の相続においては、相続人の子に相続権は移りません

1-1.参考:相続欠格・相続廃除と代襲相続の関係

相続欠格は、民法第891条に規定されている制度で、一定の事由に該当する者が当然に相続権を失う制度です。

この相続欠格は、裁判所の審判などを必要とせず、欠格事由に該当すれば当然に効力が生じます(自動的に相続権を失う)。
なお、相続欠格者に子または直系卑属がいる場合、その者が代襲相続することになります。

相続欠格となる事由は以下の通りです。

参照 相続欠格に該当する一例
☑ 故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を死亡させ、または死亡させようとして、刑に処せられた者
☑ 被相続人の殺害を知りながら、告発または告訴しなかった者(ただし、その者に是非の弁別がない場合、または殺害者が自己の配偶者もしくは直系血族である場合を除く)☑ 詐欺または強迫によって、被相続人の相続に関する遺言の作成、撤回、取消し、または変更を妨げた者

☑ 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者

☑ 相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、または隠匿した者

 

一方、相続廃除は被相続人が生前に家庭裁判所に請求することで、特定の推定相続人の相続権を失わせる手続きを指します。

被相続人の意思にもとづいて特定の相続人の相続権を失わせる制度ですが、廃除が認められるためには、推定相続人が被相続人に対して①虐待をしたとき、②重大な侮辱をあたえたとき、③その他の著しい非行があったときに限られます。

この相続廃除のケースも、廃除された相続人の子に代襲相続が発生します。

相続欠格、相続廃除はともに対象となる相続人が相続権を失うという点では共有していますが、相続放棄と異なる点は代襲相続が発生する点が挙げられます。

 

2.「相続放棄」の基礎知識

次に、相続放棄についての基本知識について解説します。

相続放棄とは、被相続人の遺産に関してプラスもマイナスも一切受け継がない手続きです。
相続放棄の申出(申述)が家庭裁判所に認められると「最初から相続人ではなかった」ものとして取り扱われます。
そのため、相続放棄をすると、当該相続に関わる権利を一切引き継がないことになるため、その後に残される遺産や負債に対して責任を負うことはありません。

相続放棄は、被相続人の借金の額が膨大な場合や、複雑な親族関係から距離を置きたい場合に有効となるため、一定のメリットがあります。
しかしながら、将来的に残った財産に対して一切の権利主張ができなくなる点がデメリットとして挙げられます。

2-1.相続放棄後の相続権(相続順位)

くり返しになりますが、本来であれば相続人として順位が高かった人が相続放棄をすると、次の相続順位の者が繰り上がり相続にとなります。
たとえば、子どもが相続放棄した場合には、直系尊属である親に相続順位が移ります。

2-2.相続人全員が不在の場合(財産財産清算人)

相続放棄が重なったり、最初から相続人となる方がいない場合など、結果として相続人が一人も残らないケースがありえます。

このような場合、家庭裁判所の相続財産清算人という制度が活用されることがあります。
家庭裁判所が選任した相続財産清算人は、相続財産から故人の債権者(相続債権者)への支払や特別縁故者(内縁関係にある方)への財産分与をおこなったうえで、最終的には国庫に帰属させます。

なお、相続放棄をおこなった場合でも、相続財産への管理義務が残る場合があります。
この場合、相続財産清算人に財産を引き継ぐことで、管理義務から解放されます。

2-3.相続放棄の期限

相続放棄は、被相続人の死亡を知った日の翌日から3カ月以内に手続きを行う必要があります

これは、財産や債務の調査を行うために設けられた熟慮期間とも呼ばれるもので、期限を過ぎてしまうと原則として相続放棄は認められません。

ただし、正当な理由がある場合は、家庭裁判所への申し立てによって期間の延長が認められる可能性もあります
たとえば、遺産の全容を確定するのに時間がかかるケースや、海外在住で手続きが遅れるケースなどが代表的です。

期限内に相続財産のすべてを把握するのは難しいかもしれませんが、少なくとも大まかな負債状況や不動産の有無などを調査し、相続放棄をするかどうかの方向性をつかむことが重要です。
必要であれば熟慮期間内に、家庭裁判所に相続放棄の期限延長を申請するなどの対応が必要となるため、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。

2-4.相続放棄の方法

相続放棄は家庭裁判所で行う手続きであり、相続放棄申述書や添付書類を提出しおこないます。
手続きを完了させるためには被相続人の戸籍謄本や住民票除票などが必要となるため、事前に必要書類をリストアップしておくと手続きがスムーズです。

財産内容が複雑または負債が多い場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することで、必要書類の収集から手続き完了までを効率的に進められます。

なお、相続放棄申述の手続きは、弊所でもサポートしています。
書類の収集、書面作成、裁判所とのやりとり、相続債権者への連絡など「相続放棄の申述」が受理されるよう、しっかりと対応させて頂いています。
ぜひお気軽にご相談ください。

 
 

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相続放棄に関するサポートについてご案内しています。

 

 

3.「相続放棄」で代襲相続が発生しないケース

相続放棄をした場合、相続放棄をした被相続人との関係において代襲相続は生じません。

ただ、他の被相続人との間で、代襲相続が発生するケースはあります。
次に、「代襲相続」が発生するケースについて解説します。

4.「相続放棄」で代襲相続が発生するケース

相続放棄をしても、条件次第では代襲相続が生じることがあります。
どのような場合か、具体例から把握しましょう。

相続放棄の原則としては代襲相続が生じませんが、厳密には別の時期の相続が絡むことで代襲相続人になる場合があります。

4-1.親の相続放棄後、祖父母の代襲相続人となるケース

死亡した親の相続放棄をした後に、その祖父母の相続は発生したケースでは代襲相続が発生します。

祖父母の死亡により、その子どもである親が本来の相続人です。
しかし、親は祖父母よりも先に死亡しているため、祖父母について代襲相続が発生し、祖父母の相続人となります。

4-2.子の相続放棄後、祖父母が代襲相続人となるケース

被相続人が死亡し、相続人であるはずの配偶者や直系尊属、直系卑属が相続放棄をしている場合、第3順位である被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

しかし、被相続人よりも前に兄弟姉妹が死亡している場合、その子どもが代襲相続人になります。

これらの事例から、相続放棄の対象となった被相続人以外で発生した相続において代襲相続人となる可能性があることが分かると思います。

どのような時においても、代襲相続は発生しないわけではないのでご注意ください。
「絶対に自分には代襲相続は発生しない」という勘違いから、相続放棄の期限を過ぎてしまい、負債を背負うようなことは避けなければなりません。

 

5.代襲相続を踏まえたうえでの相続放棄のメリット・デメリット

代襲相続の概要を踏まえたうえで、相続放棄を選択するメリットとデメリットを整理してみましょう。

相続放棄には、負債の回避や相続手続きの簡略化といったメリットがあります。

一方、当然ながらプラスの財産を一切受け取れない、大きな資産を放棄することになるかもしれない、といったデメリットも存在します。

例えば、遺産の中に、子や孫に相続させたいと考えていた資産がある場合には、相続放棄をすることで代襲相続の発生可能性を潰してしまうことになります。
そのため、相続放棄による影響の範囲をしっかり見極めることが大切です。

5-1.相続放棄した方が良いケース

相続放棄が有益となる典型的なケースは、被相続人に借金が多い場合です。

遺産の中に、代々引き継ぎたい資産があったとしても、その資産の価値を上回る莫大な借金などがある場合、相続するか放棄をするかよく検討することが必要です。

5-2.相続財産調査の必要性

一度、相続放棄をしてしまうと原則として撤回することはできません。
そのため、資産と負債の比較のうえで、判断をするためにも財産調査は非常に重要です。

被相続人の銀行口座やクレジットカードの状況、公的機関の滞納情報などを可能な範囲で調べ、プラスの財産とマイナスの財産のバランスを把握しましょう。
調査の結果、負債が非常に大きいことが判明した際には、早期に相続放棄をすることで不要なリスクを回避できます。

 

6.まとめ

相続放棄と代襲相続の関係を理解し、トラブルを未然に防ぐためにも正確な知識を持って対応することが大切です。

相続放棄をすると、本来の相続人の地位が失われるため、代襲相続も発生しないのが一般的です。
とはいえ、特定の財産を承継させたい場合には相続放棄により、その可能性を潰すことになるため、相続放棄による影響の範囲も検討することが大切です。

相続問題は人生で何度も経験するものではありませんが、その一度の対応が今後の家族関係や資産状況を左右する重要な問題です。
専門家への相談や事前の情報収集を怠らず、正確な理解のもとに適切な相続放棄の判断を行いましょう。

たちばな総合法律事務所では、相続放棄の申立てについてもフルサポートをしています。
また、相続放棄だけでなく遺産相続問題、相続税申告などについて初回無料相談を実施しています。

メール、電話、LINEなどでご予約を受け付けております。
ご相談は、「無料電話相談(10分)」「来所相談(60分)」による方法でおこなっています。

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相続、借金について不安やお悩みのある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

このコラムを書いた弁護士
弁護士 橘高和芳(きったか かずよし)

大阪弁護士会所属 52期/登録番号:27404
近畿税理士会所属 税理士/登録番号:130995

遺産相続 に関する解決事例

  • 橘高和芳弁護士が担当した遺産相続に関する事例が
「金融・商事判例 No.1553号」(2018年11月15日号)
に掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
週刊ダイヤモンド「相続&事業承継(決定版)」(2018年12月号)
に掲載されました
  • 相続問題事例
  • 遺産相続・遺言書に役立つ書式集
  • 遺産相続トラブル解決チャート
  • 2016年10月 日経MOOK「相続・事業承継プロフェッショナル名鑑」のP84に「羽賀・たちばな会計事務所」が、P134に「たちばな総合法律事務所」が掲載されました。
  • 弁護士・税理士 橘高和芳が
「フジサンケイビジネスアイ」
に掲載されました
(2015年11月2日(月)27面)
  • 旬刊「経理情報」2016年4月20日号(NO.1444)に「D&O保険の保険料にかかる税務ポイント」を寄稿いたしました。